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「あなたは数学が好きですか?」 川添愛『数の女王』を読んで

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はじめに

 今回は、以前読んだままにしていた川添愛さんの『数の女王』についての読書メモです。ここ最近、読んだ本には必ず読書メモをつけるようにしているのですが、この本だけは、読み終わった後も、なかなか感想を書く気にはなれなかったんですよね。そんなにこの本が僕に合わなかったのか…いや、その逆です。とてもおもしろかったからこそ、書くのに困っていたんです。誰しもがそうだと思いますが、面白いと自分が思った本ほど、すらすらと読むことができますよね、「勢い」とでもいいましょうか…。

 僕はこの本を読むにあたって、自身がどんどんページを捲ってしまう「勢い」のようなものを感じていました。勢いよく読み終わり、「とてもおもしろい!」という感想を抱いたのはいいのですが、それをその「勢い」のまま書き連ねてしまうと、他者が僕の記事を読んでも何の面白味もない、「勢い」にアテられただけのものになってしまう気がしたんです。だから、一度間をあけて他の本を読み、もう一度この本に向かい合って、自身の中でどのような点が面白いと感じたのかをゆっくりと反芻しながら書いていこう、と思っていました。

 そして、『数の女王』を読み終わってから何冊か読んだ後、もう一度、この本に戻ってきた次第です。

本を手に取るまで

 この本を手に取った理由は、少し邪道なものでした。僕が働いている本屋の業務の中で、「担当業務」と呼ばれるものがあります。自身のジャンルの売れ線を把握したり、新刊を仕入れたり、さらにその宣伝なんかを考えたりするのですが、その過程で『数の女王』に出会いました。

 はぁ~、数学関係の本なのかな、数学あまり得意じゃなかったしな…という第一印象を覆すかのように、著者の川添愛さんが言語学を専門とする研究者であることを知りました(少しだけ論文なども拝見しました)。そして、研究者を経て、小説を書かれている。すごい経歴の持ち主であることを知りました。
 知れば知るほど、この方が書く「数学に関する小説」とはどのようなものだろうか、という思いが強くなり、この小説を手に取りました。

 手に取ってみて…何か違和感を感じました。それは、本書が横書きということです。え?小説が横書き?左開き?何それ???という風にしてこの本を読むことになりました。

あらすじ

 主人公のナジャは、メルセイン王国の王女。この世界では、人々はみな神から「運命数」を授けられているという言い伝えがある。十三歳のナジャは、母である王妃から愛されず、使用人同様の扱いを受けていた。
 ある日、数年前に死んだ最愛の姉ビアンカが、実は王妃によって呪い殺されたという噂を耳にする。真相を追う中でナジャは不思議な鏡を手に入れ、導かれるようにその鏡の中に吸い込まれた。そこで、王妃の呪いの手伝いをさせられている妖精たちと出会い、彼らから王妃の秘密を知らされる。(Google Booksより引用)


 今回はこのあらすじに加えて、作品の核になる運命数について、少し作中から抜粋します。

初めに数があった。

すべての存在の源、母なる数、すなわち数の女王たる最高神は、大気を生み、子たる神々を生み、大地を造り、妖精を造り、そして人を造った。

母なる数は、すべての「子」に一つずつ、数を与えた。

その数こそ生命そのもの。我らを形作る運命数。

 この「運命数」というものを巡ったファンタジーになっています。

感想

▷本の感想

 白雪姫をベースにしたファンタジーで人物相関がとても分かりやすく、読んでいて眉間にしわを寄せるようなこともなく、ストーリーの展開も無駄(というか伏線回収のための少し難易度の高い挿入や回想)がなく1つ1つの場面がはっきりと繋がっていたので、前述の「勢い」をもって読むことができました。

 作者の川添愛さんが言語学の学者さんであるからこその文章力と、正確に状況が伝わる言葉遣いで、数学に関する説明がとても分かりやすかったです。後程詳しく触れますが、読み始める前に抱いていた「数学が苦手なんだがどうしよう」というような感覚は一切無く、「数学」というより「パズル」や「謎解き」をしているようで、読んでいて飽きない作品でした。

 ネタバレは避けたいので、あまり中身については深く触れられませんが、読んでいて感じた「勢い」はこんな感じだと思います。1つ、読みにくさを挙げるとすれば、登場人物の名前に馴染がないこと。ファンタジー調の作品だからこその名前が少し覚えにくい、ということくらいでしょうか。でもそれは、小説のテーマ上、さして論うことでもない気もします。だって妖精さんが僕たちに親しみ深い名前で書かれてもねぇ…。

▷本を通して

 本を通して思ったこと、それは
 「本当は数学、好きなんじゃないの?」 ということでした。勿論、昔は嫌いでした。今と同じように本ばっかり読んでましたし、高校生までの間、「公式を覚えるのが面倒。」「覚えても計算が間違えてたら一緒。」
「微積とか三角比とか、そもそも方程式とか、どこで使うねん!」
 って思ってました。数学が楽しいと思ったことなんてこれまでに一度としてなかったと思います。

 そんな僕ですら、この本を通して「数学って面白いんじゃない?」って思えたくらいこの本には数学の魅力が詰まっていました。
 聞き覚えのない「フィボナッチ数列」だとか「何とかの定理だ」と言われても、数学嫌いの僕は拒否反応を起こしてしまいそうですが…

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 【花の数の合計を”69945”にしなさい】
 【①同じ種類の草を使ってはいけない】
 【②隣り合わせの種類の草を使ってはいけない】

 と、こんな風に言われてみたら、パズルみたいで面白そうですよね。やってみたくなるじゃないですか、勿論僕は読みながら挑戦してみました。そんな工夫がこの本のいたるところに張り巡らされていました。しかも、ストーリーは白雪姫ベースで。(ただただ作者の凄みを感じますが。)

 こんな感じで作品を通して「数」の世界に魅了された僕は、数学っておもしろいのでは?と少し思うようになりました。学校の数学って将来何に使うかわからないし、公式を覚えては忘れて点が取れず怒られ…正直面白くないものでしたが、少なくともこの本で出てくる「数学」は違います。勉強というよりもパズルのような。難しい定理なんかも「覚える」ではなくて「楽しみながら知る」というものでした。僕にとってはこの体験は初めてだったので、数学の世界に興味がわきました。

おわりに

 この本は読みやすいストーリーと数学のパズルとの複合ですので、大人から小学校高学年くらいの子どもまで、多くの層の人が楽しめる内容になっています。
 数学を大学でも専攻しているような研究者、学校で難しい計算をし始めて、数学が嫌いになりかけている中高生、僕のように数学が嫌いなまま大人になった人、これから子どもたちに数学の楽しさを教えようとしている学校の先生、たくさんの人がこの本を読んで、数学の楽しさに気づいてくれたらいいなと思います。

 以下、僕の記事ではないですが、『数の女王』についてなるほどなぁ、と思った記事をあげています。気になる方はこちらもぜひ。


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