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明日は大阪の公立高校入試

 公立高校の入試がいよいよ明日に迫ってきた。ところで、ある程度の年齢の人にとって、公立高校の入試とは、学校の先生との面談でOKが出れば合格するもの、という認識だと思う。倍率も1.1倍くらい、1.3に届こうものなら「高いなー」と感じるレベルではないか。

 ところが、昨今の大阪府の公立高校入試では、1.7倍、1.6倍、1.5倍などがザラだ。この際なので、大阪の公立高校入試の現状について、他府県の人にも知ってもらいたい。

1)大阪には、3年連続で定員を割ったら廃校へ、という維新ルールがある。人気のないところは生徒が集まる工夫でもしろ、とでも言いたいのだろうが、そんな単純なものではない。いわゆる「底辺校」と呼ばれる学校(この言い方は大嫌いなのだが、便宜上使わせていただく)には、さまざまな事情を抱えた生徒が集まることが多い。きちんと子どものフォローができない家庭も多い。そこで、先生が迎えに行ったり、朝食を作ったり、何とか中退させずに卒業まで導こう、とさまざまな取り組みをしている。(勤務時間外に先生がわざわざ生徒の家に行くこと、自腹を切ってまで朝食を作ることについては礼賛する気にはなれない。それこそ府が補助金を出すとか、何か援助すべきだろう。しかし、それがない現状に甘んじてしまうと、子どもたちは学校というシステムからこぼれ落ちてしまうのだ。)また、そういった学校に集まる子どもは、自分が貧困の中にいる、ということに気づいていないことが多い。よって「貧困教育」をすることで、自分たちの状況を理解し、支援を求める方法を教える。ここに書いたことは、以前NHKで紹介された府立西成高校で実際に行われている取り組みである。その結果、西成高校の中退率はグッと下がり、就職率もほぼ100%になったという。しかしその反面、定員は満たしていない。定員割れ=不要、という乱暴な論で高校を潰していいわけがない、ということがここからわかっていただけることと思う。

2)学区制を撤廃した。競争すればレベルが上がる、という当時の橋下知事の考えで、9つあった学区を徐々に廃止した。その結果、高校の序列化が進み、かつ倍率が読みにくくなった。公立で1.7倍なんて以前には考えられなかったことだ。以前のように、9つのトップ校がある方が、レベルが分散されて絶対に良いと思う。

3)英検を入試に取り入れた。2級を持っていれば当日の英語のテストが8割、準1級で満点となる。確かに、検定試験は努力の結果だし、やる気のある子はどんどん受けるだろう。しかし、高校入試に2級はやりすぎである。なぜなら、2級とは高校修了のレベルだからだ。なぜ高校入試に、高校修了のレベルを求めるのか、理解に苦しむ。さらに他の弊害もある。まず、高校修了レベルが求められるということは、塾なり英語スクールなりに通わない限り、なかなか取得は難しい、ということだ。つまり経済的に余裕のない家とある家の差が生まれてしまう。次に、検定試験がそこまで英語力をきちんと測れるのか?ということだ。英検の合格ラインは6割である。英検対策用の勉強ばかりして、ぎりぎり6割で何とか合格したとして、それが本当の英語力と言えるのだろうか。息子の塾の先生は、「無理やり6割をとって合格したとしても、それが総合的な英語力とは言えないので、私は勧めません」と断言した。それで私はその塾に全幅の信頼を置くようになった。しかし、そう考えない親がほとんどのようで、小学校からみんなやけに英語に熱心だった。いや、英語に熱心なのはいいのだが(『カムカムエヴリバディ』の例もある)、英検というちっちゃーい目的のために英語を勉強させられているのを見ると、本当の語学力はそんなものじゃないんだけど、という気になる。(ちなみに私は一応外国語を専門としている。)

4)チャレンジテストの謎。高校入試には内申書というものがある。これは所属する中学での成績なので、相対評価をしていた時代には、レベルの高い中学では90点でも5が取れず、低い中学では試験も易しくて85点で5がつく、といったような問題があった。そこで、絶対評価にし、かつ中学のレベルを見るためにチャレンジテストというものが実施されるようになった。これは子ども一人一人ではなく、学校のレベルを見るためのものだ。この成績がいいと、「この中学では80点で5」などということもありうる。事実、娘の時はオール5の子が学年でもかなりいたらしいし、学年の平均点でも5がついたりしていた。しかし平均点の悪い中学に通う子はなかなかに辛いものがある。自分は点が取れていたとしても、中学のレベルのせいで5にならないことも起こりうるし、成績の悪い子に「チャレンジテストの当日は欠席してくれ」と頼む教師がいた、という話も聞いたことがある。どうも透明性のない仕組みである。

 実は大阪の学力は全国でもかなり低い。橋下知事はこれに激怒して、何とかしようと色々教育に手を出した。その結果、現在では、学力テストの低い学校の校長は「査定」が低くなり、ボーナスが下がるそうだ。企業じゃあるまいし、テストの点数を「成果」と見なす、その発想がくだらない。そして大阪市では「塾代補助」としてクーポンが配布される。15億円分のクーポンを配るのに手数料が5億円だかなんだか(詳しい数字はわからないが)、自民党の給付金がクーポンだった時に維新は吠え立てたが、自分たちも同じことをしているわけである。しかも「塾代補助」ということは、塾に行っていない子は対象にならない。そして本当に手を差し伸べるべきは、塾に行く余裕がない子である。行政が生活を助けず、競争を煽る。そのくせコロナの死者数は日本一(人口比ではない)で、その行政も崩壊している。大阪の人たちは、吉本と組んでヨイショされる知事を見て讃えている場合ではない。

追記:先日、維新の議員が「府立高校を民営化!」とTwitterで大々的に書いていて「は?」と思った。(https://twitter.com/OsamuSasagawa/status/1482232957297655808)とにかく「公」を潰すのが維新だ。そして馬場幹事長が日曜討論で「大阪府は私立高校を無償化しました」と言ってのけたけれど、それも大嘘で、実際には所得制限がある。大阪府の人にはそのこともきちんと知ってもらいたい。



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