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タロウのバカの感想(ネタバレあり)

出町座で鑑賞。
東京行った時に友達のけんすさんに勧められたのだけど、京都みなみ会館の公開も終わった後で観ときゃ良かったと思っていたら、出町座が拾ってくれて感謝。
というか、みなみ会館の後に出町座でやるパターンがあるのは意外で普通にビックリ。

大森立嗣監督作品。最近は「セトウツミ」や僕は観てない「日日是好日」とか、のんびりめの映画が多かったけど久々に激烈な映画がきた感じ。

無軌道な暴力表現がとても怖かった。

冒頭の國村隼を出しといて速攻で死ぬのが、もうこの映画の読めない暴力性を象徴している。
よく考えれば映画を観ている僕らの目線と、暴力的なあっち側の世界とを橋渡し出来るこの映画の中で1番客観的な価値観を持っていそうなのが國村隼の役だったし、彼がいきなり退場してめちゃくちゃ不安になる。
しかも普通の暴力映画では早めに死にそうなチンピラである奥野瑛太演じる吉岡にアッサリ殺されるのもビックリした。

そんな吉岡に対して仕返しをするエージもまた場当たり的な暴力行為をする人間で、彼の考え方もかなり怖かった。
仲間に対して銃を向け「服脱いで四つん這いになれ」と悪ふざけで言う感じからこちらの価値観で考えるとかなりやばい人。

しかしそこからだんだんと空気が緩んで最終的に笑いあいながらはしゃいでいる彼らを観ていると、この関係性で友情が成立しているのが凄く面白い。

登場人物で言うと、とにかく主人公である3人のキャラクターがそれぞれ強烈。
タイトルのタロウ君に関しては父はおらず母親からも相手にされず、ネグレクト状態でここまで育って小学校にも行った事がない。
彼のガリガリの体型とか肌の荒れ具合とかで見事に説得力があってそもそもの佇まいがすごい。
でも彼はある意味この映画で1番純真で素直な存在。一番信頼出来る存在がエージだったのもあり、その影響故に無軌道になるしかなかった様にも思えた。

だけどエージ自体の無軌道さはタロウと違う質に感じた。柔道一直線だったのに怪我によって信じていた物がひっくり返った絶望によるものなので、何も知らない無邪気なタロウとはある意味真逆とも言える。

だからこそお互いに対して憧れを抱いているし、一緒にいる事が救いになっている。2人とも真逆の理由で世界の偽善性や欺瞞性を嫌悪していてお互いにリスペクトし合っている関係性が面白い。

スギオは他の2人とは違い映画を観ている僕らと同じ普通の価値観を持った人。
エージに対して恐れと、嵐の様に自分と違う価値観与えてくれる憧れを、同居させて付き合っている感じ。こないだ観た「ドッグマン」のマルチェロとシモーネの関係性にも近い気がした。
吉岡への終盤の襲撃後、色々吹っ切れ気持ちがスッキリした後やる事が好きな女の子への正直な告白だったのが好き。最終的に彼がどういう気持ちにいきついたのか僕には分からなかったので銃が発泡されるタイミングに本当にビックリした。

そしてエージとスギオを失い、タロウが色々な人に繰り返し投げ掛けていた「好きって何?」という問いが、そのまま返ってくる様な映画の終わりが切ないし、切れ味が素晴らしい。

と言いつつ、あの後残された人達がどうなるのかとか、この後タロウの人生に更に酷い暴力の波が来そうな感じとか、色々考えると気持ちが重くなる。
それくらい全てのキャラクターを記号じゃなく、分かりやすい共感を拒む様な生身の人間として表現しているのが味わい深い。
見逃さなくて良かった。

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