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想いは最後に残る自分の味方『アンメット』1話

なんだか心が澄んだ気持ちになるドラマだった。
俳優陣の囁くようでリアルな会話のトーンや、全体的に青っぽい画面。映像の揺らぎや傾きはそのままキャラクターの心の動きとして素直に入ってきた。

食べるシーンも印象的。宴会での同僚の食べ物はさほど映らないのに、ミヤビの肉じゃがや焼肉丼の存在感たるや。大きな一口でいろいろなモノを飲み込んでいるようだ。

fox capture planが手掛ける音楽も最高だ。カルテットやブラッシュアップライフといえば、ドラマウォッチャーに説明はいらないだろう。

すべてが非常に繊細で丁寧。故にちゃんと読み取り、感じたい。そう思った。

そして圧倒的存在感を放つ杉咲花さん。"圧倒的杉咲花"という熟語がそろそろ生まれていい頃だと思う。


言葉、記憶、技術…これらが脳の別々の部位で作用していることは解明されているらしい。でも「心」はどこにあるのか、その正体さえも未だ謎。

毎日少しずつ積み上げてきたすべての記憶が、未来の自分を作っている。信頼も、愛情も、自信も。昨日の記憶が、私たちを明日につなげる。

ドラマ内でこのセリフは2回発せられた。
記憶か。今までの人生に、私はこれからの未来を築けるほどの記憶があるだろうか。少し焦った。

主人公・ミヤビも焦っているようだ。
嬉しいことも悲しいことも全部忘れてしまう。どれだけ患者のためになりたいと思っても、次の日には忘れてしまう。寄り添うこともできない。そんなふうに葛藤したことも覚えていない。

心がキュッとした。人生において一番大事な感情は、葛藤かもしれない。嬉しいも悲しいも、何かの結果だ。苦悩し、葛藤する。たとえ答えが出なくても。それが生きるということであり、人が人として生まれてくる理由なのかもしれない。

それでいうとミヤビはずっと葛藤しているのだから、ちゃんと生きている。今日限りの記憶だとして、それがなかったことにされてたまるものか。

三瓶の存在は、そんなミヤビの救いだ。だが、お互いに大切な存在だったことが予想される2人の間には、あるべきはずの記憶がない。まるで初対面のように挨拶をする気持ちを想像し、胸が締め付けられた。

「できることはやってもらわないと困ります」
この言葉は自分に言い聞かせているようにも感じた。静かに見えて、内側に籠るまっすぐで純粋な熱量がじんわりとこちらの体に届く。なんだこれ…若葉竜也さんそのものではないか…。
(ぜひこのインタビューを読んでください…)


強い感情は忘れません。記憶を失ってもそのとき感じた強い気持ちは残るんです。多くの論文にもそう書いてますよ。

記憶がなくても、あなたが積み重ねてきた努力は身についています。昨日を覚えてなくてもあなたが生きてきた日々は確かにあるんです。その自分を信じてください。

想いを心が覚えてるんです。繋がりましたね。川内先生の今日が、明日に。

人を明日に繋げるのは記憶ではなく、想い。

私には好きな言葉がある。

人生ってきっと、地位や名誉やお金じゃない。人生は、どれだけ心が震えたかで決まる。

ドラマ『問題のあるレストラン』(脚本:坂元裕二)

この言葉をお守りのようにして生きてきた。が、心がざらつくようなときにはその限りではなく、そうは言いましてもねえ、と捻くれてしまうこともあった。
だけど三瓶は言う。最後に残るのは記憶じゃない。心が震えるほどの強い感情、気持ち、想いだ。多くの論文にも書いてあるなら間違いない。エビデンスは私の迷いに背中を押してくれた。

ミヤビの優しい笑顔が歪み、引き伸ばされている印象的なキービジュアル。
結びついた赤い糸が人の形になるタイトルバック。
脳のどこかしらに存在する「心」が明日に繋がり、未来の自分を作り上げる。そう受け取った。

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