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球場バイトで世界は開ける(京セラドーム・大阪府)

思えば、昔から私の周りには野球好きが多かった。

プロの野球選手として活躍する、幼馴染の弟。ワルばっかりやってたのに、野球の名門校に進学した途端に超真面目になった中学の同級生。

未だに思い出す元恋人も、某大学硬式野球部のピッチャーだった。

そして私の初恋は、野球漫画『MAJOR』の佐藤寿也だ。あああ、これ書いてるの今めっちゃ恥ずかしい。


しかし、残念ながら自分自身はスポーツと縁もゆかりもない私が京セラの球場バイトを始めたのは、野球に触れてみたくなったからではない。

旅への出すぎによる財政難に追い込まれているなか、バイト先の生徒が「球場バイトめっちゃ楽しいですよ!」と勧めてくれたから。それだけ。


野球のルールなんて、中学の保健体育で習ったソフトボールの知識程度の私に、果たして球場のスタッフなんて務まるのだろうか……。今季注目の選手とか聞かれたらどうしよう。わりと真剣に、イチローと大谷翔平しか知らない。でもとりあえずGWも働かないと、目下計画中の京都で1泊2日一人旅が頓挫しそう。


オリックスを東京の球団だと勘違いしていた愚かな大阪府民。

それを、かろうじて「阪神とオリックスは関西の球団」だと認識を正してくれた生徒の言葉に乗り、いざ京セラドームに乗り込んでみた。






結論。めっっっちゃ楽しかった。


すでにもう一度働きたい。

早起きは苦手だけど、あの興奮を思えば全然いける。7時間ほぼ立ちっぱなしで文字通り足が棒になったけど、1日置きなら全然いける。

え、プロ野球ってこんなに面白いんや。もっと観たい、もっと知りたい!

未知の分野に好奇心を発芽させた私は無敵である。だからあの興奮を忘れないうちにと、深夜2時に光速でキーをカタカタいわせている。疲労で寝落ちしそうだけど、あれは絶対に忘れちゃいけない感動だ。ちゃんと記録に残して、発信もしないと。なんかそうした方が良い気がする、しらんけど。


というわけで、私がオリックス対西武@京セラドームの球場バイトで受けた衝撃を、徒然なるままに列挙しようと思う。


①大量の缶バッジを付けた家族

メガホン片手に「検温場こちらでーす!」と叫びながら、人間観察をしていた。プロ野球を観に来るお客さんといえば、推し球団のユニフォームにジェット風船のイメージが強い。

それはその通りとして、私はさらに衝撃的な装いの一家を目にした。

お父さん、お母さん、息子さんの3人。全員オリックスのユニフォームを着て、タオルを肩にかけている。全員キャップも被ってる、そこまでは一般的だとして、驚いたのは付けてる缶バッジの数。

3人とも、リュックに選手の顔が載った缶バッジを大量につけている。隙間なく。お母さんに至っては、野球観戦用と思しきビニールのバッグも持参していて、そこにも大量の缶バッジが。しかも3人が頭に被ったキャップにも、また大量の缶バッジ。まるでアイドルのファンのよう。うーん、この光景、どこかで見た気がする。


②治安が悪すぎるタオル

勤務時間も残り2時間。最後の最後で、先輩スタッフのご厚意で試合を観戦できることになった。

通路を抜けた瞬間、視界に飛び込んできた若草色のグラウンドに、青や白のユニフォーム姿の選手たち。そして目の前の巨大なスクリーンに映る、楽しそうなオリックスファンと思しき方々。自分たちがカメラに抜かれたと気付いたのか、嬉しそうに肩にかけていたタオルを見せつけてくる。

「いてまえ」

……いや、治安が悪すぎる。でかでかと掲げられた物騒なタオルに、目が丸くなる。

そういえば、「いてまえドッグ」なるホットドッグ片手に戻ってくるお客さんもちらほらいた。そうか「いてまえ」は野球ではおなじみの用語なのか、しらんけど。

滲み出る治安の悪さに、大阪府民としての魂がうずいた。

お上品なのも良いけれど、そこは大阪府門真市出身の私。こういうガラの悪い要素を垣間見ると、なんだかもっと首をつっこんでいきたくなるのである。うーん、「いてまえ」はともかく、こういうフレーズ入りのタオル、どこかで見た気がする。


③プロモーションビデオ並みの選手紹介

何よりもびっくりしたのが、打者交代時にスクリーンに流れる映像。

アイドルのTeaser映像並みに凝った演出。解説のお兄さんのアナウンスと、(多分)その選手の好きな曲と一緒に、キャッチフレーズ入りのど派手な映像を流してくる。お客さんは悲鳴に近い歓声を上げて、拍手で選手を出迎える。好きな選手の名前入りのタオルを掲げる人もたくさん。

サイドのスクリーンには、選手の生年月日や出身校、「俺の〇〇」などなどお茶目なプロフィールもしっかり流れてくる。

んん? ここ、球場よな?

