【音楽】唐田えりかさんがaiko『青空』を聴いて泣いてたら許してあげてほしい
aikoの新曲『青空』がめちゃくちゃいい
aikoがサブスクリプションサービスを解禁して、もうウハウハの毎日が続いています。
誰に見せるわけでもなく「ロックなaiko」「ファンキーなaiko」「泣けるaiko」などのプレイリストを作っては、誰に聞かせるわけでもないのに曲順を入れ替えたりしてニヤつく日々。B面でアルバム未収録の曲を通ぶって(誰に?)1曲は入れてみたり……。
noteに全プレイリストを公開してもいいのですが、そんなことよりアレですよ。新曲の『青空』。これが本当にaikoがサブスク解禁の折によくぞ持ってきてくれたと思える現代的で洒脱で批評性もあって、イントロのシンセもえげつなく心を持っていかれますし、Calvin HarrisにリミックスしてFrank Oceanとデュエットしてほしいくらいの名曲なのです。
それで、歌詞考察のようなことは無粋なのであまりやりたくないのですが、かつて2chの「aiko歌詞考察スレ」で『キラキラ』の歌詞考察を長文で書き込んでいた人間としては、やはり昨今の不倫叩きと『青空』の関係に触れずにはおられないのですよ。
“道ならぬ恋”が消えた日本の歌謡曲
そもそも、不倫とか浮気をバチボコに叩くのは全然昔からあったことだと思うし、不貞をされたパートナーの方はもちろん、清く正しく過ごす既婚者の方が怒り狂うのももっともです。ワイドショーが大盛り上がりするのも今に始まったことじゃありません。
ただ、一方で私は「不倫のエモさ」がどんどん薄れ、ただただ発覚した時の「いたたまれなーい感じ」だけがブーストされている状況に危機感を抱いています。かつては不倫の当時者の発言や言動から「それでも好きでどうしようもなかった」という匂いが立ち上っていた気がして、それはそれで叩かれてたりもしたのですが、最近はなるべくそんな情念は漂白して「謝罪と再発防止に全力を傾けます」的なスタンスが主流になってる気がしませんか? え、不倫って粉飾決算とか異物混入と同類?みたいな。
私は、その最大の理由として「ポップミュージックで描かれる恋愛が健全化しすぎたせい説」を唱えています。それにより、道ならぬ恋の辛さを許容する能力が世間から失われているのではないかと。シティポップとして海外で再評価が高まる竹内まりやの『駅』や、ドラマ主題歌で一世を風靡し今なおカラオケの定番曲である小林明子の『恋に落ちて Fall in Love』、あるいは演歌にまで幅を広げると『さざんかの宿』『越冬つばめ』『ホテル』など、「不倫をしている人」の立場で歌われた名曲がたくさんありました。
そりゃ今でも「会いたいのに会えない」的な歌詞で、歌い継がれる悲恋のJ-POPはありますよ。でも不倫へのフォーカスの精度が上記名曲巨人軍とは段違いです。『越冬つばめ』の歌い出し「♪娘盛りを 無駄にするなと 時雨の宿で 背を向ける人 報われないと 知りつつ抱かれ飛び立つ鳥を 見送る私」や『恋に落ちて』の「♪土曜の夜と日曜の あなたがいつも欲しいから」などなど、その不倫ユーザーへのターゲティングぶりといったらcookie仕込んでたんか!と思います。
現実世界の問題として、鈴木杏樹さんは今カラオケで小林明子さんを熱唱しているかもしれませんが、世代的に唐田えりかさんに寄り添えるリアルタイムの不倫ソングが存在しないのが切ないですね。例えば若者たちに人気とされるAAAが「ぬいた指輪の罪のあと 噛んでください思い切り」なんて歌いますか?(歌ってたらマジでごめんなさい)
話を戻すと、そんな唐田えりかさんにこそ聞いてほしいaikoの『青空』。軽快なシンセのリフと、巧みに転調を仕込んだ100点満点のコード進行に乗せて、下記のような歌詞が歌われます。
触れてはいけない手を 重ねてはいけない唇を あぁ知ってしまった あぁ知ってしまったんだ
そっと薬指を縛る約束を外してもほどいて無くしても まだ気を付けて 服を脱ぐこの癖はなかなか抜けないな
何にでも頷いてって今思い返すと馬鹿みたいだな
本当は全文を引用して「青空」と描かれていた空がラストのサビで「ただの空」だったと気づかされる作詞と歌唱の妙などについても1時間くらい語りたいのですが、どうですか。みなさん。上記の歌詞を読むだけでも、東出昌大くんにやさしくされてつい一夜を共にしてしまう唐田えりかさんや、集英社の編集者に熱いメディア論を語られつい路上でキスしてしまう乃木坂46の松村沙友里さんの姿が呼び起されてきませんか?(後者についてはもう忘れてやれよとも思いますが)
不倫をしない人が「不倫経験者」を疑似体験する歌詞
不倫をしない人が「不倫しちゃう人の気持ちを体験する場」として、ポップミュージックってすごく機能していたと思うのですが、その点でaikoの『青空』は、現代的にアップデートされた「不倫ソング」だと思います。悲恋に似つかわしくないカラッとしたアレンジや、不倫相手への「〇〇だな」「なんだよ」というフラットなスタンス。ただ道ならぬ恋に堕ちて苦しんで悩み抜くだけでなく、「不倫しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと不倫したいのです」(inspired by ゼクシィ)とでも言うような、健やかな女性像が浮かび上がってきます。
死別を匂わせながらも跳ねるピアノが逆に悲しみを誘う『キラキラ』(向こう100年手が出せないレベルの超名曲!)のように、悲しい要素と相反する前向きなソングライティングを自然に同居させられるのがaikoの持ち味の一つです。そもそもジャニーズや星野源と浮名を流し、今をときめくKing Gnuの井口さんを一曲のデュエットで骨抜きにするaikoはゴリゴリの恋愛強者なので、歌詞のシチュエーションの説得力がえげつないんですよね。『青空』がラジオやテレビで何度も流れるのを聞き、口ずさむうちに、気づけばきっと「不倫している人って、こんなにつらいんだね。切ないね……唐田えりかさんも大変だったね……」という思いが浮かんでくるはずです。
「清純派だと思っていたのに不貞を働いたあの娘やあの女のことはもう大嫌いで、TVで二度と見たくない」と思っている方も多いかもしれません。でも、カノン進行のバラードが心に響きながらもどこか物足りないなと同じく、コード進行も人生も、裏切りがないと退屈だと思うんですよね。自分が当事者じゃない限りは、芸能人の不貞に怒るのではなく、その意外な展開のエモさを楽しむくらいがちょうどいい野次馬なんじゃないかなとおもった次第です。
P.S. 良かったらあなたの好きなaikoの曲コメント欄で語ってください!
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