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なぜ僕がこうなったのかについての2、3の理由(22)

 陽が傾く時刻が徐々に早まっていることにあらためて気づかされた。金曜の3限目が終了して学バスの停留所へ向かう道が、夕日のせいでやたらと赤く染められている。まぶしくて目を細めて、腕時計を確かめるとまだ4時台だった。このまま帰るのも何だかしゃくだから、図書館に寄って新聞で上映案内を探そう。映画でも観れば気が晴れるかもしれない。こんなとき、Pと飲むことができればいいのだがとふと思った。
 

 そういえば最近学内でPを見ない。UやYたちと同じで、就職活動にあけくれているんだと勝手に思っていたが、たまに軽く飲もうと電話しても留守電であることが何回かつづいた。確かに、就職活動をしてるんだろう。継ぐべき家業があるとは聞いたことがない。大学院へ進むなど月旅行へ行くのと同じくらいPには縁遠い話のように思われる。図書館脇のベンチに腰を下ろし、人の流れを見ながらPの姿をうつろに探してみる。何人かの着ている服がもう冬物になっていることに気づく。キャンパス内の大通りに沿って植えられているイチョウはすでに色がついていた。

 夏が過ぎた余韻に浸っているあいだに冬がもうすぐそこに来ている。3号館裏にある池は夏には藻が繁殖して深緑色になったのが、今は灰色のほうがむしろ濃い。池をすりばち状に取り囲む階段にはところどころに人影が見える。午後のひとときに人知れずたそがれるにはもってこいの場所なのである。僕はいつも、そこにカップルがいないかどうかを確かめる。カップルかどうかわからない距離に座ってる男女2人もいれば、仲良く肩を抱き合う2人もいる。そんな奴らを見つけると目が離せなくなる。のぞき見に似た行為だとは思うが、見られてもしょうがない場所にいるほうが悪い。見られたいに決まっている。

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