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<<創作大賞 恋愛小説部門>>連載小説「憂鬱」- 26 友人もキャバクラからSMクラブへ転職予定

二人のSMプレイは盛り上がりをみせる一方で、美里の企画しているSMビジネスに協力したいという候補者もボチボチと出てきていた。

ユリアがレッスンに通っているバレエクラスの友人の一人で、ユリアと同じように日本からきたバレリーナの芹奈もSM業界で働くことに興味を持ってくれたのだった。

彼女はバレエをやっているとはいえ、普通のサラリーマン家庭で育ったためか、仕送りもソコソコで、週に数回は夜に日系のピアノバーで働いていた。

ピアノバーというのは、日系のビジネスマンが高いお金を払って、銀座のクラブみたいなボックスに女性がついてお酒やおしゃべりを楽しむという場所ではある。

が、キャバクラと称するほうが値するような水商売に対しては素人同然の学生やダンサーや女優を目指す若い女性がほとんどだ。

ユリアはバレエのレッスンの後に、芹那とたまに雑談のため、スタジオ近くにあるスタバでコーヒーを飲みながらおしゃべりすることがあった。既に芹那にもSMクラブへの勧誘をしてはいたものの、なかなか返事をもらえていなかった。

「店のドレスってさ、自前なのよね。母が若かったころに花登筺さんの小説をドラマ化した『ぬかるみの女』っていう番組があったらしいのね。」

突然、芹那が話し始めた。母親が関西出身でどちらかといえば開けっ広げなタイプらしく、芹那はそれを受け継いでなのか、同じように屈託ないタイプなのだ。

「そうなんだ。それでドラマとドレスになんの関係があるの?」ユリアは興味深そうに話を聞いていた。

「そのドラマの中で、主役の星由里子さんがキャバレーで働いた後に、一着しかドレスがないから毎晩ドレスを手荒いしているシーンがあったらしいのね。

バブルの時代に母たちはそのドラマの再放送を見てたでしょ、だから、貧しくて洗濯機もない家へ住んでる主人公が、洗い桶に水を入れて、ドレスを手で洗ってるシーンは、バブルと対照的だったこともあって衝撃だったって言ってたわ。

その貧しさが、まるで今の私みたいって思っちゃう。私だってお金がないから、あまりドレスを買えないし、マメに洗濯して数着のドレスを着まわししているの。もちろんランドリーで洗って、さすがに手洗いはしてないけどね。

SMのほうは、衣装も準備してもらえるんでしょ?だったら、衣装代を使わなくてすむし、お酒も飲まなくていいから、身体にも負担がかからないわよね。」

「たしかにそうね。お店での衣装は、お店側が準備するって言ってるので。それに、SM衣装を持って回るっていうのも変だよね?きっと。

バッグの中に、バレエシューズと一緒に、黒いボンテージみたいなのが混ざって入ってるなんて。想像しただけで、ちょっと違和感あって笑っちゃうかも。」

ユリアはバレエの衣装とSMの衣装が混在しているバッグの中身をすでに想像したのだろう、クスクスと一人で笑っていた。

「というわけで、SMクラブで働かせてください。」
「わかった。美里さんにインタビューの日を決めてもらうから、少し時間をもらえるかな?」
「もちろん。」

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