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【小説】蝶はちいさきかぜをうむ その12

街長と風飼いの少年、そして洗い屋の少女は目をまるくしています。

おばあさんはそんなみんなの顔を覗き込んで楽しそうにキョロキョロしています。


「え?えっと、どういうことって、どういうこと?」

「いや、だからさ、『風さえ吹いたらなぁ』って言ったのに、なんで『お機械さまの草原が曇ればなぁ』なの?」

「え、だって、お機械さまの草原が曇れば、風が吹くじゃない。」

「えええ!そうなの?」 

「うん。洗い屋の中では常識よ。
お機械さまの草原が曇っている日は、とても気持ちいい風が吹くの。絶好の洗い日和よ!」

「え、ちょ、ちょっと待って…と、いうことは…」


「お機械さまを稼働させて、あちらの草原に雨を降らせるときに集まってくる雲たちが、この街に風を吹かせていたってことのようだね。
なるほどなぁ〜!そういうことか!」

目をぐるぐるさせている少年の代わりに街長が目を輝かせて言いました。

「あっ、そうかぁ。そういうことね!」

少女も顔を輝かせて言いました。


「じゃあ、もう一回お機械さまを動かして、雨を降らせれば…」


『風が吹く!』


少年と少女、街長が声を揃えて叫びました。


「あ。でも、雨を降らせるために必要な金の蕾は治療のために渡してしまったから、もうないんだよ。それがないと、お機械さまは動かせないっておじいさんが言ってた。」


「よし。療養所長に聞いてみよう。もしかしたら、貸してくれるかもしれないよ。」


4人は療養所長の所へ行きました。

「やあ、これはこれは街長さん!どうしたんですかな?」

「お忙しい中おじゃまします。実はね、このおばあさんが入所したときに治療費として渡した金細工を見せて欲しいんだ。」

「はて?金細工ですか。ふむん。ちょっと私では分かりかねますのでな、婦長さんを呼んでこさせましょう。」


やってきた婦長さんに同じように聞いてみます。

「このおばあさんが入所したときに治療費として渡した金細工を見せてもらえませんか?」

「金細工?おばあさんの治療費は山盛りの生地でいただきましたよ。気球商団の団長さんからね。」

「えっ?ど、どういうことだ?」

「商団長さんとおばあさんは古いお知り合いだったのでしょう。姉弟だったのかしら。とてもよく気遣っていらして、ぜひ私が治療費を払いたいと申し出てくださったんです。

おばあさんもたしか、金細工でお支払いになろうとしたんですけどね。結構ですよとお断りしました。

ですから、あの金細工はおばあさんがお持ちになっているはずですよ。」


みんなの目がゆっくりとおばあさんに向けられます。
おばあさんは何の話をしているかわからないので、椅子に腰かけてニコニコとみんなを見ていました。


「お、おばあちゃんっ!あの、あの、こういうの、持ってる?まあるくて、キラキラしてて、お花みたいに開くの!」

少女がおばあさんに手で丸を作ったり手のひらをパタパタとさせたり手で花が開くような動きをしたりしながら聞きました。

少女の突然の剣幕にきょとんと見ていたおばあさんは、何度も繰り返されるジェスチャーをよおく見て、嬉しそうにこくんと頷きました。



おばあさんのお部屋で、4人は集まっています。

窓際に置かれた小さな棚の引き出しを開け、おばあさんはやわらかそうな布の包みをそっと取り出し、ベッドにちょこんと腰かけてゆっくりと包みを開きます。

包みの中からは、細かい飾り彫の施された手のひらくらいのサイズの金色に輝くまあるいものが出てきました。
窓から差し込む木漏れ日がキラキラと反射して壁に美しい模様を作っています。


「こ、これが、お機械さまの…」

「きれい…」

窓からふわりと柔らかな風が入り込んできました。

「風たちがワクワクしてる!鼻歌うたってるみたいだ!」

風はふわふわと部屋中を回り、金の蕾の周りをくるりと一周して踊るようにまた窓から出ていきました。




「さて。じゃあ、これからのことを確認しよう。」

街長が整理するようです。
本当に隊長みたいです。


「まず、金の蕾をお機械さまに届けなくてはいけない。」

「はいっ!僕が風に乗って届けるよ!
あ、でも、ここの風たち元気ないんだよなぁ。
向こうの草原に行けるくらいに育てるの、結構時間かかっちゃうかも。」


「はいっ!私、風を洗うわ!ほら、なんだかうす汚れてて元気がないみたいって言ってたでしょ?
洗ってきれいになったら、元気がでるんじゃないかしら!」

「うん。それはいい考えだ。洗ってみよう。」

「ふわぁ〜。すごいな。何でも洗えるんだな。」

「だって洗い屋だもの!」

少女は得意そうに言いました。


「それで、金の蕾を届けたら、君はおじいさんを手伝ってなんとかして雨を降らせてくれ。」

「まかせろ!」

「そうしたら、きっと風ソリが乗れるくらいの風が吹くはずだ。」

「それまでに、私たちは風ソリを完成させておくわ!」

「僕は、間欠泉をうまく避けられるルートを見つけておこう。ふふふ。なんだか、ワクワクするね!」

「風ソリ、飛ばすぞ!」

「おばあちゃん、あとちょっとだからね!」



盛り上がる3人を見ながら、金の蕾を両手で愛おしそうに包んでいるおばあさんはにっこりとしていましたが、その目尻はキラリと光っていました。





作 なんてね
  ちょっぴりあんこぼーろ


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