姫の一億円札を盗ったのは誰 Vol.3

親父の引っ越しの段取りを説明する為に、俺は息子に連絡した。

「当日8時に迎えに行くから」

「絶対に遅れてくるなよ」

いつも遅れてくる息子に念を押した。

その時、俺は前妻は呼ばなくていい事を息子に伝えた。

「ママは今回は呼ばなくていいから」

俺がそう伝えた後に聞こえてきた息子は落ち込んでいるようだった。

息子の悲しそうな声に、俺はまた甘やかしてしまいそうになった。

もうすぐ二十歳を迎える息子は未だに「ママ」と呼んでいる。

正直息子がこのまま、まともに育ってくれるのか不安だった。

息子とは俺が前妻と離婚してからも頻繁に連絡を取り合っていた。

俺は20代で出来婚の末、前の嫁とは結婚した。

その結婚生活はずさんなもので、いわゆる仮面夫婦だった。

お互い、大恋愛の末の結婚というわけでもなかったし、息子の手前離婚しなかったといった感じだ。

そんな2人の間に出来た子だったが、俺は息子が可愛かった。

前妻の貴子との結婚生活は15年以上にも及んだが、特にこれといった想い出もない。

むしろ、想い出したら未だに腹の立つ出来事の方が多かっただろう。

特に、親父の家に息子と貴子が2人で遊びに行った後、親父から

「金が抜かれてる」

この連絡が来るのが本当にやるせなかった。

親父は酒を煽っていたらしいから、本当かどうかはわからないけど、金にはきっちりしている親父だ。

そんな話を聞くと、悲しみと怒りの両方の感情に俺はおかしくなりそうだった。

普段怒りという感情を抱かない俺は、唯一人生で貴子に対しては抱いた事のない怒りの感情が込み上げていた。

他にも貴子に対しての不満は数えきれないくらいあったが、思い出したくもない。

そんな2人の間に産まれた息子が不憫で、俺は息子を甘やかしがちだ。

本来なら叱るべき場面でも、曖昧に終わらせてしまう。

だから、今回もママを呼んで欲しいと言う息子にハッキリ言うのが躊躇われたのだ。





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