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スタートアップの仮説検証の進め方

Open Network Lab(Onlab)の佐藤です。
今回は、スタートアップな皆さんが、おそらく毎日のように使っている”仮説検証”という言葉について、効果的に進めるヒントになればとNoteを書いてみます。

スタートアップ界で頻繁に登場する”仮説検証”

日頃起業家の方とのMTGで、必ずといって良いほど"この部分はまだ仮説です"や、"今回の調達でこの仮説を検証していくつもりです"というように仮説検証について聞くことがあります。

リーンスタートアップの「構築‐計測‐学習」のフィードバックループを通じて価値仮説・成長仮説を無駄なく検証していくという考え方をはじめ、今や事業アイデアを仮説と捉え検証していくスタイルはスタートアップ界隈に広く普及していると思います。

私の運営するシードアクセラレーターOpen Network Labでもリスクの高い仮説から順に検証していこうと説明しています。

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参考までに、各スタートアップのステージ毎に求められる状態をまとめると以下の表のようになります。一般にステージ毎に特に着目される価値仮説・成長仮説は異なります。(参考 Hayasakaさんtweet

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近年、上記のような情報や、リーンキャンバス・AARRRモデルのようなアイデア検討に役立つフレームワークは数多く登場しているかと思います。

一方で、スタートアップに関する研究でこちらのようなものがあります。ざっくりまとめますと以下のような内容の論文です。

"フレームワークやプロトタイピングのやり方だけを学んだスタートアップ群と、それらに加えて科学的な実験を行って仮説検証のプロセスを体験したスタートアップ群を比べると、後者の方が後々の事業進捗が良い"説

日頃、創業前後の起業家の方々と話す中で、確かにご自身の検証したい仮説が曖昧なまま、ある種盲目的にツールや先輩起業家の成功事例を真似ようとされている方を見かけることもあるなと感じます。(本Noteがそういった方々のヒントになれば幸いです!)

同様に、Y CombinatorのMichael Seieblさんも科学的手法を取り入れることの有効性をブログにしています。

“In reality, executing a startup is a balance between creativity/intuition/instinct and the scientific method: hypothesize > a/b test > conclude > repeat. (中略) The best companies (and employees) are willing to use data to back up their decision making. They don’t believe that standards or aesthetics are rules written in stone. They don’t believe that only product people or founders know the solutions to problems. They believe that their users can help them understand what to build and how to build it if they are willing to implement the analytics, listen, and test.

スタートアップ推進は創造性/直感/本能と、仮説 > A/Bテスト > 結論 > 繰り返し、という科学的手法とのバランスです。 (中略)
最高の会社(および従業員)は、意思決定の支えとして積極的にデータを利用します。彼らは基準や美学が不変のルールとは思いません。プロダクト担当や創業者だけが答えを知っているとも思っていません。分析、傾聴、テストを実行する意思があれば、ユーザーが構築すべきものや構築する方法を理解する助けになると信じています。

そもそも科学的な仮説検証とは?

そもそも科学的な仮説検証とはどのような手法なのでしょうか?
”科学”について調べるとデカルトからポパーから様々な定義を述べらていますが、共通してそのプロセスには、思い込みでなく客観的なエビデンスを一つずつ積み重ねて検討を深めていくために、以下のようなステップが含まれています。

科学的な仮説検証のステップ
1. 先行研究をリサーチ
 何がわかっていて何がわかっていないのか調べ、明らかにすべき"問い"を設定
2. 仮説の構築
 推測ではあるが、"問い"を説明できる仮の答えを立てるフェーズ
3. 実験の計画
 仮の答えを検証できる最適な方法を段取りするフェーズ
4. 手際良く実験を実施
 実験装置/環境の準備、実験、実験自体の評価
5. 実験結果の解析・評価
 データをまとめ仮説を立証しているのか、反証しているのか評価
(実態としては4.と5.は行ったり来たりして有効な切り口を見つけることが多い)
6. 結果を簡潔明確にまとめ報告する
 論文やレポートとしてまとめるフェーズ

活動をイメージするものとしてはこのブログの図が参考になるかも知れません。画像3

* 人類の英知(図の円)の中で、知識を付けある分野の専門家となり(尖り)、
その知識(円の外周)をさらに広げる活動の図

スタートアップが参考にすべきポイント

スタートアップも、正解のわからない領域で事業成功の道筋を探求し、賛成する人のほとんどいない自分だけが知っている大切な真実(Peter Theil)を掴むという点で科学と共通点があり、その手法も参考になるポイントがあると思います。

スタートアップの効果的な仮説検証の進め方

ここでは(異常な長文になることも恐れて)、1.検証したいことを設定するフェーズと、2.それを検証していくフェーズに大きく分けて整理したいと思います。

1. "問い"設定のためのリサーチ ~ 仮説の構築
最初に"今本当に答えを出すべき問い"を見極めましょう。
スタートアップが成功するまでにやらなければならないことは膨大です、一方でリソースには制限があります。今取り組むべきものに取り組みたいところです。

