ふるさと納税制度の是非

一 ふるさと納税制度とは

 ふるさと納税制度とは、2008年度(平成20年度)税制改正において導入された、所得税及び個人住民税の寄附金控除の制度に個人住民税の寄附金控除の上乗せ分としての特例が導入された制度である。納税というよりは、寄附金制度の特例であるが、このふるさと納税制度を利用すれば実質的に個人住民税の納税負担が寄附の金額に応じて軽減されるため、納税という表現が使われている。

 ふるさと納税の仕組みは、所得税の納税義務者が都道府県又は市区町村に対し寄附をした場合に支出寄附金のうち2,000円を超える部分について、一定の上限までは、原則として所得税・個人住民税から全額が控除されるというものである。控除限度額内であれば、2,000円多く負担するだけで自分の好きな地域、例えば生まれ故郷などの歳入を増やすことができるため、故郷を応援する狙いがある。

二 ふるさと納税制度の問題点

 ふるさと納税制度が導入されて以来人気が高まった理由の一つに、寄附に対しての特典を設ける自治体が多く、謝礼として名産品等を贈るといった各地のお取り寄せグルメ等を実質負担2,000円でできるメリットがあげられる。

 自治体としても資金を被災地の復旧・復興に役立てる等使途をはっきりさせたり、寄附をした者に対して謝礼品を贈る等により寄附金も増え、地域産業の活性化にもなる事から色々趣向を凝らした謝礼を用意している。

 そのため、一部地方自治体において返礼品の内容を豪華にすることで寄付金集めの競争が激化する傾向がみられ、総務省は過度な返礼品競争にストップをかけるため規制を強化することとなった。すなわち、2020年度(令和元年度)税制改正においてふるさと納税制度の対象となる寄附金(特例控除対象寄附金)は、総務大臣が一定の基準に適合する自治体として指定した自治体への寄附金とし、これにより、令和元年6月1日以降は、この指定を受けた自治体に寄附した場合に限り、翌年分の個人住民税において特例控除対象寄附金の対象となった。

三 ふるさと納税制度の是非

 従来、大都市圏とその他自治体の税収格差是正の役目を担ってきたのは、地方交付税である。地方創生の流れの中その規模を拡大してきたふるさと納税は、地方交付税の代替施策になろうとしている。

 ふるさと納税制度の受け入れ額と流出額の状況を地方別にみた場合、三大都市圏在住者が他の自治体に寄付したふるさと納税額は、地方自治体の収支に大きな影響を与えている。これは都市圏在住者が多くふるさと納税を活用していることを示している。

 特に東京23区を含む関東地方では、納付されたふるさと納税の控除額が全国で最も高く、関東地方から税源の一部が地方へと移転している。このことから、一定程度都市部の税源を地方に還元することで自治体間の税収格差を是正していることがわかる。一方、ふるさと納税をする人が多く財源が他地域に流出している大規模な自治体では、財源不足が生じているところもある。これはふるさと納税により従来の税源が他の地方自治体に流れ出て少なくなっていることと、多額の地方交付税の原資を払っていることなどが理由である。ふるさと納税により多額の財源が流出した自治体は、地方交付税によって一部補填される仕組みになっている。しかし地方交付税の不交付団体である東京23区は補填の対象となっていないため、純粋な減収となっている。このことは、ふるさと納税が東京23区とその他地域の税源のアンバランスな状況を是正する効果を有していることを示している。

 このことから、ふるさと納税制度は、従来地方交付税によってしか地方自治体格差を是正しえなかった方法に新たな方策を生み出したといえる。しかも、国からの一方的な配分にすぎなかった地方交付税交付金にくらべ、ふるさと納税制度は地方公共団体の知恵と工夫と努力によって財源を確保するという側面を有している。この点はふるさと納税制度のメリットと考えてよいと思われる。

 もっとも、しかし別の側面からみると、大都市と地方の新たな分断を招いているともいえる。ふるさと納税の税制面でのメリットが強調されすぎ、また地方自治体間の過当競争を生み出して、財源流出自治体と財源流入自治体の格差が生まれ始め、地域間格差の是正という本来のふるさと納税制度の趣旨からはずれた利用の仕方も生まれ始めている。政令指定都市の市長の中からは「ふるさと納税だけでは税収の格差は是正できない」「新たな財源の不平等が生まれている」という声も上がっており、税源の移転によって恩恵を受けている地方自治体の状況も一様ではない。約30%の自治体が寄付の受け入れ額よりも流出額が多くなっているため、メリットを享受している自治体とデメリットがある自治体の分断が大きくなっている。ふるさと納税が今後さらなる地域間の分断を生まないためにも、地方交付税など他の制度と組み合わせバランスをとりながらより適切な制度設計をしていく必要があると考える。

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