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なぜ僕がこうなったのかについての2、3の理由(19)

 秋雨前線が東京近郊を霧雨で覆った日、BBを車に乗せていた。この雨が二人の仲を親密にさせるとは思えない。少なくとも今は。BBは雨に降られて遊園地へ行くことが億劫になってしまったといい、口数も心なしか少ない。好きなCD持ってきたんでしょ?かけなよ、と言っても、んん、あとで、と返されて取りつくしまがない。仕方なく都内を適当に車で流していたが、だんだん道が混みはじめ、僕の神経をいらいらさせるに十分な様相を呈してきたので、とりあえず関越方面の高速道路に乗った。

 BBはどこへつれてくつもり?と聞いて、顔をみると、意外にもうれしそうににこにこしていたから、地の果てまでも、と教えてやり、ひざをさすると、ふーん、と鼻で返事をしながら彼女はようやく持ってきたCDケースをバックから取りだした。
 しばらくのあいだ同じ景色がつづく道を走ったが、どこで降りるか何も考えていなかった。このまま走ったら本当に地の果てまでいけるような気がした。
 

 「この調子でいけば本当に地の果てまでいけそうじゃない?いってみようか」
 「だめ、わたしは経験あるけど、高速ってどこまでもまっすぐで速くて、ここのままどこへでもいけそうな気がしてくるでしょ。でも、すこぶる快調に走ってても、あるとき突然疲労が襲ってきて、これ以上一歩も踏み出せないっていう疲労、そういう種類のものが全身をつつんでしまうときがくる。それで、看板を見なおし、次のサービスエリアまであと何キロばかりが気になりだし、一番近くのサービスエリアにやっとのことでたどりついたら最後、動けなくなっちゃう。とばしすぎだっていうのね。頭に体がついてかなくてオーバーヒート。ちゃんちゃん」
 

「運転できるの?それで、どうやって帰ったの?」
 無免だったけどね、どうやって帰ったかあまり覚えてない、そのうち自分で運転したんじゃない、ははは、とBBはとってつけたような笑いをした。
 気をとりなおして、カーステレオから流れる曲に聞き入った。BBがかけたのは男性ダンスユニットが歌う、流行のポップスだった。この中の誰が好きなの?と聞くと、このこ、と指差した写真にあったのは坊主あたまの、目のくりくりした、無精ひげに片方ピアスというひとりだった。どこがいいのかわからないが、BBに言わせればかわいい、のだそうだ、坊主あたまのどこがかわいいのかを熱っぽく語りながら、傍らにあった道路地図をBBは開いていた。

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