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パディントン2の感想(ネタバレあり)

コロナウィルスの影響で映画館に行かなくなり約2ヶ月位経つ。

ハリーポッターマラソンも終わったし、これといって観たい作品もなくなってきたしアイコンにもしているパディントンの映画の感想を書いていこうと思う。

パディントンというキャラクター

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恥ずかしながら元々の絵本シリーズはほどんど読んだことがないのだけど、僕がパディントンを好きな理由として、僕が信じたい理想の英国の紳士像みたいなものを象徴した存在である事。
世界は不寛容だし優しくないけど、ただただ他者に対して親切であり続ける美徳を信じたいじゃん、と物語の中から語りかけてくる様なキャラクターだと思う。

そういえば同時期にやっていた英国紳士シリーズに「キングスマン」があったけど、あちらは「マナーが紳士を作る」がキャッチフレーズだったのに対し、パディントンは歯磨きで耳あか取ったり紅茶をゆすぎながら飲んだりマナーは悪くても「人への思いやりが紳士を作る」って言っているみたいでどこまでも優しい。(どっちがいいとかは言わないよ)

前作パディントン1は、「ロンドンは変わり者だらけ、だから誰でも溶け込める、僕も変わり者だけど、ここは居心地がいい。人と違っていても大丈夫。僕はクマだから。クマのパディントン。」という優しいセリフで映画は終わっていくのだけど、これがパディントンの夢見る世界を象徴している様でとても好き。

もちろん前作も初めて街に来たパディントンを愛らしく描いたとても素晴らしい作品ではあるのだけど、個人的にはパディントン2の方が好きなのは映画として段違いにクオリティが高いと思うからだ。
脚本、撮影、音楽、演出など全部素晴らしいし、そして何よりパディントンというキャラクターへの愛情が前作以上に溢れている。
観る度に「他人に対して親切でいる事で世界は良くなる」と、映画の中からパディントンが語りかけてくる様で涙が止まらなくなってしまう。

素晴らしいオープニング

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おばさんとおじさんが、パディントンを育てる事になる経緯が簡潔に紹介される為、前作を観ていなくても全く問題なく入っていける。「子供が川から流れてきておじいさんとおばあさんが育てる」というのがとてもおとぎ話的で、いきなり「こういうフィクションラインの話ですよ!」と宣言しているみたいで掴みとしてもばっちりだと思う。

そこから現代パートに戻ってからのタイトルの出方がまあ可愛いし、窓を使っているのが、さりげなくこの後の展開の示唆になってていい。物語の始まりを本当にチャイムの音で告げる演出、ストレート過ぎて逆に新鮮だ。

お馴染みのブラウン家の人々が登場。
前作を観ている人にはブラウン家の人々があの後どう変化したのか分かるし、初めて観る観客に対しては「こういう変わり者の家族ですよ」というのを分かりやすく紹介していく。
初登場のウィンザー・ガーデンに暮らすご近所さんとの関係の見せ方もとても良い。
「この人達とも多分ドタバタがあって仲良くなっていったのだろうな、、、」と想像を掻き立てる。

このくだりは全てルーシーおばさんへ宛てた手紙の内容をパディントンがナレーションしていくのだけど、パディントンが勢いよくブラウン家の玄関から飛び出す→ご近所さんの自転車の後ろに乗せてもらう→その次に試験勉強中のお兄さんが働くごみ収集車に飛び移る、とナレーションに合わせて、パディントンの移動速度もどんどん上がっていく。
語り口の華麗さと映画内の動きがシンクロしている様な感覚でぐいぐい映画の魅力に引き込まれていく。
しかもこの辺のくだりはラストの見せ場に繋がっていく伏線だらけなのも振り返ると圧巻だ。
要は脚本、編集、音楽などオープニングから数分の流れを観ているだけで映画としてクオリティがめちゃくちゃ高いのが分かる。

飛び出す絵本のシークエンス

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華麗なオープニングが終わって、骨董屋に入っていき今回のパディントンのメインミッションが「ルーシーおばさんに素敵な誕生日プレゼントを贈りたい!」という事が分かる。

ここでプレゼントにピッタリなロンドンの名所を描いた美しい飛び出す絵本をパディントンが見つけ魅了されていく場面の素晴らしさが本当に尋常じゃない。

1作目のパディントンがスクリーンの中に吸い込まれ今はない故郷の森を歩くシーンとかも良かったけど、よりブラッシュアップしてパディントンの優しさと豊かな想像力が伝わってくる素晴らしいシーンになっている。
映画的にはまだまだ序盤で何も起こっていないのに、ここでかなり泣かされてしまった。

