「認知症予防の危険性について」 -認知症とともによりよく生きる -

 認知症の人と家族の会福岡県支部の月刊広報誌「たんぽぽ」に「認知症とともによりよく生きる」という連載を行っています。今回、許可をいただいてnoteにも転載することとしました。
 こちらの記事は、2019年11月号に掲載されたものです。

 はじめまして。たろうクリニック院長の内田直樹と申します。今期より認知症の人と家族の会福岡支部の顧問を拝命し、この「たんぽぽ」で連載をさせていただくことになりました。普段は認知症の専門医(日本老年精神医学会専門医)として、主に高齢者を対象に訪問診療を行っています。また、訪問診療を行っている認知症専門医が少ないこともあり、最近は様々な場所で講演や執筆の機会をいただくことが増えています。今回の連載では、普段の講演でお話ししている内容や、認知症関連で気になったことなどをご紹介できればと思っています。

 第一回となる今回は、先日の世界アルツハイマーデー記念講演会でもお話しさせていただいた認知症予防の危険性についてです。

 最近はメディアでも認知症について取り上げられることが増えましたが、その多くが認知症予防についてです。しかし私は、認知症予防が強調されることの危険性を感じています。認知症の発症を遅らせたり、進行を緩やかにしたりすることに効果が明らかになっているのは、運動の習慣化、健康的な食事、禁煙、節酒、生活習慣病のコントロール、人と会話をすること、規則正しい生活をすることなど、一般に健康的に生活するために必要なことと変わりがありません。つまり、ゲートボールやデイサービスに行ったり社会的な活動を続けたりすることが重要なのです。しかし、認知症になることを恐れ認知症予防が強調されすぎた社会になってしまうと、実際に認知症の状態となり生活上での失敗が増えた方が、失敗を恐れて引きこもるようになり、認知症の診断を受けることは拒否して受診せず、人と話したり運動をしたりする機会を逸し、食事のバランスや生活リズムが崩れて、認知症の進行が加速するということが起きてしまいます。認知症を恐れた結果の認知症予防運動では、かえって認知症の進行を加速させてしまうのです。認知症を正しく理解し恐れないことこそ重要であると考えています。

 認知症を正しく理解するために医学の面から正しい知識を身につける重要性という意味でも、ここで様々な情報をご紹介していければと思っています。一方で、認知症当事者の方たちや、その一番近くにいらっしゃるご家族こそがご存知な認知症の一面もあります。最近は徐々に認知症当事者による情報発信も増えてきましたが、まだまだ福岡ではそういった機会も少ないようです。認知症の最大のリスク因子は加齢で、超高齢社会において年をとれば誰もが認知症になります。福岡市のお隣、久山町で行われた世界的な研究によると、わが国で認知症の状態となる人は2060年まで増え続け1000万人を超えると推計されています。ちなみに2060年の日本の総人口の推計は約8000万人です。このように、認知症の人が多数派となる社会が訪れます。こういった中で、福岡市は2018年2月に認知症フレンドリーシティ宣言を行いました。真の意味で認知症とともによりよく生きることができる社会に向けて、当事者の声に耳を傾け共に考えながら社会をアップデートしていく必要があると感じています。認知症フレンドリーに関して詳しく知りたい方には岩波新書の「認知症フレンドリー社会」(徳田雄人 著)がお勧めです。認知症について最近様々な当事者団体ができていますが、最も歴史のあるこの「認知症の人と家族の会」の活動は、これらの背景から今後ますます重要になってくると考えています。また、認知症関連で何か私へのご質問がありましたら家族の会までご連絡ください。そういったご質問にも、この連載上でお答えしていければと考えています。引き続き、よろしくお願い致します。


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