グッドパッチ10周年プロジェクトと起業して10年を振り返る
グッドパッチは2021年9月1日で創業10年が経ちました。
10年前にグッドパッチを起業したときにはまさか自分が10年間も会社を経営し続けられるなんて思っていませんでしたが、なんとか沢山の幸運と多くの人に支えられながら10年続けることができました。
今日はこの半年社内で進めていた10周年プロジェクトと起業して10年を少し振り返りブログとして残しておこうと思います。(すいません、やっぱり書いてたら長くなりましたw)
メンバーを巻き込んだ10周年の群青プロジェクト
今回の10周年のプロジェクトは多くの社内メンバーを巻き込んだプロジェクトでした。実はIPO後の半年間で期待されていた若手メンバーの退職、長引くコロナ禍でのリモートワークなどで漠然とした不安感のようなものが組織にでてきそうな状況でした。
元々今年がグッドパッチの10周年だという事は分かっていたので、僕はこの10周年を漠然とした不安を払拭するための一つのツールとして使えるかもしれないと考えました。そして、社長報でこんな投稿を投げました。
そこから多くのメンバーがこの群青プロジェクトに関わり、まずGoodpatchのDNAを探るためメンバーへのインタビューや未来に起こることのリサーチなどから、次の10年に向けてのキーワードを探るところからスタートしました。
約2ヶ月間で社内メンバー、役員、クライアント、卒業生、社外パートナーなど総勢52名にも渡る人達にグッドパッチについての期待や可能性をインタビューして回りました。
Strap上で展開されたメンバーインタビューの議事録
このインタビューをSlackのチャンネル内にリアルタイムで垂れ流すことで、最近話していなかったメンバーの熱い思いが聞けたり、コロナ期間中にグッドパッチに入社してメンバーとのコミュニケーションが不足しているメンバー達がこのインタビューを通じてグッドパッチのメンバーが大事にしている価値観や想いを知る事ができ、このプロセスが実はとても良いカルチャー浸透施策になっていました。
様々なメンバーへの多角的な角度からのインタビューから出る金言やパンチラインは既存メンバーも新メンバーにとっても刺激的で、改めて自分たちの会社の強みや課題が見える良い場になったと感じています。
見えてきた次の10年を表す言葉
そんなインタビューを繰り返す中でグッドパッチの未来に繋がるキーワードが見えてきました。それがこの言葉でした。
グッドパッチのBXデザイナーKaiが教えてくれたこのStauts Quoという言葉はラテン語で「現状や当たり前」という意味です。
グッドパッチがこの10年やってきたことは、それまでのデザイン会社の当たり前とされた事を疑い、固定観念やバイアスに囚われずに領域を越えて挑戦してきたからこそ今があります。
こういった誰かが歪めてしまった固定観念に対して、その当たり前の裏側にある本当の価値を問い直し、世の中に発信し、未来を見据え泥臭く挑戦し続けて来ました。グッドパッチという会社はこれをやってきたことで今があります。
このBeyond the Status Quoという言葉には常に現状や当たり前を問い直し、今の延長線上ではない未来を目指していくという想いが込められています。
次の10年もこの想いを持ち続けよう、これを次のムーブメントにしようと多くのメンバーが関わりウェブサイト、グッズ、ブランドブックなどの制作を進めて来ました。
2021年9月1日の10周年の社員総会。コロナ期間中ではありますが、ソーシャルディスタンスを取り、感染対策をしっかりした上で渋谷のセルリアンタワーの大きな会場を借り、リアルとオンラインのハイブリッドな形で社員総会を開催しました。(現地参加者のワクチン摂取率は90%以上)
カンファレンス形式で社員同士のトークセッションや10周年記念グッズのデザインコンセプト発表やアワードなど、約2年ぶりのリアルな場での社員総会で久しぶりに会うメンバー達との交流、オンラインで参加するメンバーの実況チャットも盛り上がり、忘れられない10周年の場となりました。総会の様子はまたGoodpatch Blogでレポートすると思うのでお楽しみに。
10周年ということで普段は広報が書いているプレスリリースも自分で書きました。