おじさんも亡くなり結局ロンドンに来ることが叶わなかったおばさんに、せめてもの想いを込めて絵本をプレゼントしようとする健気なお話し的な感動もあるのだけど、紙の質感や折れ目、そしてページを捲っていくワクワク感、おばさんと二人で飛び出す絵本の中のロンドンを歩いていく姿のビジュアルの愛らしさによるエモーションが凄くてただ見ているだけで涙腺を刺激してくる。

本当は監督が前作に入れたかったけど、予算やスケジュールの関係で実現出来なかったシークエンスだけあり、気合の入り方が違う。

ここが愛らしくて切ないからこそ、ラストのおばさんとの再会の「良かったね、、、」という
感動が尋常じゃない事になっていた。大好き。

刑務所パート

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中盤の見せ場は刑務所のシークエンス。
囚人のみんなそれぞれキャラが立っていて凄く良い。
詳しく罪が語られる人はいないのだけど、おそらく外の世界でも優しさから遠い世界で生きてきた人達なので、パディントンの親切心に少しずつ心を開いていく様子が切ない。
もちろんピンクの服を着ておじさんがお菓子作りに打ち込む様子はコミカルなのだけど、これまで奪ったり壊したりしてきた人たちが、何かをクリエイトする事で思いやりを取り戻していく事に感動してしまう。

最初意地悪だった野生爆弾の川島さんみたいな囚人さんが、お菓子作りの本を読みながら気球で去っていくパディントンにエールを送るシーンで毎回泣いちゃう。

汽車を使ったアクション

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二台の汽車を使ってのアクションシーン、パンフレットのプロダクションノート読んだらマジで線路に汽車を走らせて撮ってるらしく迫力もあり、映画として古典的な楽しさに溢れている。音楽とかでも分かるけど007的な派手な見せ場。
なんといても冒頭で紹介されたブラウン家の人々のスーパースキルが活かされていくのに爆笑。乱暴すぎて伏線回収と言うのも馬鹿馬鹿しいけど最高。

パディントンが水中に閉じ込められるシーンがどうせ助かるとは分かっていても、不安になる間の取り方。サリー・ホーキンスにパディントンが「もういいです」みたいな目線を送る所で毎度泣いてしまう。手を握り合い、パディントンの鼻からもれた空気が上がっていく演出で、何故か分からないけど「パディントンにも死の瞬間があるんだな」と想像して胸が締め付けられる。だからこそ助けに来たナックルズ等の声に「うぉー!きたー!!!」って盛り上がりがハンパではない。分かってたけどまあ感動する。

大団円のラストシーン

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「情けは人のためにならず」を絵的に示してくる様にご近所さんの集合して、おばさんをロンドンに招いてくれるシーン。
その「情けは人のためにならず」で返ってきた良い事すら、決して自分の為ではなく「お世話になった人に恩返ししたい」という誰かの為なのがとても美しい。

おばさんと抱き合う所で、川で溺れたパディントンを初めて掴んだ時の曲が流れる音楽演出で最後にまた号泣。

着地に関しても本当完璧、完璧な映画。

魅力的な登場人物達

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パディントン
ひたすら紳士で可愛い子熊。

人の髪を間違えてバリカンで剃って床に落ちた髪をマーマレードで頭にくっつけながら「いや、旦那、これは整髪料塗ってるだけなんで気にしないでくだせえや」など時々どうしようもない小嘘を付くこともあるけど基本優しい正直者。(ちゃんとその分位の罪は刑務所でしっかり償ってるのが上手いバランス)

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彼の想像力の豊かさが愛おしい。
飛び出す絵本の所はとっても優しい陽性の想像力の拡がりを感じるシーンなのだけど、逆に傷ついた時に思わず故郷の森が目の前に現れる想像をしてしまう所も悲しくて凄く良いシーン。
刑務所で家族が面会に来なくて、みんなに忘れられてしまったんじゃないかと勘違いしてしまい、今はもう地震でなくなった森でルーシーおばさんと抱き合い「帰る場所がなくなった、、、」と告げる切なさ。
彼がどれだけ傷ついているのかこれだけで伝わってきて胸が締め付けられる。あとお話し的にも脱獄への動機づけとしてもバッチリなのがまあ上手いよね。

