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むかしばなし雑記#01 「金太郎ー怪力童子の功績は?ー」

はじめに

毎週木曜日には好きなことを好きなように書き散らしている私ですが、先週で連続小説がいったん完結したこともあり、今週からは再びむかしばなしについて、楽しく綴っていこうと思います。

みなさんは『金太郎』のストーリーをご存じでしたか?「まさかりかついで金太郎」という歌なら知っている人がいるかもしれません。ちなみにこの歌、「まさかりかついだ」と覚えてしまっている人も多いんだとか。私も調べて初めて自分の覚え違いを知りました。それはさておき、歌詞をちょっと追ってみましょう。

「まさかりかついで金太郎 熊にまたがりお馬の稽古 はいしどうどうはいどうどう はいしどうどう はいどうどう」。

・・・・・・で、金太郎は何をした人なんですか・・・・・・?名前が有名な割に、なんとも認知度の低いおとぎ話のヒーロー。今回は金太郎について。

青空文庫より「金太郎」楠山正雄

以下に青空文庫より「金太郎」(楠山正雄)の第一段を引用します。
なお、YouTubeでも朗読バージョンを公開していますので、音声で楽しみたい、という方はこちらからどうぞ。

 むかし、金太郎という強い子供がありました。相模国(さがみのくに)足柄山(あしがらやま)の山奥に生まれて、おかあさんの山うばといっしょにくらしていました。
 金太郎は生まれた時からそれはそれは力が強くって、もう七つ八つのころには、石臼やもみぬかの俵ぐらい、へいきで持ち上げました。大抵の大人を相手にすもうを取っても負けませんでした。近所にもう相手がなくなると、つまらなくなって金太郎は、一日森の中をかけまわりました。そしておかあさんにもらった大きなまさかりをかついで歩いて、やたらに大きな杉の木や松の木をきり倒しては、きこりのまねをしておもしろがっていました。
 ある日森の奥のずっと奥に入って、いつものように大きな木を切っていますと、のっそり大きな熊が出て来ました。熊は目を光らせながら、
「だれだ、おれの森をあらすのは。」
 と言って、とびかかって来ました。すると金太郎は、
「何だ、熊のくせに。金太郎を知らないか。」
 と言いながら、まさかりをほうり出して、いきなり熊に組みつきました。そして足がらをかけて、どしんと地びたに投げつけました。熊はへいこうして、両手をついてあやまって、金太郎の家来になりました。森の中で大将ぶんの熊がへいこうして金太郎の家来になったのを見て、そのあとからうさぎだの、猿だの、鹿だのがぞろぞろついて来て、
「金太郎さん、どうぞわたくしも御家来にして下さい。」
 と言いました。金太郎は、「よし、よし。」とうなずいて、みんな家来にしてやりました。
 それからは金太郎は、毎朝おかあさんにたくさんおむすびをこしらえて頂いて、森の中へ出かけて行きました。金太郎が口笛を吹いて、
「さあ、みんな来い。みんな来い。」
 と呼びますと、熊を頭に、鹿や猿やうさぎがのそのそ出て来ました。金太郎はこの家来たちをお供に連れて、一日山の中を歩きまわりました。ある日方々歩いて、やがてやわらかな草の生えている所へ来ますと、みんなは足を出してそこへごろごろ寝ころびました。日がいい心持ちそうに当たっていました。金太郎が、
「さあ、みんなすもうを取れ。ごほうびにはこのおむすびをやるぞ。」
 と言いますと、熊がむくむくした手で地を掘って、土俵をこしらえました。
 はじめに猿とうさぎが取り組んで、鹿が行司になりました。うさぎが猿のしっぽをつかまえて、土俵の外へ持ち出そうとしますと、猿がくやしがって、むちゃくちゃにうさぎの長い耳をつかんでひっぱりましたから、うさぎはいたがって手をはなしました。それで勝負がつかなくなって、どちらもごほうびがもらえませんでした。
 こんどはうさぎが行司になって、鹿と熊が取り組みましたが、鹿はすぐ角ごと熊にひっくり返されてしまいました。金太郎は、
「おもしろい、おもしろい。」
 と言って手をたたきました。とうとういちばんおしまいに金太郎が土俵のまん中につっ立って、
「さあ、みんなかかって来い。」
 と言いながら、大手をひろげました。そこでうさぎと、猿と、鹿と、いちばんおしまいに熊がかかっていきましたが、片っぱしからころころ、ころがされてしまいました。
「何だ。弱虫だなあ。みんないっぺんにかかって来い。」
 と金太郎が言いますと、くやしがってうさぎが足を持つやら猿が首に手をかけるやら、大さわぎになりました。そして鹿が腰を押して熊が胸に組みついて、みんな総がかりでうんうんいって、金太郎を倒そうとしましたが、どうしても倒すことができませんでした。金太郎はおしまいにじれったくなって、からだを一振りうんと振りますと、うさぎも猿も鹿も熊もみんないっぺんにごろごろ、ごろごろ土俵の外にころげ出してしまいました。
「ああ、いたい。ああ、いたい。」
 とみんな口々に言って、腰をさすったり、肩をもんだりしていました。金太郎は、
「さあ、おれにまけてかわいそうだから、みんなに分けてやろう。」
 と言って、うさぎと猿と鹿と熊をまわりにぐるりに並ばせて、自分がまん中に座って、おむすびを分けてみんなで食べました。しばらくすると金太郎は、
「ああ、うまかった。さあ、もう帰ろう。」
 と言って、またみんなを連れて帰っていきました。

