200億円と視聴者を失ったアメリカ有料放送の醜い争い

その昔アメリカではほとんどの世帯と言っていいほど、有料放送と契約していました。それが今、Netflixを中心としたストリーミングサービスの台頭によるコードカットにより売り上げが下がり、有料チャンネルとプラットフォームの契約を複雑にしています。この度S&P Global Market Intelligenceが発表した分析を紹介します。

調査会社のKaganの推計によると、2013年以降、有料チャンネルのトップ企業は、プラットフォームでの放送に関わる交渉でブラックアウト(停波)が発生したことにより約1億7950万ドルのアフィリエイトフィーを失っています。2020年だけでも、1840万ドルの損失を出しているとのこと。

本来であれば非常に大きな額のためブラックアウトは避けたいと誰もが思いますが、リニアビジネスを維持するためにプラットフォームとより有利な契約を結ばなければいけない、追い詰められた状況にあるとも言えます。


各社どれだけ損失を出した?

以下のグラフは2013年から2020年にかけて有料チャンネル側が失ったアフィリエイトフィーです。尚この損失額の算出には、加入者1人当たりの月CPS(1加入世帯に対する使用料)に関するKagan社のデータとMedia Census社の加入者数の推定値を使用。

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そして以下のグラフは各メディア企業が2013年から2020年の間にブラックアウトが発生しで失った金額。トップはViacomCBSの4000万ドル。

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大規模ブラックアウトトップ10

以下はこれまで発生した主な大規模なブラックアウトです。

1: Fox Corpの所有する「FOX Sports 1」、「FOX Sports 2」、大学カンファレンスBig Tenのチャンネル「BTN」、スペイン語スポーツチャンネル「FOX Deportes」が2019年9月26日から10月6日まで衛星放送のDISHでブラックアウトが発生。年間の契約料約1億7530万ドルが宙に浮いた状態となり、近年のブラックアウトの中でも最も高額なものの一つとなりました。難航した大きな理由は、フォックスの地上波直営局の再送信合意契約(Retransmission Consent、1契約あたり何ドルかを地上波放送局に払う契約)に関わるものでした。Kaganの試算によると、この10日間のブラックアウトによって、フォックスは約480万ドルのアフィリエイト収入の損失を被いました。

2: これまでのブラックアウトによる最大のアフィリエイト収入の損失は、KaganによるとViacomCBSとSuddenlink Communicationsの間のブラックアウトでした。2014年10月に対立し、ケーブル事業者のSuddenlinkを利用していた契約者はMTVやComedy Centralなどを視聴できなくなりました。これが解決したのは3年後のAltice USAによるSuddenlinkの買収後で、なんと1057日後の2017年8月23日にViacomCBSのチャンネルがようやく復帰しました。ViacomCBSはこの損失として約3860万ドルを計上。

この他の損失を失った額トップ10は以下となります。

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3: 最近発生したブラックアウトは、再びDish Networkを巡る騒動でした。実はDishは結構強硬派で知られています。2020年12月に起きたのは、ニュースチャンネルNewsNation(前WGN America)を含むNexstarとDishの争いでした。Foxとの紛争と同様に、こちらも地上波放送局のRetransmission Consentが原因でした。結局22日後に解決し、Nexstarのアフィリエイト収入の損失は110万ドルとなりました。


損失額が少なかった紛争トップ10

逆に損失額が少なかった紛争トップ10についてもKaganが出しています。

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最も少なかったのが、2017年2月にわずか2日間だけ続いたスペイン語放送ネットワークのウニビシオンとCharter Communicationsの間のものでした。両社の複数年にわたる配信契約はその時点ではまだ切れていなかったが、それでもウニビシオンは2017年2月1日より傘下のGalavision、TUDN、El Rey NetworkをCATVプラットフォームのSpectrumから引き上げた。

これが発生した理由はCharterがTime Warner Cable(TWC)を買収したことに起因します。TWCの方がCPSが低かったために、Charterのレートも下げてしまったのです。結果としてニューヨークの裁判所がCharterにウニビシオンに対する一時的な差し止め命令を出したことで、ブラックアウトは2017年2月3日に終了しました。ウニビシオンとCharterは2017年12月に紛争を解決しましたが、2日間のブラックアウトによってウニビシオンは約15万2,000ドルの損失を出しました。

その他チャンネル別の紛争状況などについては、こちらをご覧ください。



日本での事例は?

ちなみに日本ではそこまで頻発していませんが、その昔大きなブラックアウトがあり、今も完全には戻っていません。

10年前に起きた、ひかりTVとJ:COM系チャンネルの衝突で一気にチャンネルが終了しました。当時業界が大騒ぎになったことを覚えています。この記事の公開日現在のひかりTVホームページを見てみると、ゴルフネットワーク、J Sportsそしてディスカバリーチャンネルが視聴できるようですが、全てオプションチャンネルとなっています。ベーシックチャンネルとオプションチャンネルでは、視聴料収入は雲泥の差です。


有料放送に過去携わり、現在動画配信に従事している身から感じるのは、小さい日本市場に対してあまりに有料放送関連の会社が多いように感じました。残念ながら有料放送の市場がこれから大きくなることは極めて難しいでしょう。

今後の現実的な解決法は有料放送の売り上げ減を動画配信で賄うことでしょうが、動画配信と言っても番組販売なのかDTCなのかで大きく異なります。DTCをするには今までのビジネスが基本B2B2Cのため手薄だったマーケティング力をつけなければいけません。専門チャンネルそれぞれが持つブランド力を最大限活用しながら、放送や配信にとどまらない展開が必要ではないかと感じています。


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