見出し画像

素敵なひと

先日、尊敬する大好きな女性から突然電話があり、用件は、退職のご挨拶だった。

以前わたしが著書を出版させていただいた版元で、販売営業をされていた女性だ。他の出版社では、営業の方と密接に関わる機会は少ないのだけど、その女性とは書店の出版イベントを行うためにやりとりをするなかで、わたしは彼女が大好きになり、相手もわたしの本やブログの内容についていつも実感のこもった感想をメールや手紙で届けてくれ、「この人とはいいと思うことや感動するポイントがなんだか近いな」という感覚を、たぶんお互いに持っていた。だからまず驚いたし、寂しいと思った。でも、理由や今後のことを聞いたらまたすぐに「あぁこの人はやっぱり素敵だ」とうれしい気持ちになった。

退社理由は転職で、それはこれまでの経験を生かした同業他社への移動ではなく、まったくの異業界へ飛び込む、というものだった。「もう53歳ですけど、それでもわたしを採用しようと決めてくれた会社に本当にありがたいと思っているし、実は、どうしてもここで働いてみたいと強く思って、社長に手紙を送ったのがきっかけなんです。だから新しい仕事が、不安ながらもすごく楽しみで」と、電話の声からはその高揚感が伝わってきた。

その声と内容は、このnoteでも何度も書いているように、娘が中学生になる来年からは母親業を最優先してきたここ12年間に区切りをつけ、また仕事の比重を増やす生活に戻りたいと考えているわたしを刺激するのに十分だった。彼女の転身を話を聞きながら、「わたしも後に続かなきゃ!」という思いが全身を駆け巡った。

わたしは彼女に伝えた。「わたしたち、この先100歳近くまで生きるんですって。ということは、まだまだあと数十年も働けるんですよね。新しいことだってやれる。わたしも今いろいろ考えているので、動き出したら報告しますね」と。

とはいえ、現時点で、彼女のように相手をびっくりさせられるような新しい動きを起こすという具体的な予定はとくにない。
ただ、一緒に本を売っていた仲間として、今後は電子書籍のことも視野に入れている話をした。
「本は紙じゃなくちゃ、ってどちらかといえば敵対視すらしていたんですけど、コロナの影響もあって、その利便性やありがたみも見えてきたんです」と言うと、「小川さんの、こだわりはしっかりあるのに、新しいものも受け入れていく軽やかさは、いつも素敵です」と言ってくれた。まさに今、新しい世界へと軽やかに飛び込んでゆく彼女にそう言ってもらえて、とてもうれしかったし、心強い気持ちになった。

電話を切って、やはり彼女のファンである夫に報告をしながら、このうれしさはやっぱり直接電話をもらえたからこそだろうな、と思った。そうやっていつも、大切なことをそっとささやくようにおしえてくれる、素敵な人なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?