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【小説】蝶はちいさきかぜをうむ その15


ぎゅるるるるるるる

びゅぅっ  ぶわぁっ ごごおぅ


間欠泉の大きな風を受けた風ソリはきゅるきゅると回り、やっと翼に風を受けて安定した時には、随分とルートを左へ逸れてしまっていました。


「このままじゃ、向こうの草原に着陸できないよっ!こっちは少し、崖が高くなってるんだ!」


慌てて追いかけてきた少年が叫んでいます。


「このままじゃ、崖にぶつかっちゃうわ!何とかして進路を変えないと…!」


少女は一生懸命に操縦縄を引きましたが、風ソリの高度は下がったまま、上昇することができません。


ぴゅぃーーーーーーっ!


少年が必死に指笛で風を呼びますが、風たちはお機械さま草原に夢中になっているのか、指笛の音が届かないようです。


「ど、どうしようっ!」
「どうしたらいいのっ?!」


「○◉ー*+◁#!!!!!」


めいっぱい目をぐるぐるさせて考えている少年と少女におばあさんが叫びました。

少年に向かって手を伸ばし、何か渡せというようにぶんぶんと振っています。

「え?なに?なんだろぅ…」

おばあさんは指でぐるぐると丸を描き、軽く握った手を口に当てて何かを吹くような仕草をして、また少年に手を伸ばします。

「なに?なんだ?…まるくて、、、吹くもの?
・・・・・・!!!!!!コレかっ!」


少年はポケットから丸いものを取り出し、おばあさんに向かって投げました。


くるくると回りながら飛んできた丸いものをおばあさんはジャンプしてキャッチします。
ジャンプしたおばあさんを少女は慌てて掴みました。



ぴゅるーーー  ぴぴぃー
ぴゅるーーー  ぴぴぃー



おばあさんは風切笛を巧みに回しながらいくつかの吹き口を使って心地良い音を鳴らしました。
澄んだ音色が渓谷の中をすり抜けていきます。



ひゅぅーーーーー ひゅぅーーーーー

ひゅわっ ふわわわわっ


遠くからやさしい風の塊が飛んできて、風ソリの翼を下から押し上げていきます。

びゅぅわわわわっ

風ソリは大きく上昇し、空高く舞い上がりました。


「やったぁ!これで、お機械さまのところまで行けるぞ!」


上空まで上がった風ソリは、ゆっくりと風に乗り、まっすぐにお機械さまを目指して飛んでいきます。







『どうして、我々気球商団が数ヶ月もの長い間、お機械さま草原で過ごすかわかるかい?』


おばあさんは、小さい頃自分を膝に乗せて父親がよく話してくれていたことを思い出していました。


『お機械さま草原にはね、“商売”が無いんだよ。

森が与えてくれる薪も、木々が与えてくれる果物も、そうしてお機械さまが与えてくれる水も、全てが彼らにとっては“恵み”なんだ。

誰もが得意なことをやって、それがみんなの生活を支えていく。
彼らにとってはお互いの存在もまた、“恵み”なんだよ。

だからね、我々もお機械さま草原では商売はしない。世界を周る気球商団の唯一のお休み場所でもあるんだ。

そうして、“商売”にとって一番大事なことを思い出させてくれる場所でもある。
得をしたとか損をしたとかではなくて、
どれだけの“恵み”を届けられるか。
相手にとって“恵み”になれているのか。

だからね、お機械さま草原は我々にとって、
特別な場所なんだよ。』




おばあさんは胸がきゅぅっとなりました。

街へ連れて行ってくれた商団長、
とてもよくしてくれた療養所の人々、
洗い屋の少女と出会い、
風飼いの少年も、街長も、
一生懸命に助けてくれました。

そうして、一番の“恵み”。
おじいさんの待つお機械さま草原がどんどん近づいてきます。






作 なんてね
  ちょっぴりあんこぼーろ


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