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おらおらでひとりいぐもの感想(ネタバレあり)

イオンシネマ京都桂川で鑑賞。
ほぼ満席。時々笑い声もあっていい環境だった。

「インサイド・ヘッド」などもそうなのだけど、こういう「自分の中にある自分を愛する存在」が出てくる映画に僕はめっぽう弱いので今作も楽しみにしていたけど、それにしたってとても素晴らしかった。

沖田監督らしい優しさ

人生の選択肢がもう残り少ない現在から、自分という人間が形作られるまでの祝祭的な日々を振り返るという作りは個人的に沖田監督作品で一番好きな「横道世之介」に近い作り。

ただ横道世之介と違うのは過去を振り返るのは第三者ではないし、誰かと共有している過去でもなく自分自身の目で見てきた過去。

そう考えると凄く閉じたお話にも感じるのだけど、冒頭から彼女がずっと考え続けている「地球の歴史」というモチーフがとても効いている。
今の自分が作られるまでの奇跡があって、ちゃんと世界と繋がっているし、自分は特別な一人である事を噛み締める終盤。
そんな世界の繋がりの象徴であるマンモスが付いてくるシーンがとても美しく感動的だった。後ろには常に世界との繋がりがあると言っているみたいで優しい。

桃子さん

心の声は若い時の声のままなのとか、「甘いお酒でうがい」で主人公のナレーションの声が少女の様なしゃべり方になっていたのと似ている。
確かに主観で考えた時、自分の心の声って歳を取らないのは当たり前の事だし凄く腑に落ちる演出。

実家から逃げて「新しい女」になる為、必死に生きてきた訳だけど旦那さんとの出会いも故郷をきっかけにしたものだったし、現在の息子とは故郷を捨てた自分と実家との関係そのままで、あまつさえ家を捨てた息子の心配につけ込まれオレオレ詐欺に引っかかってしまったりしている。
基本的にずっと血の繋がった実の家族によって精神を削られるシーンが多いのが辛い。

それでも娘とのフリルのスカートを巡る悲劇的なエピソードとして話していた「うつるんだ」という言葉がラストに孫から言われる「お母さんが怒る時に東北のなまりが出る」という所で、継承されていくのは息苦しさだけではないと、優しく繋がっていく様でとても愛おしい。

後半のお墓参りをする為に山に入っていく場面が記憶の波が時系列がバラバラで襲ってくる感じが、無我夢中で体を動かす事で頭の中で記憶がグルグルすることが、僕もあるのでなんとなくイメージしやすかったしここがちゃんと映画的に美しく切り取られているのが凄い。撮影が冴えまくって、流石は近藤龍人。
ここのシークエンス最後の、自分が自分になるまでを共にしてきた全てに背中を押されながら花束を持って坂を登る所は撮影、音楽、演者の顔など全てがパーフェクトで無条件で涙が出てしまう。

あと静かな部屋の襖が開くと出てくる仕掛けの数々は観ているだけで楽しい。一人の頭の中にこれだけ美しいビジュアルが詰まっているのだという人間賛歌的なメッセージ性すら感じる。

あと個人的に涙腺が刺激されたのは故郷を捨てて列車に乗り眠っている桃子さんの横をアノマロカリスが泳いでいくシーン。
一番辛い時なのだと思うのだけど窓の外には世界としっかり繋がっている事を示しているみたい。蒼井優が演じている桃子さんのシーンは、なんとなく「この世界の片隅に」のすずさんとかに通じる静かな高揚感が漂っている気がした。

日常の描き方

毎回のご飯を作る様子や、家の中にある置物や写真など、家の中での描写がいちいち実在感があって、人の家にお邪魔して観ている感じがすごい。あと僕は亡くなった祖父母の家の感じをめちゃくちゃ思い出してしまった。

すでに亡くなってしまった周造さんの情報はさほど語られないのだけど、家の中の物を見ていくとなんとなく残していった置物とかで人間味に深みを出せていて、確かにそこに居た感じがした。

あと桃子さんの使い古したエプロン(?)に三匹の猫がプリントされていて寂しさの3人を作り出された素みたいのがさりげなく映ったりする演出も良かった。

そんな感じ観た後しばらく桃子さんの事ばかり考えてしまうし、自分との付き合い方に希望を持てる様な素晴らしい映画だと思った。大好き。

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