見出し画像

シアトルのネイバーフッドその1・キャピトル・ヒルについて(3)TOD(鉄道駅を中心とした開発)①

1.TOD(鉄道駅を中心とした開発)

アメリカではTOD(Transportation Oriented Development)型の開発が進んできていますが、鉄道駅を中心とした開発は阪急電鉄の沿線開発からの歴史がある日本の方が断然経験値が高いです。
とはいえウォーカブルな地域づくりを進めるアメリカでもTODの重要性に対する認識は共有されつつあります。

アメリカでTODは、ニューアーバニズムで有名なピーター・カルソープが提唱した概念として位置づけられています。『The Next American Metropolis』(1993)という本において

「公共交通のポイントやコミュニティの核となる場所からだいたい0.6km以内の徒歩圏の混合用途のコミュニティ」(p.56,筆者訳)

であると定義されています。この定義のように、多くのTODは混合用途の建物の開発とセットで行われます。

※TODがシアトル都市圏の戸建て住宅価格にどのような影響を与えたかということについては「交通拠点に近いほど(この場合0.5マイル=約0.8km以内が特に)住宅価格が上がった」(Shen et al. 2018) との研究があります。この研究は郊外型のバスの拠点を調査しているものです。
ライトレールの方が広大な駐車場を作りにくい都心部を通ることから、住宅価格への影響が大きいのではないかとも考えられます。
Qing Shen, Simin Xu and Jiang Lin "Effects of bus transit-oriented development (BTOD) on single-family property value in Seattle metropolitan area"(2018) Vol. 55(13) pp. 2960–2979

2.キャピトル・ヒルのTOD

キャピトル・ヒルでも住民の意見を聞きながらライトレール駅の開発に沿ってTODの計画を進めてきていました。開発が行われた土地のオーナーは地域の公共交通を運営する「サウンド・トランジット」です。①は現在のルートと、今後の延伸予定で、開発めざましいベルビュー地域にもライトレールが延びるようです。(途中裕福な住民が多いマーサー・アイランドも通ります。)

無題---2021年11月2日-17.11

①ライトレールのルート:郊外にも今後延伸予定
(Soundtransit 資料「Sound Transit Link light rail: Current service and future extensions opening by 2024」参照)

キャピトル・ヒルの開発はコロナ前から進められ、アフォーダブルハウジング(手頃な価格に抑えられた住宅)も併設されました。以前は低層の建物が並んでいたブロードウェイ沿いは、中層の混合用途の建物に代わりました。

画像2

②キャピトル・ヒル駅に隣接するTOD
(ただし日本のTODのように地下などで「直結」はしていません)
開発以前は平屋の低層に小さなビジネスが並ぶ通りでした。
色使いがアメリカのミックスドユース開発らしいデザインです。

ただし、パンデミックで工事が遅れ、上階のマーケット価格の住宅への入居者募集もパンデミックの最中に行われることとなりました。
一階の商業床はまだ空室が多い状態です。(2021年11月現在)

建物の間に作られた広場は住民の要望もあり、最初から寸法やしつらえなどが公共空間利活用(毎週日曜日のファーマーズマーケット)に向けて設計され、毎週使われています。

画像3

③ファーマーズマーケット:警備員さんのコスプレはハロウィン?

このTODプロジェクトは長期間の市民参加のプロセスを経てデザイン、建設されました。結果としてどのような計画になったのか、次に詳しく見ていこうと思います。