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No.27 スズキ自転車とは?

 バーガーキングの2階席に腰掛けハンバーガーを頬張り、窓の外を眺めているとサラリーマン達が帰途につく姿が見えた。生まれ育った大阪の喧騒を遠く感じ、現実に戻されたような錯覚に陥る。いや、これもまた現実の一コマなのだ。
 首都ウェリントンの街は、カフェが点在する落ち着いた空気をまとっていた。明日はフェリーで南島へと向かう。ゲストハウスは殺風景なところで、周りの建物の壁には落書きがあり、夜になると街灯のない暗がりが治安の悪さを物語っている。ニュージーランドにも、こんな所があるのだなと思った。

 「スズキだよ。日本ブランドの。有名だろ!」
南島へ渡る時にフェリーで台湾人サイクリストと知り合った。彼は自分の自転車とウエアを指差しながら得意げに話す。
「スズキだよ。靴も。」
スズキ自動車が自転車とウエアを作っているとは知らなかったが、丸メガネをかけた彼の嬉しそうな表情を前にして、私は「知ってるよ」と答えるしかなかった。彼とは、拙い英語を交えながら、自転車旅行者として意気投合したのだった。

 ピクトンは小さな町で、フェリーを降りるとすぐに小さな船の博物館が目に入る。台湾人の彼とは別々の宿だったが、これからのルートは同じなので、またどこかで再会しようと握手して別れた。

 カイコウラへの道は海岸線が続き、空は明るく広がっていた。しかし朝から風が強く、東海岸では時期的に南風が常に吹いているので、向かい風の中を走らなければならない。走っても走っても前へ進んでいる感覚はなかったが、それでもなんとかカイコウラへ辿り着いた。 
 そしてカイコウラのユースホステルで台湾人の彼と再会。美しい夕日を背に海岸線を散歩した。好奇心旺盛なオットセイが日向ぼっこをしながら、私達をじっと観察してくる。遠くでイルカの群れが泳ぐ姿を見つけた時、私たちは手を取り合って歓喜に沸いた。
 
 帰り道に買ったフィッシュ&チップスを夕食に食べながら、彼は台湾へ帰ってから次の自転車旅行の計画を話してくれた。
 「日本にも行ってみたいな」


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