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数学者じゃない人が圏論を学ぶ時の勘どころ ー 圏論に独特の「定義」

結論から言おう。私がこれまでジワジワと圏論を学んできた中で「ここ大事!」と思う圏論の勘所の一つは、圏論における概念は「原子模型」みたいなもの(上の図)。原子はそれ自体が他とどうつながるかが重要。水素Hは1本、酸素Oは2本、炭素Cは4本の足を持つ。

同じように圏論の概念はそのものそれだけではなくて、それが他とどうつながるかをあわせた定義になっている。

なので、「積」の定義(上の右の図)は、「A x B」だけではない。AxBから右と左に伸びる2本の足、p1 と p2 をあわせて、「3つの組」として定義される。

背景

圏論にはじめて出会ったのが2015年の夏。その後、意識研究に使えるかもと思いながら、時にはジワジワ、時には集中して圏論を学んできた。その中で何回も自分の中で圏論理解のブレイクスルーがあった。

最近、発達研究者の京大の森口さん、数学者の長浜バイオ大の西郷さんと一緒に論文を書いている。内容は、圏論的な発達理論に関してだ。森口さんが発達研究者として音頭を取り、筆頭著者として、ドラフトを書いてくれた。その中で、圏論の概念について定義を説明してくれているが、引っかかる部分があった。

たとえば、それは「積」の定義だ。森口さんは、最初、「積とは AxB のことだ」と書いていた。私はそこに違和感を感じたがスルーした。それがこの数日で気づいた「初心者がつまづきやすい圏論の勘所」の典型例だと認識した。勘所はここに込められていることに気づいたので、変更を提案することにした。(最終稿で使うかどうかは不明)。

おそらく、圏論初心者、数学者ではないが圏論に興味がある人、にとって圏論における積の定義はなんだかしっくりこない。私も、これまで何十回も、日本語で、英語で、本で、論文で、Wiki で、nCatLabで、この定義を見てきたが、完全に附に落ちたのはほんの最近だ。

(おそらく、どこかに書いてはあったんだと思う。が、どうしても附に落ちなかったのだ。それには、おそらく、心理的なバイアス問題があるのだろうと思う。それについてはまたそのうち書こうと思う。)

積(圏論)の定義

Wikiから引用した定義は以下。

「C を適当な対象 X1, X2 をもった圏とする。X1 と X2 との積とは、X1 × X2 と書かれる C の対象と二つの射 π1:X1 × X2 → X1 および π2: X1 × X2 → X2 との組で、以下の普遍性を満たすものを言う。」

(「以下の普遍性」についてはまた今度別個に書こうと思う。)

なんで、たかが「積」を定義するのに、こんなに面倒くさいことを言わなきゃなんないんだ? と思う。そりゃ、AxBのことです、と済ませたい。

しかし、原子模型のように、積は「他との関係性」が大事なのだ。だから、「足」をちゃんと説明して、それが定義の一部になっていることを理解しないと圏論の肝がわからない。

圏論は「構造」を扱うための数学だ、と言われる。構造をつくるには、モノが「点」じゃだめなのです。点がどうやって他とつながるか。それを指定するのが、点から生えてきている「足」。

随伴の定義

次に書いている論文では、圏論の最も重要だと考えられている概念「随伴(ずいはん)」の意識研究への応用について書いている。私自身、随伴の重要性、その応用についてはかなり前から考えていた。しかし、みなさんにわかりやすく、かつ正確にその定義を説明しようとするとかなり難しい。

で、たどり着いたのはやっぱり積のときと同じような定義。

「随伴とは、<2つの関手と1つの自然変換>の3つ組からなっており、...」

ここで重要なのは、やっぱり「3つ組」なのだ。

これがわかると、突然、圏論で出てくるいろいろな概念の定義がスッと、頭に入ってくる(と思う)。また気づきがあったら書きます。

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