中尾 直暉 Nakao Naoki

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【文献レビュー】日本の公園の遊具史

 造形遊具とは鉄筋をまげて形を作り、モルタルを直接塗り重ねて製作される屋外遊具である。一般的な鋼製の遊具とは異なり、その出自が美術彫刻にあることが特徴である。  パブリックアートの研究者の市川は、戦後の日本の公園で彫刻家が屋外遊具を製作するに至った経緯を明らかにしている★1。戦後の復興期に公園が整備され始めた頃、環境整備の一環として公園に芸術を取り入れることが推奨されていた。また、1950年代前半に耐久性の高いセメントが屋外彫刻の素材として注目されていたこともあり、公園では

    • 【文献レビュー】遊具の安全規準の意味とは

       日本で屋外遊具の安全規準が初めて制定されたのは2002年である。これは、1978年にドイツで世界初の安全規準「DIN7926」¹が制定されてから約20年後のことである。  リスクマネジメントの研究者である松野は安全規準の制定までの歴史から、日本の安全規準の特徴を述べている²。当時の都市公園法に安全性の規定がないまま公園の供給が推進されていた状況歴史から、日本の安全規準の特徴を述べている²。当時の都市公園法に安全性の規がないまま公園の供給が推進されていた状況歴史から、日本の

      • 【書評】ミゲル・シカール『プレイ・マターズ 遊び心の哲学』

        遊具における形式と流用 評者 | 中尾直暉 (@_nko_nok) いたずらっ子の遊び方 公園には様々な遊具が設置されている。ブランコや滑り台などの見慣れたものもあれば、ぐるぐると回転する少し危険なものもある。どのような形の遊具であれ、その遊具の設計者は何らかの遊び方を想定して設計をしている。しかし、子供のころを思い出せばわかることだが、遊具の正しい遊び方を読み取って遊ぼうとする子供はすくない。子供は滑り台を逆から登り、手すりがあれば乗り越えてぶら下がるような、いたずらな心

        • 【書評】D・モントゴメリー+A・ビクレー 著『土と内臓 微生物がつくる世界』

          微生物共生圏で暮らす 評者 | 中尾直暉 (@_nko_nok) 見えない世界への恐怖  未知の感染症に対する過剰なまでの対策や、医療従事者や患者への差別を目の当たりにすると、目に見えない微細な世界への恐怖心を誰もが持っていることがわかる。事実、病原菌が発見された19世紀から、微生物を恐るべき病原菌としてとらえる細菌論が世に浸透し、近代化の過程で人類は生活領域から微生物との接点をとにかく減らしてきた。畑では農薬で土壌の病原体と共に有益微生物を一掃し、医療では抗生物質で病原

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        • 建築生態学特集
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        • メタアーキテクト論
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        • 遊具論
          3本
        • 脱人間中心主義の建築
          1本
        • 読書レビュー
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        • 佐世保のこれから
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        記事

          【書評】 地井昭夫 著『漁師はなぜ、海を向いてすむのか? 漁村・集住・海廊』

          幻想をこえて漁村を見る評者 | 中尾直暉 (@_nko_nok)  表題に掲げられた問いを見て、すぐに答えを思いつく人は少ないだろう。なぜなら、現代の日本に生きる私たちは、漁師が海を見て住んでいるような海辺に巡り合う機会がほとんどないからである。日本の臨海部の都市では、近代化の過程で、工業、物流産業、軍事産業が重視されて開発がすすめられてきた。その結果、生活と海がともにある風景は過去のものになるか、地方の漁村に限られたものになった。  また、2011年の東日本大震災後の都

          【書評】 地井昭夫 著『漁師はなぜ、海を向いてすむのか? 漁村・集住・海廊』

          【書評】バーナード・リーチ 著『陶工の本』

          不完全な技術を肯定すること評者 | 中尾直暉 (@_nko_nok)  現代の私たちが食器棚にしまっている器のほとんどは、歪みがない合理的な形をしている。素地の形は正確な左右対称か回転体で、顔料はきれいにプリントされ、均等に塗られた釉薬が表面をコーティングする。このような機械で生産された大量生産品の表現に私たちは慣れ親しんでいるため、形が歪んでいたり、模様がかすれていたり、傷がついているものは不良品として認識してしまう。時に田舎の小さな窯元に足を運んで陶磁器の製作を体験しよ

          【書評】バーナード・リーチ 著『陶工の本』

          【ソーシャル(ディスタンシング)プラクティスとしての建築とは? 】レクチャラー:江尻悠介

          20200430 吉村研リモートゼミ  レクチャラー:江尻悠介 (早稲田大学吉村研究室M2) 建築の社会性について改めて考える江尻さんは卒業論文で、建築雑誌における表現の流行と社会情勢の関係性を研究されていた方で、建築表現と社会との関係性について造詣が深い。このゼミでは、COVIT-19によるパンデミックが建築界に与えた影響を、美術における「ソーシャル・プラクティス」と言う概念を手掛かりにして考えようというものだ。現在進行形の問題について考えることは難しいが、それでも議論す

          【ソーシャル(ディスタンシング)プラクティスとしての建築とは? 】レクチャラー:江尻悠介

          【展覧会レビュー】増田信吾+大坪克亘展「それは本当に必要か。」

          過剰な社会へ向けた問い 増田信吾と大坪克亘は、日本で活動する若手建築家ユニットである。 彼らの展覧会はもっとも切実な問いから始まっていた。「それは本当に必要か。」。それは、彼らが設計の過程で繰り返し自問する言葉でもあるそうだ。3階の展示室の壁にも、各プロジェクトに対して彼らが抱いた問い、または仮説がすべて疑問形の文章で記されていた。 それを見たとき、この展覧会は彼らの思考そのものを展示しているのだと気づかされた。彼らの思考は3つのプロセスに分けて展示されていた。 Att

          【展覧会レビュー】増田信吾+大坪克亘展「それは本当に必要か。」

          【書評】『アルファベット そして アルゴリズム 表記法による建築-ルネサンス からデジタル革命へ』マリオ・カルポ著

          変化する建築家の原作者性  私は卒業論文で、彫刻遊具の形状を設計段階で自在に変形できるアルゴリズムを設計した。その際に気づいたことは、設計の最終段階を他者にゆだねることで、デザイナーと他者、そして製作物の関係性が大きく変化するということだった。そこで、設計にアルゴリズムを用いることが具体的にどのような可能性を秘めているのかを知りたく思い、この本を選んだ。  著者のマリオ・カルポ氏はルネサンス時代を専門にする建築史家でありながら、建築の表記法に注目する独自の視点をもつ。前著"

          【書評】『アルファベット そして アルゴリズム 表記法による建築-ルネサンス からデジタル革命へ』マリオ・カルポ著