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殺さない彼と死なない彼女の感想(ネタバレあり)

T‐JOY京都で鑑賞。

初週の土曜レイトと日曜のお昼の回の2回鑑賞。レイトのお客さんはまばらだったけど、日曜お昼はかなり入っていた。口コミ好評そうだし今後はお客さん増えていきそうな気がする。

試写とかで公開前に観た人の絶賛ツイートがちょこちょこ流れてきていたので、結構気になっていた。

観る前は、高校生同士の緩いやりとりを切り取ったセトウツミ的な高校生の「ゆるふわ会話劇映画」思っていたら、後半で観る前には全く想像していたなかった悲劇が襲ってきてビックリ。

そしてそれすらも乗り越える登場人物同士が儚いけど優しいつながりに泣いた。

ラストの大事件は確かに涙腺刺激ポイントではあるのだけど、前半の何気ないやりとりをしているだけにも見えるメインの3つの話の共鳴の仕方こそが凄まじく感動的である構成が見事としか言いようがない。

とにかく演出がめちゃくちゃ素晴らしい。
お話的な悲劇要素ではない所で涙が出てくる。

例えば冒頭の鹿野さんがハチのお墓を作る所で、それまで長回しの引きの構図が多かったのに、彼の方を見る彼女の笑顔のカットと、それを見つめて思わず少し笑顔になってしまう小坂君の表情のカットが入った瞬間に2人の恋が動き出した合図みたいでいきなりグッときた。

そこから少し前を歩きだす小坂君に追いつく為に鹿野さんがラインの様になっている側溝の蓋を踏んで付いていくシーンで彼の気持ちの敷居を跨ぐのをしっかり表現しているのが巧み。
そして奥華子さんの木琴(?)が印象的なテーマ曲と共にタイトルがドンと出る。
この流れだけで傑作確定の完璧なオープニングだと思う。こういう映画的な感動が随所にちりばめられていて、(あんまり使いたくないけど)いわゆるそういう「尊さ」みたいな部分で終始チビチビ涙が出てくる。

2019年12月31日追記
↑本日もう一回鑑賞したら全然こんなオープニングタイトルの出方では無かった!完全に記憶を改竄されていて恥ずかしい、、、ただこの部分を削除するのも違う気がするのでそのままにはしとく。(往生際の悪い追記)

あと、ここのシーンと対になる様にラストで再び出てくるハチのくだりで目玉もげる。原作にはない素晴らしいアレンジ。

心象ナレーションとかで説明は入るのだけど、何気ない細かな演出で登場人物の気持ちの揺らぎを表現するのが上手い。
例えば小坂君と鹿野さんが歩いている横をランニングする部活集団が通り抜けるのだけど、1人だけ遅れて走るメンバーの子を小坂君が視線で追いかける所で、彼の置いていかれている状況への焦りや、後に明らかになる部活でのケガの件などをさらっと示唆していて凄く良い場面。

あとシーンの進み方も絶妙で小坂鹿野パートは最初の外でウロウロ歩きながら喋るだけのパートから、次の場面でもう小坂君の部屋で二人でゲームしているシーンになり、その次からお泊りも全然ありな関係に発展していたりして、同じことが繰り返されている様で徐々に関係性が深くなっていく感じにドキドキしてしまう。

撮影も素晴らしくて、光の切り取り方が凄まじく美しい。自然光にこだわって撮影したらしいけど、「そうそう、学校の中に入る光ってこんな感じだった、、、」と凄く切なくも懐かしい気持ちになる。
こだわり抜いたであろう光の一射し一射しが、彼らの愛おしい一瞬一瞬を包み込む様で本当に優しい。

原作は映画を観た後読んだ。四コマ漫画なのでかなり寓話的なアプローチの作品なのだけど、読み進めていくと同じ様な緩いギャグが繰り返されている様に見えて、最終的にはしっかり関係性の落とし所を描いているのが好き。
ただ緩くも見えつつ合間に入る、主人公たちと同じ様に人を愛している故に狂気に走るしかなかった人の話が同じ世界に同居していて、実はハードな世界観の作品だとも思う。

ある意味で無駄なものを仰ぎ落して寓話化したキャラクターを今回実写化するにあたって、かなり肉付けしているのだけどその膨らませ方が上手い。

原作は短編3つで完全に分かれていて、他のエピソードのキャラクターが全く交わらない構成になっているのだけど、映画版は同じ世界にいる人間として絡ませていく手法が絶妙。あなた達は1人じゃないとお互いのエピソードを優しく結んでいく。
個人的にはトーンは全然違うけど今年上半期に観た「ひかりの歌」の構成の仕方を連想した。

あと高校生描写として、デートや遊び場所が「ららぽーと」とかに集約している感じが今の地方都市に住む若者のリアルさがあって、登場人物が僕らの生活と地続きな生身の人間として感じることが出来た。この辺の舞台設定も素晴らしい。

そんな感じで原作から大きくアレンジしてる様に見えるんだけど、映画を観終えた後の感覚が、ちゃんと原作の読後感と同じ種類の切なさが残っていくのが凄い。作り手の原作に対する愛情にまた泣いてしまう。

キャラクターの描き方も一人一人とても丁寧。

小坂君は冒頭でハチが殺されごみ箱に捨てられる所で、自分の高校生活を象徴するものを心の中で捨てている描写が入る。だからこそそれを拾い上げてしまう鹿野さんに興味を持ってしまう流れが自然でそのままスッと感情移入していってしまう。

