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<<創作大賞 恋愛小説部門>>連載小説「憂鬱」-15 METでドガのバレリーナの絵に感動する二人

バレエの主役を演じた公演後、ユリアは、ビデオ通話で玲実にその喜びを伝えた。「玲実、そろそろ夏休みも近づいてきたし、ニューヨークに遊びにおいでよ。ルームメイトにお願いして、家に泊まれるようにしてみるから。」

「本当に?ユリア、お泊りできる場所があるなら、もう少し頑張って家庭教師のバイトを増やして、少し貯金もたまってるから、エアーチケットを手配してみる。会えるのが楽しみになってきた。」玲実の声には喜びが溢れていた。

夏休みに入って、玲実がニューヨークに到着した。彼女たちは久しぶりの再会に喜び、抱きしめ合った。

「ユリア、本当におめでとう。舞台にもう立てたなんて、あなたの努力が実ったんだね。」玲実は微笑みながら言った。

「ありがとう、玲実。あなたの応援があったから、ここまで頑張れたんだ。」ユリアは感謝の気持ちを込めて答えた。

舞台の後からも練習は厳しく、時には挫折しそうになることもあったが、ユリアは自分の夢を叶えるために全力で取り組んだ。彼女の努力は少しずつ実を結び、彼女の踊りはますます美しく、力強いものとなっていった。

だが、玲美のニューヨーク訪問はユリアにとってもつかの間の休息の日となるのだった。

到着日は、玲美が長時間のフライトで疲れているだろうと、ブルックリンのユリアの家近くにあるタイ料理のレストランへ行った。タイ料理とはいえ、ブルックリンのレストランは爽やかな装飾でワインもオーダーできる。

「もう21歳を超えたから、私たちもワインを飲めるね。」ユリアは微笑みながら、イタリア産のソーヴィニヨンブランをボトルでオーダーした。祝杯を交わしながら、少し太めの麺が入っているパットシーウを頬張った。

「美味しい~!」玲美が初めて食べたタイ料理に感動している。
「日本で食べるタイ料理とは違って、アメリカ人の好みに合わせてるのか、ちょっと味が濃くて甘いかも。」とユリア。

「濃い味がキンッキンに冷えてる辛口の白ワインにあってるね。」
「まるで食レポしてるみたいだね。」玲美のコメントにユリアが笑った。

ブルックリンのストリートは夜になっても若者であふれかえっていた。お洒落なバーを横目に、玲美をつれてユリアは家へ帰ることにした。

「時差ぼけで少し疲れてきたかも。」軽いキスを交わし、ユリアのツインベッドで二人は抱き合いながら寝ることにした。

「ごめんね。さすがに今日はすぐに寝ちゃうかも。」玲美は言うやいなや寝息をたてて寝てしまった。ユリアは玲美の寝顔を見ながら、幸せの絶頂に包まれていた。

「玲美ちゃんカワイイ。」玲美の寝顔をそっとスマホで撮影した。

翌日、ユリアと玲実はメトロポリタン美術館に行くことにした。ユリアはニューヨークの名所を見せるために、計画を立てていたのだった。

「ここがメトロポリタン美術館だよ。世界中の美術品が展示されているんだ。」ユリアは誇らしげに説明した。

「すごいね、ユリア。こんな大きな美術館、初めて見るよ。」玲実は目を輝かせて答えた。

二人は美術館内を歩き回り、古代エジプトの展示やルネサンス期の絵画、現代アートまで幅広い作品を鑑賞した。特に印象に残ったのは、印象派の絵画コーナーだった。

「このモネの絵、本当に美しいね。まるで本物の光が差し込んでいるみたい。」玲実は感動しながら言った。

「うん、私もこのコーナーが大好きなんだ。絵を見ると、なんだか心が落ち着くよね。」ユリアは共感しながら答えた。

ユリアも特にこのコーナーが好きで、玲実に見せたかった作品があった。

「玲実、こっちに来て。この絵を見てほしいんだ。」ユリアは興奮気味に言った。

玲実がユリアの指さす方を見ると、そこにはエドガー・ドガの有名な作品「踊り子」が展示されていた。キャンバスに描かれたバレリーナたちは、まるで生きているかのように動き出しそうな躍動感を持っていた。

