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Civic TechとWeb3とブリコラージュ

この記事は、CivicTech & GovTechアドベントカレンダーの15日目の記事です。


最近、Civic Techやソーシャルセクター関係のイベントでお話させていただく機会が増えてきました。

今年だと、11月にCode for Japan Summitで、Civic TechとWeb3についてお話しました。

また、9月には日本財団さん主催のオンラインのイベントでも対談という形でお話しました。

色々なご縁がある中でこのような機会をいただいていますが、私のエンジニアとしてのキャリアを始めた原体験がソーシャルセクターで活動していたことにあるので、もっとやっていきたいなと感じているところです。それに加えて、自分の原点である領域と今携わっている領域に重なる部分が多いと感じることも増えてきました。この記事では最近感じていることとそれを踏まえてCivic Techについて考えたことをまとめてみようと思います。

改めてWeb3がどう使えるのか?

ブロックチェーン技術に端を発するWeb3という言葉。細かい定義はさておき、分散型のアプリケーションを作ることができ、よりオープンで透明性が高く、誰に依存することがなく停止することのないシステムを作れるようになったトレンドを広く指します。NFTや分散型金融、DAOなど、様々な応用例として世間では認知され始めていますし、これらの技術群は、Civic Techでも応用され始めています。(この辺の話を、先述のCode for Japan Summitでお話しました)

とまぁ、このような説明は至る所でされているので、部分的にでも聞いたことがある人もいるかもしれません。ただこのような説明で「なるほど!」となる人は果たしてどのくらいいるでしょう?笑

大事なのは分散であることなどではなく、そのことがどのように我々の役に立つのか?ということだと常々思っています。この辺を掘り下げていくと、Web3の技術群はCivic Tech分野で大きな力を発揮するのではないかと思えてきます。それどころか、一般的なビジネスよりも、Civic Techの文脈の方がWeb3を使うメリットが大きいと個人的に考えています。その理由は、Civictechが対峙している課題は、一般的なビジネスの課題よりも、よりオープンでかつ長期的な視点で考える必要があるからです。

コラボレーション

ブロックチェーンをはじめとするWeb3の技術群は、分散したリソースを統合し、インセンティブやモチベーションなどを活かした独自のメカニズムで自律的な調整を目指すという考え方に基づいています。ここでいうリソースは、資金やデータ、人材、情報などを指しています。これらのリソースを集めて繋ぎ合わせるためのひとまとまりのルールのようなものを「プロトコル」と呼びますが、ブロックチェーン技術、特にスマートコントラクトという技術によって状況に合わせて自由に構築することができるようになりました。

このことは、人や組織、コミュニティが有機的にコラボレーションする上で大きな影響を与えます。考えてみれば、Civic Techの分野は、地域やよりグローバルな課題解決のために地域住民や行政、企業、NPOなど様々なステークホルダーが関わり行動することが求められます。それまでに得た経験や価値観、利害関係などが異なるステークホルダーが、一つの課題に向き合うことは、決して簡単なことではありません。だからと言って、誰か一人が頑張れば解決するというものでもありません。より効果的なパートナーシップを構築することはCivic Techのみならず社会課題の解決において重要なことは言うまでもありません。

パートナーシップや協働は、ステークホルダー間の契約や法的な枠組み、入念な利害関係の構築などなど血の滲むような努力の上で成り立ちます。それ自体とても重要なことですが、それによって生まれる摩擦やコストは無視できませんし、より多くの関係者を巻き込むこともなかなか難しいものがあります。それがもし、ブロックチェーン技術を使って構築されたプロトコルによって、もう少し簡単になるのであれば、本来向き合うべき課題に向き合うために、パートナーシップの構築に費やす時間やコストを減らすことができるのですから、大きなメリットになると思います。

場所、そして時間を超える

本来、デジタル技術はあらゆるボーダーを溶かしていく性質を持っています。コンピュータやインターネットの登場により、国境も組織も言語も超えて情報をやりとりできるようになったことはその最たる例です。言わずもがな、このことは世界を大きく変えていきました。