10周年のウェブサイトもNocodeではなくしっかりと実装しています。
グッドパッチの卒業生や多くの関わってくれた人々が#Goodpatch10thでつぶやいてくれており、とても嬉しかったです。今回10周年のコンテンツはここで終わりではなく、今後も更新されていくので発信をチェックしていただければと思います。
追記:更新されました ↓↓
起業10年という期間を振り返り
僕は27歳で働いていた会社を辞め、サンフランシスコに渡り、帰ってきて28歳で起業したのですが、起業した当初は10年間も会社を経営できるなんて全く思ってませんでした。大学も中退、有名な会社で働いていた訳でもない、凄いトラックレコードがある訳でもない、そんな経歴なのでまさか最初の起業でうまく行くなんて事はないよなと思っていました。
しかし、選んだUI/UXデザインという領域が良かったこと、初期にグノシーやマネーフォワードなどのその後大きく成長していくスタートアップに関われたこと、キャッシュが無くなりそうになった時に何の信用もないグッドパッチに仕事を出してくれた共同通信社の鈴木室長、事業計画書もピッチデックもないグッドパッチに1億円の投資をしてくれたデジタルガレージの猿川さんそして林社長など、創業期は数々の幸運によって成長の軌道に乗ることができました。
今振り返っても創業期はほぼ運で、もうダメかもと思う状況に陥る度に神風のような事が起こり助けられました。もちろん、運を引き寄せるための行動をしていた部分はあると思いますが。
意識が変わったターニングポイント
この10年の起業家人生の中で、振り返ってもターニングポイントになったと思うのは、2014年にビジョン・ミッションを決め、腹を括った事にあると思います。その時まではまだ潰れる可能性あるだろうなとか、思考がふらふらしていたかもしれません。
最初はUIデザインという領域に興味を持ち、ソフトウェアやサービスを作る仕事がやりたい、それだけでした。最初から強い情熱も使命感もありませんでした。ただ、家族や社員を食べさせるためにがむしゃらにやっていただけでした。
しかし、途中で出会った仲間たちが僕にデザインの素晴らしさを教えてくれました。デザインという領域の可能性をやればやるほど感じるようになっていきました。
2014年に改めて社会というスコープでグッドパッチの使命、存在意義を考えた時にこのデザインという領域が今後さらに重要性が増していくのに、ビジネスシーンではその価値が低く見積もられている現状に明らかに負があると気付きました。本来のデザインの価値を世の中に理解してもらわないといけない。
正直、自分が適任なのかどうかはわかりませんでした。でも、僕はそのボールを拾い、グッドパッチでやり遂げると覚悟を決めたのでした。
この言葉を最近知ったのですが、平川克美さんの楕円幻想論という本に書いてある一節で、まさにそうだなと。この時の選択が自分の起業家人生に意味を与えてくれたと思っています。
ここから明確に意識が変わりました。会社が潰れるかもしれない→絶対に潰さない、IPOと売却の選択肢がある→IPO以外の選択肢を捨てる、辛い状況になっても絶対に辞めないと、覚悟が思考の錨(イカリ)となりブレがなくなっていきました。
その後、組織の成長期に起きた組織崩壊時にも、たしかに精神的には辛かったですが、自分自身は辞めないと決めていたし、問題に向き合い続ける覚悟もしていたので、問題が解決するのが1年後になるのか、2年後になるのか、5年後になるのかわからないけど、諦めないと決めているのでいつか夜が明ける日が来ると思ってやっていました。覚悟が決まっていると自分のキャリアとか変な脳のリソースを使うことがないので良かったです。
企業によって適切な成長の速度がある
10年間、経営をしてみて分かったのは、それぞれの企業ごとに適切な成長スピードがあるということです。スタートアップシーンを見ていると創業数年で何十億もの資金調達を果たし凄いスピードで成長していく会社やピッチコンテストで優勝したり、凄いトラクションを出している会社を見て、起業家は「あんな風に成長しなければ」と焦ることも多いと思います。
でも、必ずしも大きな資金調達をしてもそれが成功に直結する訳ではありません。事業によって適切な成長スピードは違うのです。童話のうさぎとカメのように一定のスピードで進んだカメが足の早いうさぎに勝つなんて事は沢山あります。
