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シアトルのネイバーフッド(2):サウスレイク・ユニオンにおけるアマゾン①

サウス・レイク・ユニオンの開発のこれまでについては、

などに示してきた通りです。マイクロソフトの創業者であるポール・アレンの会社が開発を行い、アマゾンをはじめとする企業が引っ越してきて、シアトルのダウンタウンに隣接した場所に開発の新たな場所を求めた「フロンティア」としてのジェントリフィケーション(高級化)が起きたのがサウス・レイク・ユニオンでした。

アマゾンは、今やシアトルで最も多くの従業員を雇用する企業となっています。

アマゾンがまちなかに本社をつくった意味

アマゾンがこの地に本社を移転し、サウス・レイク・ユニオンはアマゾンの影響が大きな地域となっていきました。
この地域には、アマゾンの本社で、有名な「アマゾン・スフィア」と呼ばれる建築物があります。内部見学は予約すればできますが、予約受付開始後すぐ予約枠が埋まってしまうほど大人気です。

アマゾン本社(アマゾン・スフィア)
丸い構造物の中は植物園です

周辺にはレストランやカフェなどが並び、既存のダウンタウンの外側にもう一つの拠点ができたようなかたちになっています。

IT本社の新しいかたち

もともと、IT企業の本社は歴史的にはこれまで秘密を守るためにも、郊外キャンパス型の働く場所をつくってきました。20年近く前にマイクロソフトの本社に行ったことがありますが、シアトルの郊外に独立型の大きなキャンパスを構えていました。アマゾンがまちなかに本社をつくったのは新しいやり方でもあり、近年のトレンドでもあります。
ワシントン大学のオハラ教授は、アメリカでの近年のIT企業の立地選択に関してこのように述べています。

“When it comes to the innovative process, the longer history indicates that you need the cathedral and the bazaar.”
「イノベーションのためには、長い歴史が示しているとおり、カテドラル型だけでなく、バザール型も必要なのだ」(筆者訳)

引用:O'Mara, Margaret “THE OTHER TECH BUBBLE” The American Prospect; Winter 2016; 27, 1; Alt-PressWatch p.43

「カテドラルとバザール」とは、ソフトウェア開発に関連するレイモンド(Eric Steven Raymond『The Cathedral and the Bazaar』1999)の比喩表現ですが、ここではセレンディピティを招く環境としての開かれた「バザール型」である都市型キャンパスの必要性を語る上でこの言葉が用いられています。(「カテドラル型」は、ここでは比喩表現として独立したキャンパス空間のことを示している)
リチャード・フロリダがクリエイティブ・クラス論でよく指摘しているように、人々が都市の環境で出会い、イノベーションが生まれることの重要性が、アマゾンのようなまちなか本社を生み出していることの1つの背景でもあると指摘しています。(スマートフォンの普及など、ソフトウェアの開発をする上でそれほど大きなキャンパスが必要なくなってきたことも背景としてオハラ教授は指摘しています)

パンデミックの影響

ただし、アマゾンがパンデミック中にリモートワークに移行し、サウス・レイク・ユニオン地域のビジネスも困難を抱えているようです。下記のレポートが示しているように、まだ従業員がそれほど戻ってきていない状況です。

このレポートの中では、「建築事務所も、歯医者もいなくなった」とフードトラックの経営者が述べています。アマゾンの従業員がいなくなっただけでなく、それに伴うビジネスにも波及しているということです。
確かにオフィスにおけるランチ需要を見込んだフードトラックはあまり今のサウス・レイク・ユニオンでは見られませんが、カフェなどは開いていますし、訪れる人は多く、歩道の交通量もある程度多いように感じます。おそらく、パンデミック前はもっと賑わいがあったのでしょう。

高級化された地域

再開発エリアはストリートも非常に清潔に保たれています

サウス・レイク・ユニオン地域は高級化され、民間のセキュリティが整っており、ストリートも清潔で、安心して歩くことのできる地域でもあります。こう考えると、治安・開発による追い出し・格差という視点から、サウス・レイク・ユニオンに代表されるようなアメリカにおける地域の高級化としての「ジェントリフィケーション」という概念はどのように日本に適応されうるのか、その違いについての考察は必要かと思います。

ともかく、サウス・レイク・ユニオン地域ではどこでもアマゾンの存在感が感じられます。次にその「存在感」について確認してみたいと思います。