不思議な文化やなあと思いつつ、なんだかとってもワクワクした。だってこの光景、あまりにも見覚えがありすぎる。



そう、過去の私だ。


今や世界的トップアーティストとなったBTS。
彼らがまだ「バンタン(防弾少年団=방탄소년단の略)」という愛称で親しまれていたころ、高校〜大学2回までの私は、それはもうバンタンを愛していた。

スマホの中には、推しの画像が単体だけで6000枚。
ミュージックビデオは飽きるほど繰り返し再生し(しかし飽きない)、DVDの予約が始まろうものなら、授業終わりに外へ飛び出し、関西中のタワレコに電話をかけ続けた。


浪人中には、午前中に駿〇大阪校の授業が終わるなり新幹線に飛び乗り、広島までライブに参戦しに行ったこともある。


そんな過去の私。


「予備校生活にも同志がいれば……」と、淡い期待を込めてリュックには推しのハングルが書かれたプレートをつけていた。

センター模試の会場では、「一日中拘束されるんやから、誰かしら気付いてくれるかも!」と、ライブグッズのTシャツにタオルを肩にかけて問題を解いた(そんな涙ぐましい工夫の甲斐あってか、Kpop好きな子たちが声をかけてくれて友達が増えた)。

そんな時代があったためか、球場のファンの方々の熱狂ぶりに覚えがありすぎて、なんだかとても胸が熱くなってしまった。しっかりと球団のマーケティングに踊らされた気もするが、そんなことはどうでもいい。

韓国のアイドルか、日本のプロ野球選手か。

その程度の違い。やっぱり人は、何かを表現できる者に強い憧れを抱くのだろうか。人生をかけて、何かを全うしようとする生き様に惚れ込むのだろうか。彼らを見ていると、若かりし頃の私みたいに(今でももちろん若い)、日常への彩りを一歩踏み出す勇気をもらえるのだろうか。



DREAMが終わってから約2ヶ月。

あの日から私は、やたら表現者に入れ込むようになった。

ある機会を頂いてモータースポーツを観戦したとき、鬼気迫るレーサーの走りに泣いてしまいそうになった。
これDREAMやん!と。

レーサーは1人。サーキット場に君臨するのも1人。

だけどその背後には、たくさんの人が関わっている。エンジニアやメカニックはもちろん、巨額を出資するスポンサー企業。日本中にあるサーキットへ飛び応援する、熱心なファン。

本当に多くの人の期待を背負って、プレッシャーを背中いっぱいに受けながら自分一人の名前で勝負する。

まさにDREAM。


あれ以来、自分の名前で勝負する人たちに、心中で拍手喝采を送らずにはいられなくなった。スポーツ観戦に行こうものなら、常に精神がジェットコースター状態になる。それくらい、ドキドキする。
スポーツ以外だと、最近読み返した恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』。コンクールに人生をかけた音楽家たちの生き様が熱すぎて、何回か途中で本を閉じて深呼吸しないと、眩しすぎて直視できなかった。



また前置きが長くなってしまった。
私は当然、京セラに立つプロ野球選手にも熱いものを感じた。


自分一人の名前で勝負するなんて、不安に決まってる。
ミスしたら野次を飛ばされるなんて、私なら発狂して観客に文句を言ってしまうと思う。じゃああんたがやってみろ、って。

あんなにプレッシャーの大きいスタジアムで、一万人前後いたファン(チェッカーで数えた)の応援を一身に受けてプレーできるなんて、本当にすごいことだ。


表現者として生きたい私にとって、スポーツ選手や作家は本当に憧れの存在だ。私もあんな風に、自分の内側にある紺色の炎を、人生をかけて言葉で表現したい。何も残さないまま死ぬなんてできない。

そしてそれがまた、誰かの心が楽になるきっかけになればいいな、なんて思う。




まさか球場バイトで、こんなにも考えさせられるとは。

旅するライターの一作目が球場バイト、しかも京セラという超地元で良いのか? なんて考えたけど、いつもと違うことをするのが旅なら、これも立派な旅をした日。



皆さんもぜひ、一度球場バイトを経験してみてください。

新たな世界に出会えるかもしれません。






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