「認知症予防から備えに」 -認知症とともによりよく生きる -

 認知症の人と家族の会福岡県支部の月刊広報誌「たんぽぽ」に「認知症とともによりよく生きる」という連載を行っています。今回、許可をいただいてnoteにも転載することとしました。 
 こちらの記事は、2021年6月号に掲載されたものです。

 認知症予防というと一般に「認知症にならないためにどうするか」をイメージされると思いますが、認知症発症の最大のリスク因子は加齢であり、年を取り長生きすると誰もが認知症の状態となります。

 一方で、認知症の発症を遅らせたり認知症の発症後も進行を遅くしたりするためにできることはいくつかあります。研究によってエビデンスがものとしては、人と話すこと、運動をすること、規則正しい生活をすること、バランスの良い食事を摂ること、禁煙、節酒、歯周病予防、難聴の改善、血圧・血糖の良好なコントロールなどです。見ていただくとおわかりにように、これらは何も認知症の進行を遅くするためだけに有効なことではなく、健康に長生きするために有効なこととして一般に広く知られていることです。そして、これらの項目をきちんと実践すると長生きし、長生きすると認知症になります。結果的に認知症の状態にある人が増えるということにつながります。

 「認知症予防」の言葉には、認知症をネガティブに捉え。避けなければならないものであるという意味が感じ取られます。このため最近この分野では、「予防」ではなく「備え」という言葉を用いることが多くなっています(英語ではpreventionからrisk reduction)。

 ちなみに、抗認知症薬を早くから飲むことや、イチョウ葉などのサプリメントに認知症発症抑制効果がないことにもエビデンスがあり、WHOの指針でも「サプリメントは推奨しない」とはっきり示されています。「認知症予防」という言葉で不安を煽りマーケティングにつなげようという企業の思惑もあるかもしれません。

 認知症になるのを恐れていると、実際に認知症の状態となった際に認知症と診断されることを恐れ、日常生活で失敗することを恐れて引きこもった生活となってしまいます。引きこもると人と話さず、体を動かさなくなり、生活のリズムが崩れ、食事に偏りが生じることもあって、認知症の進行が加速してしまいます。必要なのは、認知症を恐れず「歳を取れば誰でもなるものだ」と受け入れていくことだと考えています。


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