良い"問い"とは、深い洞察により、その真偽次第で先の行動を大きく変える白黒ついていない根本的な問題であると言われます。スタートアップにおいてはこれはステージごとに異なり、本ブログ冒頭の画像のように、初期のタイミングでは、そもそも"誰の?""どんな課題を解決するのか?"に関連する"問い"を設定すべきでしょうし、事業が進めば、"どの獲得チャネルがマーケットに刺さるのか?"や"サイトの導線はこうあるべきではないか?"といった問いが重要になっていきます。事業成長の"前提"を分解した要素の中で、影響度が大きく未知のものと考えても良いかも知れません。

"一人の科学者の一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでいたら、本当に大切なことをやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ。"
- ノーベル生理学・医学賞受賞 利根川進氏 -

リサーチのポイントとして、過去のOnlab参加者を見ていて共通するのは、
①一次情報に触れること
②業界の詳しい人を巻き込むこと(あるいは自身が詳しい業界)
③止まらないこと
があげられるかと思います。補足すると、
①については現在誰がどうしているのか?一般論ではわからないリアルな顧客の行動、事実を抑えインサイトを得ています。
②については複雑な各業界のことを時短で学ぶために、その業界の専門家であったり、C向けのサービスであればコアなユーザーのコミュニティを構築しています。
③は"調査に時間をかけ過ぎない"という意味です。あくまで科学ではないので70%でも正しいと感じたら行動に移るようなスピード感が重要です。

また、リサーチにあたっては同時に仮説を持っていくことをオススメしています。(前述の科学的なステップの1.と2.を同時に進める流れ)
例えば"誰の?""どんな課題を解決するのか?"といった初期のリサーチをする際に、あらかじめ具体的に"誰々が、こんなシーンで、このような非合理的な行動を取っており、このサービスが代替行動をリプレースできるはず!"と仮の答えを考えておくことで、調査目的や調査内容、取るべき行動が明確になり、特に簡単に情報を集め切ることはできないような状況でスピードが向上します。(仮説検証 ≠ 完璧なリサーチ/網羅思考)

2. 実験計画 ~ 手際良い実験 ~ 結果の評価
実験に際してもリソースの少ないスタートアップがどうしたら素早く効率的に知りたいことが知れるか?を念頭に準備していきましょう。大きく成長していったスタートアップ達は、時間や資金が限られている中で如何に施策の試行回数を増やせるかハックすることがうまいと感じます。

スタートアップにおける"実験"とは、いわゆるユーザーインタビューやMVP、A/Bテストといった手法を使って、顧客ニーズ・経済性・実現可能性といったポイントを証明していく作業となります。(以前関連した記事を書いたので気になった方は参照してみてください!:ユーザーインタビューMVP当初の考え通りに実験結果を得られることは少なく、学習するためには一定質を維持しつつ試行回数を増やす必要があります。

検証時のポイントは、リサーチ時のポイントに加え、
①検証したいことを解ける粒度まで分解し同時に多くのことを検証しようとしないこと
②施策の管理
マインドセット
が非常に重要だと考えています。
①に関しては、一度の検証をシンプルにすることで検証サイクルを短くし不確実性を高め過ぎない効果、小さくとも成功体験を積みチームのモメンタムを維持する効果があります。
②に関しては、検証内容、検証方法、そして検証結果を簡単にでも記録に残すことで後から"なぜその意思決定をしてきたのか"を振り返ることが出来、手戻りを減らす効果があります。
③に関しては、検証に必要な以上に製品を作り込み過ぎず、早く・リーンに学習していくために"ローンチは特別なことではない"というマインドセットが必要となります。

ここで、Onlab卒業生の仮説検証活動を例にあげます。

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次世代型電動車椅子を開発するWHILLは、通常一度の検証サイクルが長時間・高コストになりやすいハードウェアを開発するスタートアップですが、重要度の高い"問い"から順にリーンに仮説検証を進めていくことに成功しました。検証内容を解ける粒度まで分解し、正式な製品を開発することなく、初期の顧客属性、抱えている課題、解決策等を明らかに出来ています。

最後に

仮説検証に取り組まれる際は是非一度以下のような質問をチーム内でもしてみてください。

・今取り組んでいることは、本当に今答えを出すべき"問い"だろうか?
・(動き出す前に)"問い"に対する答えはどのようなものが想定されるか?
・何をして、どうなれば、その仮説の真偽を確認できたと言えるだろうか?
・より短時間、低コストで確認する術はないだろうか?
・上記方針はチーム内で認識があっているか?

最後のおまけにPaul Grahamさんが毎月読むべきとオススメしている記事も紹介します。(その日本語訳"研究にどう取り組むべきか"はこちら

"勇気""曖昧さに耐える""ドアを開けておく"etcいろいろ示唆に富んだ表現があるのですが、最後は以下で締めくくられています。

"まとめるとこうです。なぜこれほど多くの人々が優れた頭脳を持ちつつも成功しないかというと、重要な問題に取り組まず、問題にのめり込まず、困難な問題をやさしいが重要な問題に転換しようとせず、そういったことをしない言い訳を自分自身にし続けているからです。そういった人たちは、運が物事を決めると言い続けます。皆さんには、いかに簡単かを説明しました。その上、どうやって改革するかも説明しました。ですから、それらを実践して偉大な科学者になってください。"

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