MMT(現代貨幣理論)はどこがまちがっているのか?

一 MMTとは
 MMT(現代貨幣理論)とは、通貨発行権を持つ国では、自国通貨が自由に創出されるため、自国通貨建て政府債務の不履行(デフォルト)は生じないと説く理論である。したがって、この理論に基づけば、巨額の財政赤字を抱えている国でも、景気安定に必要ならば自国通貨建ての債務を更に増やし、インフラ投資などを行うべきということになる。
 
 しかし、この理論には主流派経済学と言われる新古典派経済学者からの批判が強い。中央大学法学部の国枝教授が、公益財団法人日本証券経済研究所での講演でMMTを批判的に論じているので、検討したい。

二 Taxes Drive Money
 国枝教授が理解しているMMTの理論で誤りだと考えられる点は以下の通りだという。
1 まず、MMTは、租税制度が存在する理由は財源確保ではなく、通貨の需要を創出する点にあるという主張をしている。

2 また、政府部門で財政赤字が発生すると民間部門で同額の貯蓄が発生するため、クラウディングアウトは起きないとも主張している。

3 したがって、政府の予算制約式に基づく理論(①政府には予算制約式があり、税収か国債で財源を調達する必要がある。②大不況の場合等を除き、国債は経済の負担となる。③財政赤字はクラウディングアウトを引き起こし金利が上昇する。④財政赤字は、将来世代の負担となる。この負担を減らすには、増税か歳出削減が必要。⑤財政赤字拡大は、将来の増税幅拡大を意味する。)を否定する。

三 国枝教授の批判と反論

1 納税のために必要だからキャッシュに価値があるというのであれば、増やした貨幣に見合う増税が存在しなければ、キャッシュは不要ということにならないか。

 しかし、租税制度は貨幣の需要を創出するために存在すると言っているのであって、貨幣は納税するためだけに存在するとは言っていない。モノやサービスを購入するためにも貨幣は必要であって、貨幣に見合う増税が存在しなければキャッシュは不要ということにはならないだろう。

2 民間投資と民間貯蓄がある一定の金利で均衡がとれている状態で、財政赤字が発生すれば、国内の資本市場で国債の需要が発生するため、需要曲線が右にシフトすることになる。すると金利が上昇した地点で均衡状態となるため民間投資が抑制されることになり、クラウディングアウトが発生する。

 しかし、国債発行分だけ財政支出をすれば民間貯蓄も増加するから、国債の需要曲線が右に移動した分だけ貯蓄の曲線も同様に右に移動するから、結局金利は前の地点に戻り金利の上昇は発生しないのではないか。


3 そうすると、家計が通貨発行益で財源を調達したけれども、政府の予算形式あるのでいずれ増税するということを理解していなければならない。むしろ政府の予算制約式を認識してこそMMTが成立するわけであり、政府の予算制約式を無視するMMTの主張と矛盾するのではないか。
 

 しかし、国民が貯蓄するのは、なにも将来増税があることを予想したからとは限らない。政府の予算制約式を認識しなくとも、単純に生活の不安や将来への備えから貯蓄することも十分に考えられる。政府の予算制約式が前提の議論には必ずしもならないだろう。


 また、政府が国債を増発して財政支出しなければならない局面というのは、景気が停滞している局面だから、失業と遊休資本が存在しているかぎりは、財政支出を増大してもクラウディングアウトは発生しないのではないか


 もっとも、政府による国債発行をしたものの財政支出をすることなく(たとえば国債償還費に充てるなど)、民間の資金を吸収する一方ならば、市中の貨幣量は減少するから金利の上昇が生じる可能性がある。したがって、日銀が貨幣供給量を拡大しないと、金利の上昇をもたらし投資を抑制することはあるだろう。そうならないように、財政政策と金融政策の親和的なポリシーミックスが必要となってくるのだ。


4 普通のサラリーマンは税金を源泉徴収されているので納税を意識していないという批判までくると、もはや「ためにする議論」の様相を呈する。

 租税制度がなんのために存在するかという議論と、各個人が納税を意識しているかどうかとは別次元の問題だ。源泉徴収で意識していないとなかろうと納税を貨幣でしている以上、貨幣の需要は創出されているのであり、源泉徴収のために額面給与はもらわなければならないだろう。手取りの給与で普通のサラリーマンは生活していくのである。納税のためだけに貨幣を稼いでいるわけではない。
 したがって、租税制度が貨幣の需要を創出するために存在すると主張するからと言って、それ以上の貨幣を稼がなくてもよいことにはならないし、MMTがそのように主張しているわけでもない。

四 まとめ
 このようにみてくると、MMTに対する批判も、新古典派経済学の立場に立てばという議論が多く、MMTが理論的に間違っているというよりは、自らのよって立つ学問体系によればMMTの理論は誤っていると主張しているにすぎないことがよくわかり、それはそうでしょうねということになる。



参考文献
国枝繁樹 公益財団法人日本証券経済研究所https://www.jsri.or.jp/publish/review/pdf/6104/02.pdf


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