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通り過ぎるもの

  寒暖差が激しいと、体調が悪くなる患者さんが多くなる。去年の秋も八十歳を超えた男性患者さんが立て続けにお亡くなりになった。私の父も去年の秋、九十歳を超えて天に昇った。きっと大往生。長く苦しむこともせず、入院三か月で逝ってしまったのだから。そうは思うのだけど…。

 最近入院患者さんの発熱が多く、食事量や体調の変化に気をつけていた。
 山田さん(仮名)は最近体調が悪く、昨日も夕食がなかなか入らなかった。そこで、食事介助をして栄養があるゼリーを食べてもらった。
「元気になるように、明日はたくさん食べて下さいね」
「うん、わかった。ありがとう」





 早朝、突然の急変。ドクターがくるまで看護師が心臓マッサージをする。アンビューバックを口に当て酸素を入れる。顔色は白く、心臓マッサージのリズム通りに心電図のモニターが揺れる。ドクターが到着、点滴のラインから薬を入れて、気管挿管をする。ドクターが山田さんの瞼をめくると、瞳孔は開いている。

 家族の方に急変したことを連絡をする。家族が見えられるまで山田さんは頑張った。そして静かに旅立っていかれた。



 夜勤明け家に帰るが、眠たいはずなのに眠れない。慌ただしく命が通り過ぎていく。また、去年のように続くのか…。


 こんな日はバカみたいに笑えるお笑い番組を見たい。何の役に立たなくてもいい。頭を真っ白にして笑い転げるだけでいい。悲しい映画を見て思いっきり泣くとすっきりすると言う人もいるけれど、そんなことは私にはありえない。身体中を笑いの細胞で満たさないと、悲しみで凍り付きそうで怖いんだ。




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