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ハゲとヘビメタと私#2

次の週の土曜、花冷えの朝。
桜満開の大阪城公園に歩いていった。
花見ではなく縄跳び。

夜桜の後でゴミも多いような気がする。
運動する人達もいつも通りいる。
いつも極秘トレする場所へと歩く。
林の中の小さい噴水広場のベンチに向かう私。

琉球ハゲハンサム空手はやっぱりいた。
しかも今日は空手着で一人稽古していた。
形の動きでなく大きな木に巻藁の様な物を巻き付け左ミドルキックを打ちつけている。
裸足でなく黒い地下足袋のようなものを履いていた。
よく観ると左足の脛にぶつけている。
バシッ!バシッ!
絶対素人の蹴りではないのがわかる。
背丈は155センチくらいだから
巻藁の位置は少し低く設置されていた。

「おはようございます!お疲れ様!」
ハゲハンサム空手は私の顔を認め笑いながら手を振った。
「部分鍛錬ですね」
「迫力ありますね!やっぱり蹴りは」
「後で僕も撃たして下さい」
「いいよぉ」
「先に縄跳びしてアップしてきます」

私は少し離れたコンクリートのところまで行き
Amazonで買ったバレエシューズに履き替えチョンチョンと跳ねだした。
スニーカーだと幅が広くロープが引っかかりやすいし
細かい足首の動きがしにくかった。
室内のボクシングシューズやフェンシングシューズみたいな薄いのが理想。
今日は音楽は聴かなかった。
琉球ハンサムハゲ空手が木に蹴りを打ち込む動きを観ながら20分くらいで身体が温もりアップされてきた。

琉球ハンサムハゲ空手は私の方はほとんど見ず同じ蹴りを20分撃ち続けていた。

琉球ハンサムハゲ空手に近づいていくと
巻藁を指差し、撃ってみろとジェスチャー。
パンチを打とうと想いポジショニングしたが
パンチを撃つには巻藁の位置が低い。
数回左アッパーカットボディを叩いて見た後、
琉球ハンサムハゲ空手に蹴りを教えて下さいと頼んだ。
丁寧に教えてくれた。インパクトまでなるべく膝を畳んで距離を作る事や軸足は低い蹴りなのでそんなに回さなくて良いとか、まず膝蹴りから練習したら良いとかを解説してくれた。
数回、脛の部分で巻藁に当ててみた。
思ったより硬く、もっと強く撃てるように練習しないと痛いだけだった。
手本を魅せてもらった。
ビシッ!バシッ!
インパクトの時、一瞬静止しグィッと脛が硬い接触面に食い込むような感じが気持ち良さそうだった。
パンチ撃つように脚も使えたらいいですね。
かなり練習が必要ですね。

本当の蹴りを生で観たのは始めてですよ。
凄い。ありがとうございます。
格闘技や武術は好きです。
僕らオッチャンはやっぱりブルース・リーが基本ですね。
ボクシングなんか観ますか?
辰吉丈一郎、井上尚弥がいかにいい選手だと言う事を説明、解説したり、天心の実戦もいいしシャドウは綺麗で美しい。天心は空手もやってましたね。
空手はやっぱり小さい頃からやってるんですか?
沖縄空手は有名ですが奄美大島では柔道をやっている人が多いんですよねー。

ハゲハンサム空手と和やかに会話してると、噴水広場の方からギターをかき鳴らし叫ぶように唄う聲が聴こえてきた。
ハゲに礼を言ってスポーツタオルとリュックを置いたままのベンチに戻ってストレッチからの自重トレを遂行する事にした。

噴水広場の三つあるベンチの一つに座りギターを抱えてヘビメタはいた。
こういった長髪の男を生で目撃するのも久しぶりだった。早朝の公園でしかもロン毛はフワフワしており茶髪だった。
明らかに職業的な音楽家を彷彿させる。
前髪で顔がかなり隠されていてる。
痩せていた。

一流歌謡シンガーのタブレット純を思わせた。
タブレット氏言ふところの「ニセアルフィー」か!
伴奏部分のフレーズもアルペジオやソロで弾き
歌唱力も達者だった。
そのボーカルスタイルはタブレット純的な低音ではなく男性のハイトーンでスピッツの唄う人や稲垣潤一的なクリスタルな響きだった。
しかもサビの部分では黒人やヘビメタのシャウト唱法が聴こえた。

曲は村下孝蔵の「踊り子」「春雨」「ゆうこ」
そして「酔いしれて」と連続で唄い続けるニセのアルフィー。
全部私も好きな曲。
生ギターまで披露。
ベンチで片足スクワット、パッキャオ腹筋しながら
ニセアルフィーの生歌を聴きながら
ニセアルフィーに話しかけるタイミングを待つ。

一曲終わると流れるように次のイントロが始まり歌い上げるため、休憩に入るのを密かに待った。
その外観は一流ロックバンド、レッドツェッペリンのロバートプラントをも彷彿させる。
多少威圧感もありもしかして私のような何気ないオッさんが話しかけても答えてくれないかもしれない。

「出会いに照れない」
そんな水道橋博士のフレーズを想い起こし、ひたすら
曲が止まるのを待つ。
曲が村下孝蔵の名曲から長谷川きよしの名曲のイントロが始まった。
「別れのサンバ」
ギターもソロの部分も完璧だった。
絶対にプロのミュージシャンだ。
「別れのサンバ」の演奏が終わった。

次の曲はまだ始まらない。
なんかツマんで噛みながらなんか呑んでいる。

ベンチでのパッキャオ腹筋を終えてスッとゆっくりと
明るく微笑しながら口をモグモグさせるニセアルフィーのそばに近づいていった。
ロバートプラント風の髪をニセアルフィーがかきあげ
顔が見えた。
また西欧的な造形で彫りが深く美しかった。
肌は女性みたいに白く痩せていた。
美青年だが20代には見えない。
30歳前後のアンチャンだった。

目が酷く充血している。
ベンチに置いてある酒はチャミスルのマスカットとすもも。トリスのハイボール缶350ccは三本横に倒れている。
かなり呑んでるな、話しかけるとややこしいかな。
と一瞬躊躇ったが
「プロのミュージシャンですか?さっきから聴かせていただいてました。技巧にビックリしました。」

「ありがとう、朝から歌っちゃってごめんねぇ」
ニセのアルフィーはそう言ふとホタテの貝ひもを口に含みチャミスルのすももを流しこんだ。
酔っ払っているが感じのいい何か接客に熟練した職業の人がする口調だった。

少し安心して自分が聴いて感じた事を話したりニセアルフィー自身の事を聴くことにした。

琉球ハンサムハゲ空手はまだ左の脛を巻藁にぶつける練習を続けていた。

二人とも欧米風に造形されたハンサムな顔立ちなのは偶然だった。        
               続く。




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