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大掃除

コメ書房がオープンしたのは2018年の4月の初め(3月末にプレオープン)。前年である2017年はその準備に追われており、特に前半は、事業計画作成以外のほとんどの時間を、店舗となる予定の大きな納屋の掃除に費やすこととなった。振り返ってみて、店をかたちにしていく上で最も大変だったのは、この大掃除だったと思う。

長年使用していなかった納屋

一階には元々近所の方が所有するトラクターなどがしまわれており、私たちが引越してくるタイミングで移動してもらっていた。そのためフロア一面がものに覆われているという状態ではなかったものの、椅子やら板やら臼やら、いろいろなところにいろいろなものが散乱している状態ではあった。いらないものをまとめ、クリーンセンターに持って行き、少しずつ埃を払っていくところから掃除が始まった。

より難儀したのは二階の掃除だった。もともとこの建物は二階建てだが、階段がなかった。なので、上階への昇り降りは全てハシゴを使用することになる。二階には合板や藁、農業資材、機械などがたっぷり置いてあり、これらのものを下ろし切ることにかなりの時間がかかった。

この当時は、ちょうどクラウドファンディングなどが流行り始めていた頃で、全国各地(富山県内も)で、ワークショプなどの形式によって「みんなで考える / 作り上げる」ということがもてはやされていた時期だった。私たちはそのような手法は使わず、自分の商売をするならなるべく自力でやろう、とわりと頑なに考えていた。とはいえ、様々なところで出会った友人が、わざわざここに訪れ、滞在し、決して楽ではない作業を手伝ってくれたことは本当にありがたかった。

ものがいっぱい

二階にものが無くなり、とんでもなく重い農業用の計量器が最後に残った。私たちの発想では、たくさんの人に手伝ってもらう以外の方法を思いつかず、一旦作業は保留となった。ところが、近所のYさんと世間話をしていた際になんとなしにその話題をふると「ロープを使えば下ろせるんじゃないかな」という回答が返ってきた。一人や二人では持ち上げることができないような重い計量器でも、ロープで対象物をがっちりと固定し、建物の柱を利用して重さを殺していくことで、少ない人数であっても無事に一階へ下ろすことができた。目の前で実践された奇跡のような技に、「こういう知恵や技術こそ自分達が求めているもの、今後身につけたいものだ」と強く感じた。

天井板を外したところ

大方、ものを片付けたあとは果てしない掃除が待っていた。一階天井の板(=二階の床板)については、一枚ずつ釘を抜いて外し、デッキブラシで長年堆積した汚れを落とした。陽光の下で十分に乾燥させた板を、元の場所に打ち込むまでの作業をひとフロア分。厳密に規格されたものではなかったから、パズルのように、戻す場所を間違えることはできない。マジックで小さな目印をつけて慎重に板を戻していった。膨大な時間がかかったが、建物のベースの部分がようやく「使える」状態になっていく感覚は気分がよかった。

燕の巣

壁や柱など拭けるところは全て入念に拭いた。梁のところにツバメの巣の跡がやたらとたくさんあって、掃除中にツバメが飛び交うこともあった。巣の汚れは頑固でなかなか落ちにくかったけれど、ツバメはその家に幸福を運んでくれるとも言う。吉兆か。この納屋は何かしら運のある場所なのかもしれないな、などと考えていたのを覚えている。

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