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通訳学校振り返りpt.4: 通訳学校の入学と進級について

こんにちは、なおきまです。

本日は通訳学校振り返り第4弾としてレベルチェックと進級、卒業にフォーカスを当てて書いてみたいと思います。

私はサイマルアカデミーのいわゆる本科(通訳コース4クラス⇒会議通訳コース2クラス)を卒業しました。レベルチェック、各クラスの進級、逐次科の修了&同時通訳科への進級、同時通訳科の修了(=卒業)まで、それぞれどのくらい厳しいのか、私の主観で振り返った記事となります。

学校によって呼び方や構成が異なりますが、通訳学校には大きく分けて、

本科: 卒業したらエージェント登録の道が開かれる、プロの通訳者を養成するコース。

準備科: 本科に入るための基礎力を養うコース。

英語力向上コース: 将来的に準備科、本科に進むための基本的な英語力を養うコース。

などが用意されています。

どこに入れるかはレベルチェックのパフォーマンスによります。本科に入れる人、準備科からになる人、実力が大きく不足すればコースオファーなしもあるかもしれません。

ざっくりで恐縮ですが、英語力向上コースがTOEIC 800-900点、準備科が英検1級の面接に問題なく受かるくらいというイメージです。

通訳学校はハードルが高いイメージがあるので、こう書くと「なんだ、そのくらいでいいんだ!」と感じるかもしれませんが、レベルチェックの評価は必ずしも検定と一致せず個人差が大きい印象です。検定では一見同じレベル帯でも準備科や本科に入れる方、全く基準を満たせない方が混在している印象です。

レベルチェックでは英語力としての発話能力や理解力、聴き取り力だけでなく、使用している英語が社会人として適切か、あるいは訓練を経て適切になりうる素養があるか、訓練に耐えられる英語力か、などが見られていると推察します。

通訳は語学力に基づいた技術なので、特に本科に入るなら、外国語を修得してから訓練を始めることが前提です。自分の思考を英語である程度自在に表現できる人が、他人の思考を正確に理解して日本語または外国語に落とし込む訓練を積むのが通訳学校です。

(たとえ一流の通訳者・翻訳者であっても語学は一生学び続けるものなのは重々承知していますが、あえて「修得」と書いています)

次に進級ですが、私にとっては本科の最初の2-3クラスの進級がレベルチェック〜卒業の中で最も大変でした。

入学時のレベルチェックで最も高い評価を得たか、準備科からの進級が認められた人のみが本科に通うことを許されますが、最初のクラス約10人中、進級したのは私を含めて3人くらいだったと思います。

通訳学校では進級による難易度の増加幅が大きく、坂道のようになっていません。階段というか、同じクラス内でも教材が進むごとにちょっとした塀を乗り超えるくらい難しくなることもあります。本科の最初のクラスではシャドーイングや要約、1文ずつのメモなし通訳をやって、大枠訳せてればよしとされていたのに、次のクラスではビジネスのテーマで1分近い逐次通訳を行います。

それと同時に、クラスが上がるごとに「聞いた側がストレスなく聞いて理解できる訳出か?」「正確に、適切な表現を持って訳出できているか?」のハードルが上がります。最初の方は言いたいことが伝わればある程度よしとされていたものも、クラスが上がれば適切な用語の使用や時制、通訳者が呼ばれるようなビジネスシーンに相応しい英語か、話者の発話時間から大きく逸脱していないか(逐次の場合)、時に話し方に至るまで指摘を受けます。もっと直接的に言えば、「あなたの訳出は金になるのか?」ということが問われ続けることになります。

思うように訳せない自分とどんどん進む授業とのギャップを埋められない焦り、自分のやり方で合っているのか分からない不安、やってもやっても出来る気がしない無力感などとの戦いです。

授業のスピードに振り落とされ最初の数クラスを越えられず辞めていく方、仕事や家庭の事情で通学を断念する方もいらっしゃいます。

上のクラスに行くにつれ、自分の勉強手法が確立され、実力もついてくるので大抵の内容なら多少の不手際があったとしても「メッセージの幹情報」を外さず訳出できます。

実力もない・勉強方法が正しいのかもわからない・自分の訳出が優れているのかもわからない、という下のクラスの時よりはどう勉強したらいいのか、どこがどう悪いのかがわかってきますから上のクラスでは少しだけ精神衛生を保ちやすいです。

だから上のクラスは簡単に進級できるかといえば、そうはいきません。私の場合、逐次通訳科(通訳コース)の最後のクラスの修了試験で聞き逃しに焦り訳出がボロボロになり、立て直せず痛恨のB判定を受けました。同時通訳科進級のためにはA判定が必要でした。緊張の中で冷静に対応できなかったことを大いに反省しました。授業のパフォーマンスを知っている講師も驚く進級失敗でしたが、次の学期に再履修して同時通訳科へ進級し、6クラスを7学期かけて卒業しました。各クラスの進級率を考えれば、まずまずスムーズな方かと思います。

さらに現役の通訳者の方からは、通訳学校の特待生(成績優秀につき受講料免除)に選ばれながら再履修になったという経験談も聞いたことがあります。上のクラスの進級も相応に難しいのです。

そうした進級試験を乗り越え、最後のクラスの修了試験(卒業試験)に合格すれば無事卒業となります。もちろん合格は容易くはなく、これまでのすべてを試されるような試験で大変緊張したことを覚えています。

サイマルでは逐次通訳クラスの最初の2つに中間試験があったので、逐次通訳4クラス+同時通訳2クラスの進級試験6つと合わせて計8回の試験を経ることになります(サイマルの場合、逐次通訳4クラスで一旦「通訳コース修了」という扱いになります。前述の通り修了試験でA判定を取ることで同時通訳クラスへ進級可能です)。

レベルチェックも難しいが、それ以上に進級や卒業がはるかに難しい。英語力・通訳技術だけでなく一定期間通い続けるだけの忍耐力、安くない授業料を払い続ける経済的余裕、授業スケジュールと仕事/家庭の折り合いなど、様々なハードルを越えねばなりません。たとえフルタイム勤務でなかったとしても、色々な面で覚悟を求められることは間違いありません。入学を検討している方におかれましては、英語力以外の自身・周囲の状況も踏まえて通い続けられそうか検討した方が後悔しないでしょう。

最後に余談ですが、私は通訳訓練は英語学習とは別物であると解釈しており、英語学習の延長のつもりで通訳学校に通うことはお勧めしません。英語学習という意味では他にやるべきことが山ほどあるからです。ただこれはいわゆる準備科や本科の話で、通訳学校には英語力向上に役立つ講座(通年・短期・オンデマンド講座など様々)もありますので、興味に応じて講座を取ってみるのと新たな学びが得られると思います。もちろん通訳者になりたい、通訳技術を身につけたいという場合は独学より通訳学校で適切な教材、適切なフィードバックをもらいながら訓練を受けた方がよいのは言うまでもありません。

以上です。次回以降は逐次通訳科の話に戻りまして、授業風景・感じたことなどを書いていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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