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土と血の感想(ネタバレあり)

今週はついに京都の全ての映画館がコロナの影響で休館状態になった。一日も早く収束してどの映画館も通常通りの営業を再開してくれることを願わずにいられない。
また色んな映画館をハシゴ出来る日が早く来て欲しい、、、

今週も映画館で観れない作品をアマゾンFire TV Stickで検索して鑑賞。
今作を観た理由としては上映時間が短かった点でわずか1時間20分。

家だと集中力が特に続かないのでこういう作品をチョイスしがちなのだけどとても面白い映画だった。

お話し的には助けの来ない限られた場所で襲い来る武装したギャングを知恵と工夫で、愛する娘を守りながら一人の男が立ち向かうという何百回も観た様な設定のアクション映画ともいえる。

しかし1時間20分という上映時間の中でスマートに色んな要素を入れ込んでいてかなり見応えがあった。

冒頭の警察署襲撃描写から緊張感があってかなりポイントが高い。

確かに低予算映画のスケールの小ささは感じるのだけどプロ感のないチンピラが銃持たされてやらされている荒っぽさと人死には出たけど案外上手くいっていしまう感じとか逆にリアルだと思った。

何より役者さんの顔つきがみんな素晴らしいので細かい事は気にならない位話に入り込んで観てしまった。

そのパートが終わると、主人公サイードの物語が始まる。

彼目線の前半部は京都シネマでやってそうなフランス映画っぽい静かだけど常に悲壮感が漂う家族映画としてとても繊細な印象。

余命いくばくもない事を知り娘の為にお金を残し、今まで自分の下で働いてくれた従業員達が路頭に迷わない様に人生の終わりの準備をしていく。

材木工場の機械を見回しながら歩くシーンや、ご近所の老人に木を持っていってあげる所や、次の会社を任せる別の会社の社長の「うわぁ、色々あったんだろうなぁ」と伝わってくる会話シーンの味わい深さ、耳が不自由な娘が煙草を吸っていたのをあっさり見抜く所で分かる親子関係の絆など、なんでもなさそうなシーンの演出がいちいち素敵だなぁと思った。

そして冒頭のギャング描写があるからこそ、この後この何でもなさそうなおじさんがどういう風に事件に巻き込まれていくのか不安でたまらなくなる。

そしていよいよギャング達が攻めてくる展開に突入していくんだけど映画の雰囲気がガラッと変わってアクション映画にシフトチェンジしていく感じがとても面白かった。

前半で事件を持ってくるヤニスが無垢な瞳に思わず後ろめたさを滲み出してしまう「馬」が出てくるくだり、「この作業車バッテリー替えたけどボロくてエンジンかかりにくいんだよな」とか、作業の時粉塵が飛ぶから結構ごつい「マスク」が必要なシーンとかのさりげなく入っていた小道具の描写の数々がこの戦闘の中でどんどん回収されていく感じがとても気持ちいい。

あと機材を運ぶ大きい台車で敵の足を折って頭を散弾でぶち抜く所とか、娘を追っかけまわしていたチンピラを馬と繋げて足を引きちぎらせる所とかバイオレンス描写もどれもフレッシュさがあって見応えがある。というかはっきりコミカルさが漂っている感じが最高。

ただ前半と後半通して、敵も主人公も家族を失う事の痛みみたいな所で繋がっているのを考えるとやっぱり全体としては物悲しい映画だなぁという気持ちになる。

主人公サイード。全然知らない俳優さんだったけどこの人の顔つきがいちいち素晴らしい。当然短い上映時間なのでそんなダラダラとバックボーンは語られないのだけど佇まいだけで「優しそうだけど色々苦労してきたんだろうなぁ」というのが伝わってくる。

何故あそこまで肝が据わってギャングと互角に戦えるのか分からないけど何となく「人生苦労した人は強いのだ!」という雰囲気だけで納得(?)させてくるあたりが凄い。

ギャングのボス役の首折りアダマさんもとても存在感あって素晴らしい。

ただこの人も無軌道に暴力を振るう人ではなく「家族」である仲間たちの為に筋が通った行動をとってる人なのである意味主人公と裏表の関係。

コカインを回収する事は二の次になり、家族を殺された事による悲しみで主人公親子の命を狙う鬼になっていく動機に感情移入してしまう。ただサイードからしても娘を守る為の行動だったし色々切ない。

まあ、警察署の警備それにしたってザル過ぎるだろとか、ヤニスと娘ちゃんが二人で逃げてそれを一人だけで追いかけるギャングのくだりのダラダラした感じとか、ヘリコプターは何をウロウロしてんねんとか、気になる所は後から色々出てくるんだけど観てる間はとても楽しめたし問題なし!

思わぬ拾い物で大満足だった。

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