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アボカドの固さの感想(ネタバレあり)

出町座で鑑賞。
主演の前原さんと監督の舞台挨拶付きで観たけど、前原さんがマジでスクリーンからそのまま飛び出してきた様な存在感で笑ってしまった。

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美しい恋愛映画みたいなポスターと、タイトルのお洒落な感じもあり、なんとなく小奇麗なイメージで観始めたら、ビックリした。

ちょっとおかしい人が彼女にフラれ、更にどんどんおかしくなっていく様子をこちらの感情移入を許さない突き放したトーンで撮っている。
ゲスな性欲含め自らの恋愛体験を赤裸々に作品にしているという意味でこないだ観た「喜劇愛妻物語」とかに近くて、ポスターから受けるお洒落さは皆無。

ただ作りとして面白いのは主演俳優の前原瑞樹さんが実際に体験した失恋を原案を、その失恋話を実際に冷静に聞いてあげてた城真也監督が撮っているというバランス。

演じている本人が実際の失恋をフィクションを織り交ぜながら再現している事になるのだけど、それを映す監督の目線が全く寄り添う気はなくてどこまでも冷静でなんなら突き放した目線にも感じるのが、「喜劇愛妻物語」と違う所。

前原君

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最初のシーンでスミちゃんと映画を観た後、ファンの人が握手を求めてくる所の得意げな彼(彼のファンというよりは出てた映画のファンっぽいのがミソだと思う)と、それを見て「仕込みなの?」というシミちゃんの反応でなんとなく緩いふんわりコメディ映画なのかなぁと油断していたら、そこから少しずつ前原君の狂気が明らかになっていく感じがはっきり怖い。

別の日に呼び出して地下道でシミちゃんに抱きつく所あたりで「あ、やばい人だ」と気づき、ふられてからの右往左往する様子にどんどんクラクラする。女性の監督さんに告白する辺りで「もうやめろ!やめてくれ!前原!」と声が出そうになる(褒めている)あのシーン全部最高だけど「カリッ!」の所で我慢出来ずに笑っちゃった。

ニトリをウロウロしながら大きめのソファーを選んでいる所の、二人で暮らしたい彼の願望があっさり裏切られ、その後のシーンでニトリの中でもかなり安めの一人がけのソファーを購入して上手く作れない描写からラストカットにちゃんと繋がっていく流れが何気に上手い。
「彼女と復縁出来る」とか「俳優として成功する」とか「俳優は諦めて就職する」とか大きな成長や変化を描くのではなく「六角レンチの回し方が分かるようになる」という彼の小さな気づきで映画が終わっていくのが、語り方として上品だと思った。

あくまでスミちゃんとの出会いも分からないし、何故あそこまで前原君が彼女に依存する事になった経緯とか全然語られないので分からないけど、前原くんを演じた前原さんの生身の存在感や(本人なので)、スミちゃんの絶妙な華がある可愛らしさで、2人の関係を実際にあった身近な話としてすんなり受け入れられる。というかあんまりどういう経緯か詳しく知らないけど、というのが人の恋愛話に対してリアルな距離感で見れた感覚。

監督さんの距離感

しかし改めて監督さんの彼を見つめる視線の距離感が面白い。
もう少し彼に寄り添ってしまうと感動したり、喜劇になってしまったりするし、かと言って完全なサイコパスとしても描いてなくて、僕達と同じくこの世界に生きている人というリアルさだけがある感じ。

そういうリアルさを引き立てる細かい日常描写演出がとても上手く感じた。
特に飲み会でのしょうもない話題でどんどん話が流れていく感じや、風俗嬢との会話の異常なリアルさなど、会話劇のありそうな感じが凄まじい。

実際の前原さんに対する距離感も含め、本当に人間観察能力がめちゃくちゃ高い監督さんだと思う。

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そんな感じでかなり変わった恋愛映画だけど、とても面白い作品、久しぶりの出町座だったけど見逃さなくて良かった。

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