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とにかく楽しませる!という心意気〜【Opera】オペラdeミルフィーユ『コジ・ファン・トゥッテ』

 ソプラノ高橋愛梨が中心となって結成された団体、オペラdeミルフィーユの旗揚げ公演がJ:COM浦安音楽ホールで行われた。選ばれた作品はモーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』。観るたびに腹が立つ(!)結末を持つ、しかし音楽的にはモーツァルトならではの素晴らしいアンサンブルがキモのこの作品を、どう料理するのか。演出は「アイデアの宝庫」として知られる太田麻衣子なので、一筋縄ではいかないだろうなと想像していたが、想像通り、いや想像以上に一筋も二筋も縄を捻りまくった舞台だった。

 太田はまず舞台を病院に設定。コロナで接触恐怖症に陥った人々が「SDS(ソーシャル・ディスタンス・シンドローム)」を患って入院している。フィオルディリージ、ドラベッラ、フェランド、グリエルモの4人もSDS患者。ドン・アルフォンソはドクターで、フェランド・グリエルモとの賭けの内容は「相手に触ることができたらアルフォンソの勝ち」ということになっている。フィオルディリージたちはアルコールスプレーを首にかけ、そのスプレーにはそれぞれの恋人の写真を貼り付けているところが可愛い。アルフォンソに協力するデスピーナは病院の掃除婦で、医者に変装するところはピンクの服のセクシー・ナースに。「オペラが現代を生きるように、作品の進化に取り組む」というオペラdeミルフィーユのコンセプトが十分に活かされた読み替えだったといえる。

 大体『コジ・ファン・トゥッテ』の物語は、「女の貞操は南国の不死鳥」という発想からしてムカつくし(だったら男の貞操は蓬莱の玉の枝か火鼠のかわごろもじゃんw)、変装して試すのになんで自分の恋人じゃなくて相手の恋人を誘惑するのか、色々意味わかんないんである。そのあたり、「SDSが蔓延した病院」というフィクション設定にすることであまり気にせずに物語に没頭できる効果はあったと思う。ただ、それでもやっぱりラストの納得できなさは残る。特に今回、仕掛けが全部バレたあとでそれぞれ元のカップルに戻って結婚となるところ、女子が2人ともグリエルモにくっついてしまったのがよくわからなかった(そして当のグリエルモはどっちの女子のラブラブっぷりにもあまりいい顔をしない)。

 演奏は休憩20分を含む150分で、初めてオペラを観る人でも飽きずに楽しめるボリューム。また、歌唱は原語だが、日本語のセリフと日本語のレチタティーヴォを混ぜ込み、さらに字幕もつけるところも丁寧(台本はドン・アルフォンソを歌った大山大輔)。そういう意味では、出演者全員(指揮者、器楽奏者も含めて)が「楽しんでもらいたい」という気持ちを持って舞台に臨んでいるのがひしひしと伝わってきて、その気概に乗せられまんまと笑い楽しんだ90分だった。

 歌手陣で印象に残ったのはドラベッラを歌った高野百合絵。高野は2018年日生劇場での『コジ・ファン・トゥッテ』(菅生友演出)で同役を歌っているだけあり、さすが役がきちんと自分の中に入っていた。男性陣ではグリエルモの澤地豪が、柔らかい音色と安定感のある歌唱で好感が持てた。

 J:COM浦安音楽ホールは初めて訪れたが、響きも良く、300席ほどでモーツァルトを演奏するのにとても適していると思う。内装も豪華ではないが品がよく、非常に心地よい時間を過ごせるホールだと感じた。コンパクトでいいので良質なオペラをこのホールでもっと聴きたい。

2021年2月27日、J:COM浦安音楽ホール。

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