豆腐屋のひとり言 「手」
「あぁっ!もう。猫の手も借りたいわっ!」
この場合の「手」は労働力を意味する。
猫に手伝って欲しいくらい忙しい状況な訳で…
その猫はと言うと
「使うニャ?」って寝てるやん!
歌い手や担い手といった場合この手は人をさす。
「手」と言う言葉はさまざまな意味で使われる。
それだけ身近であり大切である「手」
この手は服部で三十数年豆腐を造り続けた職人の手。
皮は固くなり、指先はひび割れた造り手。
「これくらいの厚さで仕上げるんです。これだと厚すぎるので。」と指で示す。
その差はわずかなもの。頭で考えるのではなく指先でわかるらしい。
熟練という言葉が浮かぶ。手ごころ、手加減。「手」はセンサーだ。
使い手を想い作り手が産み出す。柳宗悦は民藝運動で「用の美」を説いた。
名のある作家が技術の粋(すい)をこめて作った物ではなく、無名の職人が、ただ使われることだけを考えて作った器。
豆腐職人は頭だけではなく「手」の記憶で豆腐を造る。
使いやすい器を職人の「手」は記憶している。
そこに余計な作為はない。ただ使いやすく。ただ美味しく。
「手」は考えない、ただ造る。ただ作る。豆腐屋のひとり言。
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