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透明人間の感想(ネタバレあり)

イオンシネマ京都桂川で鑑賞。
自粛期間明けから時間も経ってきて少しずつお客さんも戻ってきている印象がする。
まだ新作での大きい作品は公開になっていないけど、ジブリの過去作を観に来た人で結構混んでいるし、売店とかにだんだんと活気が戻ってきている感覚。

今作を観た回もスクリーンは小さかったけど結構席は埋まっていた。久々に学生さんとか若い人がいるのを見た気がする。

透明人間作品の記憶

「透明人間」が題材の映画は昔テレビでやってた「インビジブル」を観たくらいなのだけどでそれもかなりうる覚え。あと香取慎吾主演のドラマ版を小学生の時見てた位かなぁ。

今回のホラー的なアプローチが元祖なんだろうけど、姿が見えなくなる能力自体は色んな映画で何万回も観た印象なので新鮮味は正直少ないしブラムハウス製作で作られると聞いてもあんまりピンときていなかった。

それだけにここまで現代的なテーマで圧倒的な完成度の作品になっていたのは嬉しい驚きだった。

視線の恐怖

暴力的なシーンより、「常にそこにいてこちらを見ている気がする」という何でもないはずのシーンが怖い。

逆に透明人間が暴力を行使してくるシーンは、そこにいるというのが分かるので安心感すらある。何より怖いのは「いない」時で「いないかもしれない、けどいる気がする」という部分にこそ恐怖を感じる作りになっている。
本当カメラワークとかが巧みで、長回しとか開いたドアから見える闇の撮り方など本当ずっと不穏。この辺のホラー的な演出の上手さは安定のブラムハウスクオリティ。

さらに巧みなのはそういう「見られている恐怖」がDVやストーカー被害を受けた被害者である彼女の普遍的な心の傷が痛みとしっかりリンクしている事。
たとえそこにいないとしても、どこに行っても監視されている感覚から逃れられない絶望が苦しい。

全編最高な映画

まずオープニングから素晴らしい。
観ているこちらは全く何も分からないまま、彼女が脱出しようとしているのだけど既に異常な緊張感。
エリザベス・モスの演技力が素晴らし過ぎて彼女の必死さだけで応援してしまう。
と、言いつつこの時点ではエイドリアンに関しては眠っている姿しか確認できていないので、彼女がそこまでおびえる程の人物なのか?という事が明確には分からないのだけど、家の中にある防犯カメラの数、犬の首輪に着けた装置(?)みたいなものが出てくる度に「この家なんかおかしい、、、」というのが分かってくる。この辺の語り口が本当スマートで凄い。
そして最終的に妹の車に乗った彼女に寝間着姿のまま突進してきて窓ガラスを素手でブチ割ってくる所で「あ、こいつアウトやん、、、」と認識。

透明人間スーツのビジュアルとかも絶妙だと思う。
これまでの透明人間といえば男性器をブラブラさせながら裸でウロウロしていて、その状態で女性を覗いたりするシーンが大体入るのでなんとなく男性の「性欲」と直結したイメージだった。(まあ主にインビジブルのイメージだけど)

それに対し今回はスーツ姿で何ならかっこいいビジュアルなのだけど、体中に着いたカメラがとても今回のテーマを象徴している気がする。
要は体中に目が付いた化け物が「常にお前を監視している」という事を現している様だった。

この映画は何かしらの危害を加えてくるシーンよりもずっと「見られている感覚になる」という男性からの「視線」の圧力こそが気持ち悪くて、肉体的な暴力じゃない常に「お前を思い通りにしやる」という脅迫的な恐怖が漂っている。

追い詰められながらもやっと彼が生きていて透明人間だという証拠を掴んだ後の、彼女への追い込み方が凄くて結構ビックリした。
やっと仲直りできた妹が殺され、その罪を被る形になって刑務所行きになる、しかも子供を妊娠させられていたという衝撃の事実が発覚。
しかし「これもう終わりじゃない?」とこちらも絶望しかけたタイミングで、彼からすれば弱点になる「彼女の死」を逆手にした捨て身の奇襲攻撃がめちゃくちゃ熱い。

ラストの食卓シーンも最高。
エイドリアンがまともに話しているのを観客は初めてここで観るのだけど、「あれ、めっちゃ普通のイケメンに見えるんやけど」と油断しかける。
しかし印象的に使われてきた「サプライズ」という言葉で「あ!信じちゃだめだ!」ってハッとなるのが語り口として本当に巧み。

そしてなんといっても妹を殺された手口と全く方法で彼を殺害するシーンのカタルシス。
ずっと支配されていた監視カメラの位置をコントロールして、死ぬ間際のエイドリアンを見下す。エリザベス・モスの冷たい視線での「私の怒りを知れ」と言わんばかりの表情が最高。
最高のエンターテイメント映画。

エリザベス・モスの演技力

エリザベス・モス演じるセシリア。
神経質そうな表情が素晴らしい。頭が良いのは分かるし真面目な人なのは伝わってくるのだけど、悲劇の度に傷ついているのがビンビン伝わってくるのでいつか精神が崩壊するんじゃないかとハラハラする。

途中の「脚立」プレゼントのワンクッションを置いてからのシドニーちゃんの学費負担の発表の所とか観てるこちらからするとなんか「いい人だけど、ちょっとめんどくさい人だな、、、」と少し信じられなさを入れてくるバランスが人物像の作り方として上手い。

前半はエイドリアンの嫌がらせが他の登場人物と同じく錯乱した彼女が見てる幻覚にも思えるので、後半いよいよ姿を現した時に「疑ってゴメン」ってなった。

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前評判が凄く良かったので観る前から楽しみには、していたけどここまで面白いとは思わなかった。
フェミニズム的でとても今の時代の映画って感じもするし、単純に支配される側からの反撃のカタルシスが最高で誰もが楽しめる普遍的なエンターテインメント作品にもなっているのが好き。
僕は今の会社での人間関係を重ねてラストに「ザマァ!」ってめちゃくちゃ感情移入してスッキリしたなぁ。

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