「すごい…こんなに美しい絵、初めて見た。」玲実は息を飲んでつぶやいた。

「ドガの作品は本当に特別だよね。踊り子たちの姿がこんなにもリアルに描かれているのに、どこか夢の中のような雰囲気もあるんだ。」ユリアは微笑みながら説明した。

「ユリア、私、なんだかこの絵を見ていると心が洗われる感じがするよ。バレエの美しさと儚さが全部詰まっているみたい。」玲実は感慨深げに言った。

「私もこの絵を見るたびに感動するんだ。ドガの踊り子たちは、私たちが目指す理想の姿を描いているような気がする。努力や情熱、それに裏にある苦しみや葛藤…全部が一枚の絵に凝縮されているんだよ。」ユリアは真剣な表情で答えた。

玲実はしばらくの間、絵の前で立ち止まり、その細部をじっくりと見つめていた。キャンバスに描かれたバレリーナたちの特徴ある筋肉の付き方による美しさ、光と影の使い方に目を奪われた。

「ユリア、ドガはどうしてこんなに美しい絵を描けるんだろうね。彼もきっと、踊り子たちの情熱や苦しみを理解していたんだろうな。」玲実は感嘆の声を漏らした。

「そうだね。ドガはバレエを愛し、その中にある美しさを見出していたんだと思う。私たちも踊り手として、その美しさを追求していきたいよね。」ユリアは優しく答えた。

二人はドガの絵の前でしばらくの間、立ち尽くしていた。玲実はその絵に描かれたバレリーナたちの姿を心に刻みつけるように見つめていた。

「私、この絵を見ていると、自分ももっと頑張らなきゃって思うよ。バレエの世界で成功するためには、こんなに美しくて力強い踊り子になりたい。」ユリアは決意を新たにした表情で言った。

「ユリア、あなたならきっとできるよ。いつかドガの絵に描かれた踊り子のように、舞台で輝けるって信じてる。」玲美はユリアの手を握りしめて励ました。

玲実の言葉に勇気をもらい、心の中で新たな目標を立てた。ドガの踊り子たちのように、美しく力強く舞うこと。それはユリアにとって、これからのバレエ人生を支える大きな目標となった。

その後も二人は美術館内を巡りながら、様々な芸術作品に触れ、互いに感想を語り合った。二人にとって、ドガの踊り子の絵は、心に深く刻まれた。

メトロポリタン美術館を満喫した後、二人はイーストビレッジに向かった。ユリアは、ここに玲実を連れて行きたいと思っていたお洒落なカフェがあった。

「ここがそのカフェだよ。イーストビレッジの雰囲気を楽しんでね。若いNYUの学生さんたちもたくさんいるから、夜中まで居酒屋とかもいっぱいなの。ここのカフェは一番のお気に入りで、週末とかに一人で来てゆっくりトーストやコーヒーを楽しむの。」ユリアはカフェの前で玲実に言った。

「素敵な場所だね。さすがユリア、良いセンスしてる。」玲実はカフェの外観を見て感心した。

カフェに入ると、懐かしい日本のシティーポップ松原みきの「真夜中のドア」が流れていた。日本のメロディーが店内に広がり、二人は思わず顔を見合わせて微笑んだ。

「えぇ~、なぜニューヨークで日本の曲なの?しかもママたちが聞いていた古い曲だし。」玲実は耳を澄ませながら言った。

「SNSとかで日本のシティーポップが流行ってるんだよね。アメリカ人に日本の音楽が流行ってるのは、嬉しいかも。私たちも聞いてなかった古い曲だけど、Adoちゃんとか、Yoasobiもアジア系のアメリカ人には人気あるんだよ。」

玲実は、ニューヨークチーズケーキを注文した。二人は窓際の席に座り、街の風景を眺めながらお茶を楽しんだ。

「さすがニューヨークのチーズケーキだけあって濃厚だね。、最高に美味しい!」玲実は一口食べて感激した。

「でしょ?ここってケーキもいつも美味しいの。」ユリアは微笑んで答えた。

二人はカフェで過ごす時間を楽しみながら、お互いの近況を話し合った。ユリアは玲実にニューヨークでの生活やダンススクールでの経験を語り、玲実も日本での生活や学校のことを話した。

「ユリア、あなたの話を聞いていると、本当に刺激を受けるよ。私ももっと頑張らなきゃって思う。」玲実は感心しながら言った。

「玲実、あなたも自分のペースで日本で頑張ってるのわかってる。あなたの日本での話題を聞かせてもらうたびに元気をもらってるの。これからもたまにオンラインで話してね。」ユリアは励ましの言葉を返した。

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