映画の永遠のテーマ「生と死」に果敢に挑む蒼い原石「生と死と夢と」
さまざまな人が表現に挑み、いまだ表現しきれていないテーマとは何だろうか。人によって答えは様々だろうが、私は「生と死」だと思う。
時に文学や映画で綴られる人の生はえてしてドラマティックだが、現実の人の一生は必ずしもそうではない。大半の人は日常に埋没し、大した変化がない中で、死を迎えるのが実情だ。
しかしながら、そのような凡庸な一生であっても、自分が有限の存在であることを意識した人は、凡庸な生活の中に生の輝きを見出すことが少なくない。
中には、映画の素材にもなりうるほどのまばゆい生の輝きを見せることがある。
映画作品でいえば、黒澤明監督の「生きる」が有名だ。
ことなかれ主義をつらぬき、日々をそつなく過ごすことしか考えていなかった市役所の職員が、末期がんであることを知った日から、死の恐怖と戦い、市民が待望した公園の建設に残りの命をささげる覚悟をし、奮闘するストーリーだ。
男が命を燃やし尽くす覚悟を決めた様は実に神々しく、公開から半世紀以上の時間を経た今でも輝きを失っていない。
死を見つめた人間の生が輝くことを、大半の表現者は気づいていると思う。だが、死をあまりにもあざとく描いて、作品じたいが凡庸になりすぎるケースも目立つ。
また、作品自体は一つの世界観を描ききるのに成功しているものの、議論の余地を与えないくらいの完璧な表現を備えた作品は、いまだ存在しないように思う。
そのように難易度が高いテーマに真正面から果敢に挑み、見事な世界観を打ち出すことに成功した作品に出会った。
原周輝監督の「生と死と夢と」である。
まずはストーリーの概略を。
彼女もおらず、SNSで意中の女の子マナミ(愛美)の写真を見ながらオナニーにふけるショウ(生)は、なんともさえない日々を送っていた。
ふだんどおりの朝を迎えた後、買い物に出かけるが不幸にも交通事故に。意識を回復した後に目にしたものは、マナミとそっくりなカリンと名乗る女性だった。
カリンはいったいどこからやってきたのか。自分はどこにいるのか。夢を見ているのかそれとも死んでしまったのか。ラスト20秒まで生きているのか死後の世界にいるのか、はたまた夢の中にいるのか。また、結末がまったく見えない作りこまれた緻密なストーリー……
本作の特筆すべきことは、脚本を徹底的に作りこみ、夢、生、死の世界観を見事に表現しきったことだろう。
簡単な画像エフェクトなどだけで、まるで、夢の中で夢を見ているような不思議な感覚を演出することに成功している。
それでいて、物語が破綻をきたすどころか、どっしりとした安定感を保たせたままラストへ突入させることに成功している。このことは、驚嘆せざるをえない。
もちろん、演技や撮影において改良すべき点はある。だが、それを差し引いても、表現全般において永遠のテーマと言われてきた「生と死」に深い新たな楔(くさび)を打ち込んだことは間違いないと思うのだ。ぜひ、あなたも本作と対峙していただきたい。
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監督 原周輝
プロデューサー 加藤丈慈
主演 水野リューミン 小川真利奈
2021 日本作品 21分58秒