しかし、ブロックチェーン以前のデジタル技術がまだ超えられていないボーダーがありました。

それが「時間」です。

ピンとこない方もいるかもしれませんが、ブロックチェーン以前のインターネットではデータを瞬時にやりとりできても、その保存や管理は企業や管理者のサーバー(コンピュータ)内で行われています。そのため、企業や管理者がサーバーを停止させれば、そのデータには基本的にアクセスできなくなります。永遠にその企業が生き残ってくれればいいのですが、そうはいかないのが現実です。また、企業が倒産したり、サーバーが壊れたり、管理者がいなくなったりしても、同様です。

しかし、ブロックチェーン技術はシステムの運営を分散型にすることにより、特定の管理者を必要とせずにシステムを運営することができます。事実、ビットコインのシステムは、これといった管理者がいない環境で2009年に誕生して以来、大きなクラッシュを起こすことなく、これまでの全ての取引データを保存しています。この調子でいけば、20年、50年、100年それから先へとデータを保存し続けることができるかもしれません。(こればかりはその時になってみないと分かりませんし、技術的な壁もなくはないので注意がいりますが。。)

このように、インターネットの第3の進化とも言えるWeb3はついに時間を超えていく力をインターネットに与えました。

世の中の社会課題と呼ばれているものを思い起こしてみると、そのほとんどが世代を超えるものが多いことが分かります。貧困、格差、気候変動などなど、、負の遺産が世代を越えて子や孫の世代よりも遠くの世代にまで受け継がれていることもままあるでしょう。

一方で、それを解決しようとする取り組みについてはどうでしょうか?社会課題に対応しようとする多くの取り組みは人材面や資金面でその持続性に問題を抱えていることが多いものです。

地方創生、気候変動対策、貧困対策などどれをとっても、長い期間に渡って努力を続けていく必要があります。仮に社会課題が人間で言う病気だとするならば、それは生活習慣病のようなものです。今日明日、食事や運動を変えても、すぐに効果は出ません。もしかすると数百年かけて受け継がれた病(課題)は治癒(解決)にそれと同じだけの時間が必要かもしれません。少なくとも一つの世代で解決はしないでしょう。だからこそ、人や組織の寿命を超えて取り組みを継承していける仕組みが必要だと思います。

インターネットやWeb3の技術群はそのために必要な「何か」を提供してくれるのではないかと思えてなりません。その可能性を引き出していくのも自分の役割なのかもしれないと思っています。

終わりに〜ブリコラージュ〜

ここまでWeb3とCivic Techについてつらつらと書いてきましたが、個人的な考え方として、Civic TechではWeb3やAI、IoTのように特定の技術に絞って考えるべきではないと考えています。そうではなく、どのような課題を解決するのかの視点で考えるべきです。

しかし、引き出しを持っておくことには大きな意味があります。

この時代、凄まじいスピードで新しい技術が生まれ進化しています。目の前にある課題を解決するために、「あ、これ使えるんじゃない?」と考えられるかどうかが大事だと思います。

「ブリコラージュ(Bricolage)」という言葉があります。文化人類学をはじめ様々な分野で用いられる用語ですが、その場で手に入るもので試行錯誤し新しい何かを作り出すことを言います。今向き合っている課題、自分が望む社会、譲れない価値観などを軸に、様々な技術やツールを使って、自分たちなりのやり方を考えていく。この時、より良いやり方を考えるために自分の手元にある引き出しを常にアップデートしておくことは重要ですし、今回紹介したWeb3の技術群もその一つだと思います。

今年はGPTをはじめとする生成AIが快進撃をとげ、望もうと望むまいとこれからの世の中どうなるんだという感覚を持った人が多いのではないでしょうか?歴史的にみても経験がないほどのテクノロジーの進化を目の当たりにしている今だからこそブリコラージュによる課題解決が求められるのではないかと思います。その時、このブログで紹介したWeb3のことも思い出してくれればと思います。

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