魔法使いの家にホームステイする④
朝。
気がつけば朝になっていたというくらい
ぐっすり眠りました。
少し遅れて部屋を出たら、廊下でマスターあんこにばったり会い、
おはようございます
と朝から爽やかな一日が始まる魔法にかかりました。
おはにょうごじゃいまひゅ
となんだかよくわからないご挨拶をして、
もそもそと支度を済ませると、
お茶の香りがふんわりと漂う部屋では
朝ごはんが出来上がっていました。
魔法か。
まあ、白湯でも。
と出された白湯をふぅふぅしているうちに、
気づけば目の前には、お野菜たっぷりのお味噌汁が。
朝陽を浴びて神々しい。
わぁ。なんかドラッグストア昔話みたいな野菜のお味噌汁だなー。
なんて、こっそりにんまりしていると、
ささ、どうぞ。
菜っぱ飯ーーーー!!!
そう。たたみかけてくるんですよ。
マスターあんこは。
あ、なんかコレってアレっぽいな、
なんて油断してると、すぐさま
どーーーーーんと来ます。
皆さまもお気をつけください。
普段は朝食をとらないのですが、
これはもう、ね。
堪能させていただきました。
ふと気がつくと姉のシモーヌが防寒具を身に纏っています。
「じゃあ、お借りします!カブでそこまで!」
と言ってマスターあんこの防寒具を身になじませながら配達員のような後ろ姿でカブに跨がって走り去っていきました。
部屋の至るところでは、小さな虹がきらきらと泳いでいます。
窓辺には美しいサンキャッチャーが。
透き通るような窓を見上げながら、
ああ、きっと窓も磨いてくれたんだろうな。
床も隅々まで清められていて、
だからこの清浄な空気で満たされてるんだな。
とぼんやりと朝の光を楽しみました。
姉はカブの乗り心地の良さに感動しながら戻ってきて、いざ、本日も出発です。
行き先も予定も聞かない姉妹を乗せて、
マスターあんこは車を走らせます。
まず行ったのは女郎塚です。
女郎塚の前に立つマスターあんこを見ていたら、
『姉さん、さすがどすわ。かわいいおひと。』
『そりゃあ、あちきもまだまだよ。』
と、ころころ笑う声が聞こえた気がしたのでした。
あるものも、もうないものも、等しく大切にするマスターあんこを感じました。
そうして、大きな神社へ。
以前より階段がつらくないのは最近山に登ったりしたおかげかな、なんて思いながら長い石段を登って参拝しました。
参拝後に促されるまま少し参道を下っていくと、
みょうに心惹かれる小さな店構えが。
なんのお店かな。ちょっとお茶でも飲めるのかな?入りたいなー。
なんて思っていたらマスターあんこが
ここに入りましょう。
と言うではありませんか。
もはや心のうちもお見通しなマスターあんこ。
入ってみるとそこは、にこにこしたおじさんがやっているたい焼き屋さんでした。
「焼けるまで時間がかかるから、お茶でも飲んでてねー」
と促されるままに着席。
一本焼き。たい焼きをひとつずつの焼き型で焼いていました。丁寧に丁寧に。
焼き上がったたい焼きは、少し小ぶりで、皮は私の知っているたい焼きよりも薄め。
齧るとパリッという香ばしさ。
餡は甘いのにくどくない。
ゴーン・・・ ゴーン・・・
気がつくと鐘の音が鳴り響き、
三人とも無我の境地で無言のまま、
ただたい焼きを食べていたことに気がつき
笑ってしまいました。
なんだか同じ「無」を共有したような時間が
より一層美味しく感じられました。
誰かと一緒にいると、つい、
何か話さなきゃ、と焦りがちな私ですが、
こうして無言の時間を共有できる関係は
とてつもなく尊いです。
ああ、ここでも時間が止まる魔法にかかったな
と思いながら、もふもふとたい焼きを頬張ったのでした。
つづく。
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