トルコで絨毯詐欺にあった話⑥
「これは本当に詐欺にあっているのか?」
「絨毯を2万5千円で買わされたから詐欺じゃないか」
「そもそも絨毯の値段って俺らには判断できなくない。もしこの絨毯が、本当に2万5千円の価値があれば詐欺とは言い切れなくないか」
確かに、僕たちにはこの絨毯の価値が分からない。偽物で粗悪な絨毯であれば2万5千円はぼったくり。しかし、正当な値段なら、ただ高い買い物をしたことになる。
しかし、僕はこの絨毯が2万5千円の価値がないとして、もう一度彼らに会って
「やっぱり返品したいんですけど」
と言って、
「分かった、返金しよう」
何て言わないだろう。前のめりで買ったのに、次の日返品だと、俺らの素性を知っているなと思われ、何をされるかわからない。最悪、監禁や暴行だってありえるかもしれない。最も古いネットでの投稿を見ると2006年から彼らの情報は出ている。10年間以上、詐欺を横行し、今だにしているのだから、小さい組織でもないだろう。
ある意味、ここまで気持ちよく騙されると、一種のエンターテイメントだ。そもそも2万5千円の値段自体めちゃくちゃ、高いわけではない。きっと、僕らが学生と判別し、ギリギリ納得して出せる金額を提示してきたのだろう。
とりわけ、この絨毯は偽物なのか、本物なのか真相は知りたい。
「明日、この絨毯をちゃんとしたお店に見せに行こう」
そうして、僕らは落ち着かない夜を過ごした。
僕らはイスタンブールの滞在は2日間のみで、今日が最終日。昨日はほとんど観光をしていない。午前中は観光し、午後に絨毯を見せよう。
なので絨毯はいったんホテルに置き、午前中は観光した。
午前中、トルコを観光していると、最も会いたくない人物に会ってしまった。Oだ。彼は昨日のように、笑顔で
「これからどこ行くの?」
僕らは彼の素性を知っているので、昨日のように笑顔で接することができなかった。
「今日は気分悪いね、どうかしたの?」
気分が悪いのではなく、関わりたくないのだ。とりあえず、彼から離れたかった。
「これから、ガラタ塔に行きたいので電車のチケットの買い方を教えてください」
僕らは電車の切符の買い方を知らなかった。Oは快く、教えてくれる。小さいけど、僕らはOを逆に利用した。そして電車に乗って、彼をまいた。
「気まずかったね。仕事サボっているんじゃなくて、ああやって日本人を探しているんだ」
ある意味、Oは仕事をしていた。
日も暮れてきたので、僕らはホテルに戻る。絨毯を持ち、日本のガイドブックにも掲載されている信頼できる絨毯屋に向かう。
その途中、Tがある人に気づく
「あれOじゃないか」
Tの目線の先、通りをはさんだ向こうにOがいる。僕らは大きな絨毯を抱えている。見つかったら面倒なことになりそうだ。しかも、イスタンブールを出発するまでの時間はそれほどない。話しかけられたら終わりだ。
なるべくOに目を合わさないよう早足で進む。しかし、視界に入るOは完全にこっちに気づいている。僕らはダッシュでお店に駆け込んだ。
「あそこで話しかけられたら終わってたね。さすがに、中には入ってこないでしょ」
僕らは胸をなでおろす。
早速、店主がいたので事情を話したら、すぐに快諾してくれた。
僕らの持っている絨毯を店主に見せる。
店主はひとつひとつ見て、触り、慎重に鑑定する。やっぱり安物なのかなぁ。
店主が鑑定し終え、
「3枚の絨毯は2万5千円の価値がありますよ。縫い目がしっかりしていて、安物ではないね」
本物の絨毯だった。ということは、これは詐欺ではなく高い買い物をしただけか。彼らは適正な価格で売りつけていた。
振り返ると、彼らは僕らに押し付けて絨毯を買わせたわけではない。というのは何十枚か絨毯を並べさせ、僕たちに選ばせた。僕たちは運よく本物の絨毯を選んだのかもしれない。詐欺師から見れば、偽物か本物のどっちを買うかの遊びをしていたのかもしれない。
ネットの情報では、もっと高額な金額で吹っ掛けられた人もいた。もしかしたら、4人組で男だけで来たのも幸運だったのかもしれない。一人で来ていたら、女性だけで来ていたら、もっとひどい目にあっていたのかも。
結局、僕たちは長い時間かけもてなされ、値段相応の絨毯を買わされただけであった。
街で日本語で話しかけてくる人には、近づかないほうが身のためだ。2万5千円の高い勉強料を払い、学んだ。
「ちなみに、店主は26人の絨毯鑑定士の一人ですか?」
念のため聞いてみた。
「絨毯鑑定士ってなんだい。そんな人がいるのかい」
やっぱり嘘だった。
結局僕は、日本まで重たい絨毯を持ち帰り、玄関マットとして現在使用している。詐欺師いわく
「この絨毯は踏めば踏むほど、頑丈になっていくんだ。しかも100年後まで使うことができるよ」
彼らの話はどこまでが本当で嘘かわからないけど、100年後まで使い続けられるか見てみようと思った。
終わり
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