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まわる映写機 めぐる人生の感想(ネタバレあり)

京都みなみ会館で鑑賞。森田恵子監督の舞台挨拶付き。
映画館についての映画でもあるので、みなみ会館のスタッフの人とやりとりしながら映写機についてのお話をしているのが面白かった。

映画が観れない場所でも作品を観れる環境を作ろうと奮闘する人々を日本中色んな場所で撮影したドキュメンタリー映画。
「小さな町の小さな映画館」「旅する映写機」という前二作から続き今作が三作目の位置付けになるらしい。

僕はみなみ会館や出町座などのミニシアターで一日中映画を観てしまう人間なので、商業的な理由からだけではなく良い映画を観られる場を作ろうとする人たちに対し心の底からリスペクトをしている森田恵子監督の姿勢にとても感動した。

前半は明治の時代に初めて国産映画が上映されたという「本郷中央教会」の話や、何十年も野外上映や各地のホールで自分のスクリーンや映写機を持ち込み「移動上映」をする鈴木さんのエピソードや、戦後すぐ17歳で映写技師になり埼玉で63歳まで働き続けた石川さんの日本版「ニューシネマパラダイス」的なインタビューなど、映画を作る側の人からではなく上映する側の人からの目線で戦前戦後の日本の映画史が浮き上がってくる様な感じが面白い。
単純に話をしてくれるご本人達のキャラクターもとてもチャーミングで、そういう人間味を引き出せる森田監督のインタビューが上手いんだろうと思う。

後半にいくにつれ、現在映画の観れない場所で映画を観る環境を作ろうと奮闘する人たちの話が中心になってきて、とても身近な話に感じた。
特に関西に住んでいる映画好きとしては元町映画館の開館までの話や、京都造形大学の学生さんが綾部のかなり田舎の方まで行って映画の上映イベントをやる話など、近くでこんなに頑張っている人達がいるのに驚いた。

そんな感じで色んなエピソードがある中、僕が特に好きなのは「高田世界館」という新潟にある映画館に密着したドキュメント部分で、この映画館では二台の映写機を使った「玉掛け映写」というやり方で毎回上映しているそうな。

ここに登場する久保田さんというベテランの映写技師さんが頼りがいがあるし、とてもかっこ良くて、若い人に映写機の使い方を教える所とかとても微笑ましい。
ここで久保田さんが「「フィルムの裏巻き」というミスがあるから注意してねー」という話を何気なくしていたのだけど、その次のパートの映画監督の大林宣彦監督をゲストに呼んで「転校生」のイベント上映をした際に20年に一度位しか起こらないらしい映写機のベルトが切れるというハプニングと共に最後のフィルムが裏巻きになっているというトラブルが発生する。
ここでの映写室の緊張感が半端ないのだけどドキュメンタリーなのに見事に伏線回収されている感じに笑ってしまう(笑っちゃいけないのだけど)。

でもその後、大林監督がイベント上映後のトークをするシーンで「トラブルがありましたけど、そういう所もフィルム上映は素晴らしいですね」と、とても良い講演してくれる所で胸が熱くなった。

久保田さんは大林監督よりも年上らしいのだけど、あれだけ長年ずっと映画を作り続けてきた人が、映画館でずっとフィルムを回し続けてきた人に対して最高にリスペクトしている感じが感動的。(この大林監督の演説はパンフに全文載っているので購入するのをおススメします)

普段僕はドキュメンタリー映画はほとんど観ない人間なのだけど、感想に書ききれない程、色んな場所で色んな映写に関する話が聞けるのが単純に映画好きとしてめちゃくちゃ面白かった。
改めて映画を上映してくれる人に対して感謝の気持ちを忘れてはいけないと、胸に刻んだ。


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