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あのとき優しくしてもらったから抱く、理想の大人像

「今回は無料でいいです。私も学生時代たくさん優しい大人たちにお世話になったので、次は私がその恩返しとして若い世代に優しくする番。」

疲労骨折した足を引きずり、どうしても避けたかった病院での診察を終えた20歳の私に向かって、
診察してくれた日本人のお医者さんが言ってくれました。

私が病院を避けたかった理由は、お金がなかったから。
20代のほとんどをお金の悩みとともに過ごした私に、アメリカで医療費を払う余裕なんてありませんでした。

それでも、ハタチという若さを持ってでも、私の足は自然には治ってくれなくて。
「大丈夫、大丈夫。」が「これはちょっとまずいかも。」に変わるまで時間はそうかかりませんでした。
体が商売道具の私だったので、治療が必要なのは一目瞭然。
まだ英語もままならなかったため、現地の普通の病院に行く勇気はなく、
一等地中の一等地に所在するビルの一室、
日本語で対応してくれる病院に足を踏み入れました。
診察費はいくらになるのかとドキドキしていて足の状態どころではない私だったのですが、
そのお医者さんの「無料で」という一言でどれだけ心が救われたことか!

現在31歳の私が20代、特に20代前半、本当にお金がなくて次の家賃をどうやって払えばいいのかといつも頭を悩ませていた頃、
私の周りには優しい大人たちがたくさんいました。
そのとき暮らしていた場所柄もあったかもしれません。
夢を抱えた苦労人が多い街ゆえ、たくさんの大人たちが若い頃そうしてもらったように、
お金で困っている私に手を差し伸べてくれたことは忘れられません。

しかし「手を差し伸べてくれる」と言っても、お金を貸してくれるとか、くれるとか、
そういったことではありません。

例えば、
「お金に困ったらいつでも私の家を掃除しにきてくれていいからね。」
と言ってくれるとか。そういうこと。
助けになってくれるけど、ちゃんと働かせてくれて、
”Thank you.”の言葉とともにお金を手渡してくれる。
有難いことにそんな温かい人たちに本当にお世話になりました。
そしておまけに掃除や雑用も得意になったし英語力も身につけられたし。
さらに少々の汚いものでも素手でいける度胸までつきました。笑

無償で診察してくれたお医者さんは彼女自身の学生時代のお話も聞かせてくれました。
当時医師になるべく、留学生としてアメリカの大学に通っていた彼女。
進級をかけたテスト前に突然虫歯ができて頬が腫れ上がってしまい、
保険の効かないアメリカの歯医者にかかる余裕はなく、
進級を諦め日本に帰国して治療するか、壮絶な痛みに耐えながら頬の腫れと共にテストを受けるかの二択を迫られていたそう。
そんな矢先友人の紹介で現地の心優しい歯科医師に出会い、
そのときの私みたいに無料で治療してもらえたとか。
おかげで見事テストを受けられ、進級し、そして何年後かにアメリカの一等地で開業医になるまでに。すごすぎる。
(この辺のエピソードは若干記憶が朧げなので、ちょっと事実とずれてる部分があるかも。)

で、その歯医者さんは当時学生だった彼女にこう言ったんですって。
「私にお礼や恩返しがしたいと思ってくれるなら、あなたが将来医者になったときに、あなたより若い世代の人に優しくしてあげなさい。」と。

親に恩返しするとか、お世話になった人自身に恩返しするというのはもちろんいいことだと思うのですが、
自分が良くしてもらったように自分の下の世代に何かをするっていうのも良い連鎖でしかないですよね。
時代が違うのでやってもらったことをそっくりそのままやっても役に立たないことはあるかもしれませんが、
「困っている人に手を差し伸べる」という行為は、いつの時代にもあってほしい優しさなわけで。
しかもそこに自分への見返りを求めず、後世の人への優しさを促せるって、本当に寛大な心だ。
私もそんな大人になりたい。いや、ならなきゃ。

・・・・・

何歳のころかは忘れてしまったけど、多分20代半ば。
ヨーロッパで開催されるオーディションがどうしても受けたくて、
でも滞在費も飛行機代も出す余裕は全くないから諦めなきゃなと思っていたとき、
当時とっても良くしてくれていた私の師匠が言ってくれました。
「どうしてもやりたいことをお金の理由だけで諦めないで。どうしたら諦めないで済むか必死で頭を使いなさい。」

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