テキストは青空文庫によるものです。
図書カード:https://www.aozora.gr.jp/cards/000329/card18337.html
底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年5月10日第1刷発行
   1992(平成4)年4月20日第14刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年8月2日作成

いかがでしたでしょうか?
ちなみに童謡の歌詞はこちらです。

きんたろう
作詞:石原和三郎 作曲:田村虎蔵

まさかりかついで きんたろう
くまにまたがり おうまのけいこ
ハイシィ ドウドウ ハイ ドウドウ
ハイシィ ドウドウ ハイ ドウドウ

あしがらやまの やまおくで
けだものあつめて すもうのけいこ
ハッケヨイヨイ ノコッタ
ハッケヨイヨイ ノコッタ

Uta-Netより 
https://www.uta-net.com/song/46407/

熊と相撲をとっている印象が強いのはやはりこの歌に依るところが大きいのかもしれませんが、今からおよそ40年前に楠山正雄氏が書き起こした「金太郎」も、第一章はほぼ、相撲をするばかりで終わっています。ちなみにこの作品は二部構成。つまり、全体の半分は相撲をしているわけです。

山場はどこへ消えた?

教員になって一年目。ある生徒が質問をしてくれました。

「先生、桃太郎や一寸法師は鬼退治をするのに、なんで金太郎は熊を倒しておしまいなんですか?」

面白い!考えてみたら、たしかに金太郎のお話は盛り上がりに欠ける。たぶんここが認知度の低さにつながっていると思われるのです。金太郎って何をした人なんでしょうか?熊と遊ぶだけ??

いえ、このお話、続きがあるのです。詳細は次回あらためて紹介しますが、後半戦、金太郎はその強さを認められ、スカウトされます。このスカウトマンこそ、武芸に優れて数々の武功を上げたとされる源頼光の家来、碓井貞光(うすい・さだみつ)だったのでした。

出世魚?金太郎はのちの……

スカウトされた金太郎は、源頼光に仕え、坂田金時という立派な武士に成長します。で、何をしたか。鬼退治です。やはり金太郎も、大人になってから鬼退治をしていたのです。頼光一行(坂田金時は頼光四天王の一人と呼ばれるように)が大江山に行き、酒呑童子と呼ばれる鬼を退治する昔話、これは今、「酒呑童子」とか「大江山」として語り継がれています。「金太郎」のクライマックスは「酒呑童子」という別の昔話にもっていかれてしまった、というわけ。

鬼を倒した人間は立派なヒーローとして語り継がれます。そしてヒーロー幼少期として、「金太郎」のお話も有名になりました。今、他の昔話と比べると、少し拍子抜けしてしまうような「金太郎」ストーリー。それもそのはず、これって、「序章」にすぎなかったんですね。

では、なぜ金太郎は「おいしいとこどり」ならぬ「おいしいとこどられ」になってしまったのでしょう?そのお話はまた次週。よろしければお付き合いくださいませ。

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