あと声をやっているベン・ウィショーのQ役でもお馴染みの「冗談通じませんから」的なぶっきらぼうな感じがとてもハマっている。
でも吹き替え版の松坂桃李による優しさ度MAXなバージョンも捨てがたい。
ぜひぜひどっちも観て比べてみて。

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フェニックス・ブキャナン
一作目の悪役であるニコール・キッドマンは過去の生い立ちを考えるとかなり共感出来る敵だったのに対し、最初から最後までサイコパス感が凄い人。
誰とでも仲良く出来る筈のパディントンの慈愛ビームが全く効かない。

役者として自分が演じた衣装を着けたマネキンに話したり、自分の事しか愛することが出来ないパディントンとは真逆の人物。
それなのに承認欲求が人一倍強いのが始末に負えない。

祖父が手に入れられなかった宝物を使ってやりたい事が自分の一人舞台で、やったとしても成功する気が全くしないのだけど本人だけ気が付いていないのが何とも哀れ、、、。

しかもそれをヒュー・グラントが演じているのだから素晴らしい。

色男イメージが強く舐めた印象を持っていたのだけど、過去の栄光に縋り付こうとしている元イケメン俳優という自虐的とも言える役を本当に楽しそうに演じている。
この時期「マダム・フローレンス」でも同じ様な心の奥が見えない役を演じていたけど、こちらも自分のイメージを逆手に取ったような見事な演技だった。

ブキャナン家に飾られている若い時の写真が本物のヒュー・グラントのポートレイトで、どれもあまりにイケメン過ぎて笑っちゃう。肖像画もヒュー・グラント本人がファンから送られてきたものをそのまま飾っているらしくそれも最高。

一作目の悪役であるニコール・キッドマンと違いラストにちょっとした救いが用意されているのが可笑しい&優しい、で凄く好きなバランス。


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ナックルズ
ジャイアンのまま大人になった人で腕っぷしの強さだけで今まで生きてきたような感じ。乱暴者だけどパディントンにマスタード塗られたりフランスパンで叩かれる所は流石にフォロー出来ないので、もっとキレても良かったと思う。

パディントンと一緒にマーマレードサンドを作った時に上手に出来たか不安になり食べた人の反応を聞く前に怖くなって思わず「どうせ、俺は何をやってもダメな人間だ、親父も言ってた」というのが彼のこれまでの人生を少し垣間見る様で切なくなる。

役立たずと言われ続けた彼の人生がパディントンによって変わっていく様子が愛おしい。
「俺の腕は料理向きじゃない」といった彼に「マーマレードを絞るのに良さそうだ」と一瞬で返すパディントンの優しさ。
そんな彼の「腕」がラストのラスト、絶体絶命のパディントンを助けるために振るわれる所ではそりゃあ号泣してしまうのだ。

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ウィンザー・ガーデンの人々
オープニングの楽園的な雰囲気とは対照的に中盤でパディントンがいなくなった後の、みんなのどんよりした雰囲気が観ていて寒々しい気持ちになってくる。
ごみ収集車が駐車禁止で注意されたり、野良犬を捕まえようとしていたり、なんとなく現実を反映した様な冷たい空気感。パディントンがいなくなったことでみんな心に余裕がなくなっている。

だからこそパディントンの為にみんなで協力しておばさんを招待してあげる大団円のラストシーンの幸福感は胸が一杯になる。親切であることで世界は素晴らしくなるよ、と映画の中からパディントンが語ってきているみたい。

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ブラウン家の人々

前作でのパディントンとの出会いによって、それまで抱えていた色んな抑圧から解放され、今回は最初から最後までみんなやりたい放題で最高。

特にお父さんの出世するべく仕事を頑張るのではなく、チャクラ体操で股を開く練習始めて最終的にヴァンダムオマージュに繋がる流れが意味分からな過ぎて爆笑した。というかめちゃくちゃ足長くてスタイル良いんだよ、この人。
あとお母さん役のサリー・ホーキンスのパディントンを見守る優しい笑顔がとても素敵で、本当珍獣が似合う女優さん。


今の時期だからこそ観る価値がある作品

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自分自身がクマだからという理由で全ての人や生き物を差別なく接する事が出来る彼のような存在、今の色々と息苦しい時世だからこそ響いてくる気がする。

暴力シーンや強いメッセージとかは一切なく、本当に軽妙に世界中のどんな年代の誰が観ても彼のそんな優しさを受け入れられる作品になっていると思う。
元々生涯ベスト10に入る位好きな作品ではあったけど、今自粛期間に改めて何度も観てしまう。

パーフェクト。

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