グッドパッチもどちらかと言うとカメの部類の会社だったと思います。周りに焦る気持ちもわかりつつ、顧客と自社の価値に向き合いながら、じっとアクセルを踏むポイントを待つ胆力も必要です。アクセルの踏みどころを間違えて消えていった会社もこの10年間で何社も見てきました。
もちろん、踏むべき所で踏めずに成長のポイントを逃してしまったスタートアップもあるので、やはり経営においてタイミングの見極めが一番難しく、アーティスティックな部分かもしれません。
起業初期からやってて良かったこと
改めて、こうやって10年を振り返る時にやってて良かったなと思うことは、起業前から今までの記録をブログや社内の社長ブログに書き残しておいた事と、しっかり社内の出来事を創業期から写真に残しておいた事です。
この2つのブログには僕がグッドパッチを起業する前にシリコンバレーに行く所からの記録が残っていますし、その時その状況で自分が感じた事が自分の言葉として残っています。
やはり、その時の感情は後から振り返っても取り戻せませんし、その状況でしか書けない自分の言葉があります。それがログとして残っている事でストーリーになるし、社内メンバーは社内ブログに書き残している僕の言葉で、過去の出来事をより解像度高く見ることができ、自社理解と当事者意識のアップに繋がります。
写真に関しても、その時にちゃんと残しておく事が大事です。思い出は取り返せません。創業期に全然写真撮らなくて後悔している起業家は結構います。今回、総会ムービーを作る時にも写真があって助かりました。
ラブグラフに頼んでみるのも良いと思います。(10周年社員総会もお世話になりました。)
10年間走り続ける秘訣
10年間、会社経営をやり続けてきて大事だと感じている僕なりのポイントを5つまとめました。(もっとあるんですがもう文字数がやばいのでw)
1、顧客に向き合い続ける
これは経営における基本の基だと思います。顧客に向き合い続けて、深い部分の本質ニーズや微妙なニーズの変化に経営者が敏感であることはとても重要です。ある程度大きくなると顧客の前に立たない経営者も多いですが、僕は今は流石に現場オペレーションには関わりませんが、プロジェクト終了後に顧客に直接自分でインタビューに行っています。これに関しては別途ブログにでも書こうと思っています。
2、仲間の成長のために見える景色を変え続ける
10年やってきて悟った事は、企業の成長というのは人材の成長と密接に結びついているという事です。僕はグッドパッチの経営においてメンバーの成長に重きを置いてきました。途中で自社を人の可能性に投資する人材成長カンパニーと定義し、人材に成長機会を与え続けれる会社になると宣言しました。
そのためには仲間のために景色を変え続ける責務が経営者にはあると思っています。自社が成長し、新たな機会を創出し、メンバーが見える景色を変え続ける。これを意識してやってきた事で今があると思っています。
※参考:未開の才能を育てる
3、トレンドやうまい儲け話に流されない
この10年間、ビジネスシーンでは様々なトレンドがありました。ソーシャルゲーム、キュレーションメディア、暗号通貨など多くのトレンドがありました。僕はそういったビジネスに安直に飛び乗ることはしませんでした。どれもビジネス自体否定はしませんし、興味はあって自分自身で調べることはするのですが、自社のミッションに結びつかない事を安易に手を出すことはしませんでした。
やはりトレンドが認識された時にはもう遅いのと、これは儲かると誰もが分かるビジネスは一瞬でレッドオーシャンになるので、僕の場合は手を出さなくて良かったと思っています。短期トレンドに振り回されず、自社のビジョン・ミッションに向き合い続ける事が大事だと思います。
4、自分たちがまだまだだと認識するメタ認知力
起業家は調子に乗りがちな生き物です。少しうまく行きだしたり、大型の資金調達なんかをするとすぐ調子に乗ります。これを律する精神力が必要です。調子に乗りそうな時は、下ではなく上を見てください。
おすすめはソフトバンクの決算説明会を毎四半期見ることです。孫さんが2月の決算発表会で純利益3兆円出した時に、「40年経営をやってこの程度であることが非常に恥ずかしい」と言っていた時にアゴが外れました。孫さんに比べればどんな起業家も調子に乗ることはできないはずです。
