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願いを叶える才能

薄々気づいてはいたが、わたしの母は、とても無邪気に欲しいものを手に入れてしまう、不思議な力を持っている。

本人の名誉のために断っておくと、母は会社員時代、周囲から「謙虚な人」と評価されていたようだし、出世もしたから人望はあったのだと思う。
つまり、とりたてて強欲とか強引なタイプというわけでもない。かといって控えめで無欲というわけでもないのだが、ただ、願うとちゃんとそれを叶えるのである。

夫の母は、誰から見ても控えめな性格で欲が薄く、何も欲しがらないが、それでも十分しあわせと感じられる人だ。それにくらべるとやはりわたしの母はパワフルで、だから夫は、まるでめずらしい生き物を見るように母のことを面白がり、「欲しいと思ったらちゃんと手に入れて、自分も周囲も喜ぶ状況に持っていってしまう、すごい才能の持ち主だ」といつも感心しながら言っている。

父の日に、なぜか母が新品のバッグを手に入れた話


そんな母の神通力を象徴するような出来事が、最近もあった。

父の日のプレゼントに何を贈ろうかときょうだいで相談して、本人にも希望をたずね、以前から欲しがっていた斜めがけのボディバッグに決まった。
姉から「モノのセレクトはセンスのいい奈緒ちゃんによろしく」と頼まれ、お安い御用と引き受けた。

別件で実家に行ったとき、たまたまKAVUのロープスリングをわたしが背負っていたら、そのバッグに父の目がロック・オン!したことに、その場にいた母も姉も孫たちもみな気づいた。
父は「それ、そういうのが欲しい!」と言ったが、わたしがそれを購入したのは5年も前で、KAVUのロープスリングは毎年新しい柄が出るため、まったく同じ商品はもう売られていない。
それに、父がもともと欲しがっていたサイズより少し大きめだったこともあり、「もっといいのを探してあげるから待ってて」と言って、その日は帰ってきた。

せっかく子ども3人でお金を出し合うのだから、8千円ちょいのKAVUより、2万円くらいしてもレザー製の方が父にはふさわしい気がして、候補を4つほど選び出した。
メールで商品のリンクを送ると、たまたまその日は実家のWiFiの調子が悪く、リンクが開かないという。
動きの鈍いパソコンを前に、せっかちな父はだんだん機嫌が悪くなり、その様子を報告してきた母と相談して、近々わが家のそばの会場にワクチン接種に来る予定だから、帰りに立ち寄って、わたしのパソコンを見ながら一緒に選ぼう、という話に落ち着いた。

後日、ワクチン接種会場への送迎を担当した姉と両親がうちにやってきて、わたしのパソコンを使って父のボディバッグ選びが始まった。
いろいろ見較べてみるものの、父のためにわたしがピックアップした候補の品より、わが5年もののKAVUのバッグが父のハートをがっちりつかんで離さないことに、途中から本人も家族も気づき、結局、KAVUのロープスリングの新作から、父の好みに合う柄を選ぶことになった。
公式オンラインショップはだいぶ品薄状態だったが、画像検索によって、父の好みの柄を販売している海外輸入のネットショップが見つかった。
すると、母が横からのぞいて、「あら、素敵な柄!なんだかわたしも欲しくなってきちゃった。お揃いで買おうかしら♪」と、いつもの無邪気な欲しがり癖が出始めた。

姉が慌てて、「ママにはちょっとカジュアルすぎじゃない? それに、最近も新しいバッグ買ってたよね?」と制御し、渋々思い止まらせたが、それを見ていた夫はまたおかしそうに「今、あぶなかったねー」と笑った。

父が気に入った柄も無事に見つかり、注文を済ませ、やれやれと思っていたら、いざ品物が届いて問題が発生。
なんと、わたしのロープスリングより、ひとまわり小さい……。
それは定番のロープスリングの小型版であるミニロープスリングであった。
公式オンラインショップでは販売されていなかった海外からの取り寄せ品で、定価より高かったことと、そのサイズが展開されているとは知らなかったわたしの確認ミスによる誤発注であった。

