見出し画像

No.31 逃げた飛行機

 大きなリビングの窓には真っ青な空とテカポのミルキーブルーが、今日も広がっている。そこにアニキが、いつものように落ち着いた足取りで入ってきて事も無げにいう。
「予約した、飛行機が行ってしまった・・・」
クライストチャーチからオークランドへの便で、その後数日してから日本へ帰国する予定だったらしい。彼の言葉に私たちは一瞬言葉を失った。
 私たちにはどうすることも出来ずに彼を見つめる。しかし、彼はまた事も無げに言った。
「キャンセルしよう。」
「え!?出発してしまった飛行機をキャンセル?」
私たちは、驚きを隠せない。しかし、アニキは真剣そのもので航空会社に電話をしている。そして、なんと、彼の強引さに航空会社も折れたのか、キャンセルが受け入れられたのだ。
 アニキは、その後、テカポを後にした。彼と私は同じ大阪出身。きっとまた会えるだろう。
 私の自転車の旅もまた始まる。そして私はヨシに言った。
「スチュアート島を狩猟しながら、トレッキングしない?」
 南への旅を計画していた彼は、大きな目を更に大きく見開いて頷く。そして、彼は宿に置いてある、世界中の旅人が記入している「情報ノート」を手に、
「それじゃあ島へ渡るのにプロペラ機に乗らないとな。」
と、その情報の書かれてあるページを開き目を輝かせてた。そこには、5人乗りのセスナ機の情報が書かれている。後、スチュアート島のフィッシュ&チップスが最高だとも。

 私はオマラマ、オマルー、ダニーデンと海沿いを経由してインバーカーギルへ走って行くことにした。ヨシはバスで内陸をクイーンズタウンから南下する。
「それじゃあ、世界最南端のケンタッキーで待ち合わせをしよう!」
 本当に世界最南端かどうかはわからないが、そう信じることにした。それが何より楽しいからだ。
 えみとは、お別れだ。でもまたテカポに戻る約束を交わし、私たちはそれぞれの道を行く。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?