5、良い刺激を与え合える同世代の起業家仲間
この10年、多くの起業家に出会ってきました。その中でも同時期に起業した起業家や、同世代の起業家の活躍にはいつも刺激を受けていますし、健全な嫉妬心を感じ、自分も頑張らないとと目線をぐっと上げられる事が多いです。みんな何かしらのハードシングスがあるので、時には励まし合い、叱咤激励し合いながら、お互い成長していき、上場する人もいれば売却をする人、次のチャレンジをする人もいる、そんな起業家の仲間たちに刺激を受けながら10年間やってこれたなと思っています。
お互いを高め合える起業家仲間、そして健全な意識の人が多いコミュニティというのはとても大事だと思っています。
起業家として何より幸せだったこと
この10年間を振り返って、改めて思うのは
これが何よりも起業家として幸せな事だったんだなと思っています。
デザインというテーマは10年以上関わっていてもまだ理解し切れないし、グッドパッチという会社を成長させるという事についても、全く飽きが来ることがなく自分の全リソースを投下し続けています。
10年前に聞いたGMO熊谷社長の言葉
起業する少し前に京都でIVSというベンチャーイベントの学生向けワークショップに参加する機会がありました。(僕は当時社会人大学院生でした)そこにGMOの熊谷社長が登壇し、学生に向かってこんな事を言っていました。
「就職か起業を迷われている方、僕は起業をオススメします。起業家という職業はたくさんの人の笑顔に触れれる素晴らしい仕事です。」
学生のリクルーティングで来ているはずの熊谷社長がこれを言っていて驚いたのですが、その後自分も起業家という道を選び10年間やってみて、熊谷社長の言う通りだったと思っています。もちろん、辛いことも多いですが、それを上回る喜びを感じることも多いです。特に僕にとっては多くの仲間と出会うことができ、そんな仲間たちと喜びも悲しみも分かち合う掛け替えのない経験を得ることができました。
10年前にグッドパッチを起業して本当に良かった。
10年の感謝と今後に向けて
長々と書いてきましたが、改めて10年もグッドパッチを経営し続けることができたのは、支えていただいたクライアントの皆様、パートナーの皆様、株主の皆様、いつもグッドパッチを応援してくれている皆様、そして何よりグッドパッチで働くメンバーの皆さん、皆様の支えのお陰です。
そして何よりも、家族です。妻と子供たちの支えがなければ、10年も続けることは間違いなくできなかったと思います。感謝してもし切れません。
僕が起業した10年前は、まだ家族がいながら起業する人は少なく、家族がいたとしても、家族を犠牲にしてでも打ち込まなければ起業は成功できないというバイアスがまだあったように感じます。
僕はそのバイアスにも起業初期から抗ってきました。起業直後から、会社には夜遅くまで残らず、家に帰り家族の時間を持ち、家族が寝静まってから夜中に仕事をするのを続けました。土日も頭では考えていつつも会社に行くことはありませんでした。
家族の時間を大切にしながら、会社を成功させる事を意地でもやってやろうと思っていました。完璧な父親ができているとは思いませんが、それでも今も家族との時間を僕なりに大切にしながら、上場も果たし経営を続けれています。
今では周りの起業家も家族を持つ人が増え、育休を取ったり、ビジネスの成功のために家族を犠牲にするという価値観は減ったように思います。
こういった部分でも僕は常に当たり前や誰かが作った固定観念を疑い、本質的に大事な事象を見出し、未来を見据え挑戦して来ました。まさにBeyond the Status Quoです。
グッドパッチはこれからも常に現状を問い直し、延長線上ではない未来を目指していきます。
これからもデザインの力で世界を前進させていきます。
株式会社グッドパッチ創業者 土屋尚史
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10年のストーリーを振り返るムービー
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