けれど、もともと父はわたしのロープスリングよりひとまわり小さいのを所望していたわけだし、結果オーライではないか。
ただ、ベルト部分が定番のタイプより細く、大柄な父には少し頼りなく感じるかもしれない、という懸念があった。

そこで、届いたばかりの新品のミニロープスリングと、わたしが5年愛用した定番サイズのロープスリングの両方を持って、実家へ向かった。
父にサイズを比較しながら検討してもらい、やはり定番サイズの方がいいということであれば、届いた商品は返品なり交換なり、家族の他の誰かが使うなり相談することにしよう。

果たして、父に背負わせてみると、やはりミニロープスリングは少々おさまりが悪いことがわかった。そして、なんとなく予感していたとおり、「やっぱりこれがいい」とわたしの使い古しのバッグを満足そうに抱えている。

もともと海外旅行でよく使っていたバッグで、最近はほとんど出番もないので、譲ってもいいかなという気はしていたのだが、父の日のプレゼントが娘のおさがりというのもどうか、と家族全員うっすら思っていたことから、新品を選んだのだった。でも、こういう展開となった以上、もう本人が欲しいものをあげるのが最良の道ではないか。
わたしは「じゃあいいよ。これをパパにあげる」と言い、父にそのバッグを譲ることが決まった。

次に、じゃあ新品のミニロープバッグの方はどうする?という話になり、まずは姉が「交換で奈緒ちゃんがもらえば」と提言。
わたしは今すぐ使う予定ないから、と辞退すると、すかさず母が「わたし、いる! だって欲しかったんだもん!」と手を上げ、いそいそと背負うと、間違って届いたはずのミニロープスリングは、小柄な母に、まるで誂えたかのようにぴったりである。
こうして、一度は周囲に止められ断念したバッグを、結局ちゃんと手に入れた母なのであった。

そもそも父の日だというのに、父は娘のお下がりのバッグをもらい、母の日にすでにプレゼントをもらっている母がちゃっかり新品のバッグを獲得しているという結末に、一部始終を黙って見守っていた夫は「やっぱ、みーちゃん(わたしの母)ってスゲーわ。なんか出来レースだった感じ」と、また尊敬のまなざしを向けていた。

あ、ちなみに母はわたしに、バッグの払い下げ代金として、わたしが5年前に購入した定価の6割ほどの額をちゃんと渡してくれた。
姉と兄が出し合う金額も、レザー製を贈るよりはずいぶん安く上がり、わたしはバッグを提供した立場ということで出費はゼロ。こうした公平性にはきちんとしているところも、母が強運である所以かもしれない。

そのキャラは遺伝している?

そんなわが母と同じ血液型(B型)で、顔もそっくりなのがわが娘である。
しかもお互いが似ていることを喜び合っているというおめでたい関係なのだが、そんな娘にも最近「やっぱりあの人の孫だわ」と思う出来事があった。

それは、中学受験でお世話になった塾が主催する受験生激励会に、昨年の受験体験談を語る役としての出演依頼が舞い込んだという話で、くわしくはブログに書いた。

見ていると、娘は今のところ、母ほどグイグイと道を開くというキャラでもないようだが、願いを無邪気に言葉にする、という点は共通している。

塾の激励会の一件は、その発言が先生の耳に直接届いたわけではない(だからこそテレパシーなのだ)けれど、やっぱり言葉として発することで、願いが叶いやすくなるというのは一理あるのかもしれない。そういえば、わたしにも経験はあり、noteでも前にそんな話を書いた。

はずかしがったり躊躇したりせずに、素直に言葉にして周囲に伝えてみると、ちゃんと願いは叶うようになっている、という話は、最近とてもおもしろく読んだ本『ギフトエコノミー』にもくり返し書いてあった。

似たようなことが身の回りで続けて起こったり、耳に入ってくるのは、それが風の時代をたくましく軽やかに生き抜いていくヒントだよと、誰かがわたしにささやいてくれているのだろうか。

というわけで、こうなったらいいな、ということは、臆せず周囲に言ってみるのを心がけようと思っている、今日この頃であります。


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