間宮祥太朗さんはちゃんと観たのは「全員死刑」だけだったけど、今回はストレートにイケメン過ぎてビックリした。
全員死刑のあいつとは真逆のアンニュイな雰囲気だけど、今回は所々で高校生らしい無邪気さを醸し出していてしっかり血肉の通ったキャラクターに感じた。
死ぬ直前の演技とか異常なディティールのこだわりで二回目鑑賞時はちょっと過剰な流血の量とかでコミカルさすら感じてしまった。意識が遠のいて少しずつ白目むいていくの上手すぎる。原作は真っ黒なコマにセリフだけ書かれている様な表現の仕方なのだけど(こっちはこっちで切なくて胸がくるしくなる)、実写化は「本当にこの人は死んだのだ」という事をこちらに突き付けてくる感じで原作とは違うハードさを描いている。あとスマホ中毒である彼の最後にする行動が彼女の写真をスクイズしながら力尽きていくのも原作からの素晴らしいブラッシュアップだと思う。

あと小坂君「分け目が逆」なの俺は一瞬で気付いたよ。

鹿野さんは、いじめられたりしていたっぽいし変人扱いされたりはしているのだけど、人目を気にして自殺願望を持っている訳じゃないというのが面白いと思った。純粋に自分自身への嫌悪感と世界への絶望感で消えたいと思っているけど、実際は死ぬ度胸はないのでまた自身への嫌悪感を増していくという悪循環。ある意味正直で真っすぐという事でもあるのだけど、そこに気づいているのは小坂君だけで、彼を通して世界に対して希望を取り戻していく様子が愛おしい。

演じる桜井日奈子さんも素晴らしい。すましている時の顔は凄まじく美人なのに、コロコロと表情を変化させる振り幅が大きくて可愛らしい。
小坂君が「ブスだなぁ」と言いながら撮った写真の数々が若干それも分かる表情の崩壊具合で(褒めています)だからこそ後々涙腺を刺激される。

地味子ちゃんは基本的に絡みがあるのはきゃぴ子ちゃんと八千代君だけなのだけど、二人の接し方の違いが絶妙で面白かった。

キャピ子との関係に百合感があるという意見も分かるのだけど、最早そういう「性」とかを超えた信頼関係があるのが僕はとても好きだった。八千代君の方は勝手に入ってきておやつを奪ってふすまを閉めずに出ていく姉弟関係故の雑さとかがとても微笑ましい。

あと単純に恒松祐里さんファンなので、今回は眼鏡というアイテムが「鬼に金棒」状態で画面に映る度に見惚れていた。ドーラのものまね死んじゃう。

原作から考えるときゃぴ子が一番実写化が難しいキャラクターだと思うのだけど、堀田真由さんが見事に実在感がある悩めるキャラクターとして体現出来ているのが凄い。
原作は相手の男も高校生設定になっているのだけど、映画では大学生とかもいるし、漫画の方で濁していたSEXの要素をちゃんと描いていて色っぽい話になっているのが現実感あって良かった。

そんな名前の奴いないだろ、と思ってたけど母親役で佐津川愛美が出てきた瞬間に「あ、コイツが母親なら名付けるかも知れない」という説得力。

撫子ちゃん。会話のトーンが原作漫画のままなので、実写で観ると不思議な感覚になるのだけど、それが愛らしいし原作へのリスペクトとして違和感なく受け入れられる。

最初彼女の方が言う「好き」という言葉がいかにも軽く描かれているし「付き合いたい訳じゃないのよ」というセリフで変な娘だなぁ位な印象なのだけど、途中彼から告白してもらう夢を見る所で切実に彼の事を愛しているのが分かって胸が締めつけられた。
ここも同じ事を繰り返している様に見えて少しずつキャラクターの印象が変わっていく見せ方がとても達者。

箭内 夢菜さん見た事ないと思ってたけど、HiGH&LOW THE WORSTの鳳仙のリーダーの妹ちゃんだったと、さっき知った。

八千代君、独特な言い回しや、姉に軽く注意された時に「僕もまだまだだね」とかつぶやいたり、読書中の涙をごまかしたり(本当に眠かっただけかもしれない)最初の方はこの子もなんか不思議ちゃんだなぁと思っていたけど、後から考えるとそういう全てが彼が考える「大人」になる為の鎧だと分かる。要は常に冷静である事(冷めている事)が彼にとっての大人像なのだと思う。

だからこそそんな彼の方に目線が切り替わった時にどこまでも真っ直ぐな撫子ちゃんからの「好き」という言葉の一つ一つを決して受け流すことが出来なかったと分かる所でまた泣いてしまう。本当にとても優しい映画。

個人的にはこの2人のエピソードが一番好き。

「未来の話をしよう」という言葉が小坂君から鹿野さんへ、鹿野さんから撫子ちゃんへ伝わり八千代君との恋の成就に繋がっていく原作からの改変も見事。

 そして本来時系列では二人がくっつくのは最後なのだけど、撫子ちゃんと鹿野さんとが繋がっていたシーンをラストに持っていく事で、小坂君の死が無駄じゃなかった感動を後追いで味あわせてくる話の組み立て方も本当に素晴らしい。

という感じで長々と書いてしまったけど永遠に考えていられるんじゃないか位、この映画が好きになってしまった。
他の人のツイッターの感想とか読むと、確かに1本の映画として歪な感じがあるかもしれないけど、僕はそれこそが作り手の原作への愛情の表れだと思うので、僕はこの作品を全面的に支持したい。
個人的には今年の青春映画ナンバー1作品だと思う。

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