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【Opera】東京二期会『ノルマ』

 今年から新しく始まった東京二期会のオペラコンチェルタンテ・シリーズは、これまで二期会があまり取り上げてこなかった作品を、映像つきのセミ・ステージ形式で上演するという企画。今回の『ノルマ』はその第1回となる。『ノルマ』といえば藤原歌劇団が昨年7月にマリエッラ・デヴィーアを招いた公演が記憶に新しいが、世界的にベルカント・オペラの潮流がきている今、東京二期会もその流れに乗りつつ新たな挑戦をしていこうということだと思われる。

 とはいえ、ベルカント・オペラを上演する際にもっとも重要なのが「歌手」であることはいうまでもない。特に『ノルマ』は、数あるベルカント・オペラの中でも特にタイトルロールが難役であることで知られる作品。それは、音楽的な難度の高さに加え、ノルマという女性像が複雑であることも大きな要因だ。舞台は紀元前50年ごろのガリア地方、この地に暮らすガリア人はドルイド教を信仰しているが、キリスト教徒のローマ軍によって支配されている。ノルマはそんなドルイド教の巫女であり、神のお告げによって人々を統べる存在だ。ところがこのノルマ、あろうことか敵のローマの将軍ポリオーネと恋に落ち、密かに子供を2人ももうけている。そして幕が上がると、ポリオーネは若い巫女アダルジーザに心を移し、ノルマは男の心変わりに打ちのめされ、苦悩しているのである。「聖なる巫女」でありながら、どこにでもあるような「女の悩み」にとらわれているという矛盾を抱えたノルマをどう表現するか。これが、ノルマ役最大の課題である。

 今回、そのノルマを演じた大村博美(本来はダブルキャストだったが、アクシデントにより二日間とも彼女が演じることになった)は、フランスに居を構え世界的に活躍するソプラノ。ローザンヌ歌劇場ではノルマを歌い、高い評価を得ている。大村のノルマは、女性としての悩みを抱えながら、しかしどこまでも崇高で聖性を離さない存在だったと思う。決してか弱い女ではない、かといって強いだけでもない、揺れ動く中に人間性を覗かせながら、しかし根本は「巫女」であるノルマ。どこまでも上品で高貴な大村の歌声からはそんなノルマ像が伝わってきた。私が聴いたのは二日目だったが、二日続けての演奏で負担や疲労がなかったはずはないだろうが、どこをどうコントロールすればいいのか、押さえるべきところは押さえ、聴かせどころを外さない見事なパフォーマンスは、やはり、海外での劇場経験の豊富さがものをいっていると感じさせられた。

                           ノルマ:大村博美

 『ノルマ』はどうしてもタイトルロールに注目が集まるが、そんな中、アダルジーザの富岡明子が目を引いた。美声と技術を兼ね備えた逸材だ。これからどんどん舞台に出てきてくれることを期待したい。音楽的な成功は、なんといっても指揮のリッカルド・フリッツァによるところが大きい。オケが舞台上に乗っているセミ・ステージ形式なので、ドラマティックかつ細やかな表現がとてもよく聞こえてきた。また舞台上の歌手との音量のコントロールも見事で、オペラ指揮者として並々ならぬ力量を感じさせた。オケは東フィル。

2018年3月18日、Bunkamuraオーチャードホール。

写真:Lasp舞台写真株式会社


 さて、ここから先は、今回の上演とは関係ない、『ノルマ』というオペラについての雑感。

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