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猫とショローと ヤムヤム2021年 第3話 


黒猫玖磨ちゃん


その翌日も、わーはネコクス舎に向かった。
この辺は、昼ごろになると外にヒトがおらんようになる。空高くトンビが舞っているだけの道、寄り道することなくまっすぐに進んだ。
夏が終わって、空が高くなったんちゃうやろか。
やっぱり、家のまわりにはだれもいない。

「こんちは、ちぃちぃ、おるぅ?」

ちぃちぃ

『あ、昨日の茶白がまた来た。今日はまたずいぶん派手な声で鳴いてるわね。ふふふ、くまホームに先回りして盗撮しちゃお』

金網小屋の真ん中に、大きな黒猫がぼうーっと、つっ立っていた。
「なぁなぁ、このおっちゃん、どしたの?」
「あ、今日も来たね。日向ぼっこしてるのは玖磨ちゃん、この遊び場を作らせた猫だよ。だから、ここ『くまホーム』っていうんだ」
ちぃちぃが教えてくれる。

長老・玖磨

それにしても、このぼうーっとしとるじいちゃんがここを作ったって?
どないして、だれに作らせたん?
なんのために?
わーの頭ン中に「?」がわんわん湧いてきた。

「だれか、来ただすな?」
あれ、このじいちゃん、わーのこと、見えないんか?

「ほらこの前から、ビヤーンビヤーンと妙に長―く鳴いてた茶白の子だよ、玖磨ちゃん」
「はぁ~、あの子猫さん、だすか」
玖磨という猫が、わーがいる方にからだの向きを変えた。

「じぃちゃん、なんで目ぇ、見えへんの?」
「お、こりゃ、最初からズバッとした質問だすな。目が見えなくなったのは、そうだすなぁ、たぶん年をとったからだすよ」
「ふーーん、年をとったら、みんな目ぇがみえなくなるん?」
「そ、それはオラにも分からないだすな」
「見えなくなったとき、どんな氣持ちだったん?」
「すこうしずつ見えなくなっていったから、特になにも。ここでは、見えなくて困ることもないだすしな」
「そうなん? そやねぇ、ここは朝夕2回ごはんが出るんやもんね、はぁ」

なんりさんと玖磨ちゃん


『あら、やだ、ワタシ、玖磨ちゃんを午前中からずっとくまホームに置きっぱなしだわ。おとなしくしてるから、すっかり忘れてたわ。
ま、たっぷりお外でお日様浴びて、風に当ったら、今夜はぐっすり眠れるっしょ。
あら、茶白チビが玖磨ちゃんの匂いを嗅いでる。玖磨ちゃん、怒んないね。なら、もう少しあのままにしとこか。
子猫と老猫、いいね。ニンゲンもさ、本来こうあるべきだよねぇ、うん』

今日もいつの間にか、あのおばちゃんが来ていた。
どないしょ、逃げよかな。
も少し様子、見よか。

『玖磨ちゃん、ごめん、ごめん。もうテントに戻ろうね』
おばちゃんはくまホームの中に入ると、玖磨ちゃんをヨイショッと抱きあげた。
くまホームに玖磨ちゃん、
くまくま、「くま」がいっぱいでこんがらかるわ~。

ほやけど、テントってなんやろ?
こっそり見てると、おばちゃん、玖磨ちゃんを部屋の真ん中にある大きな緑色の囲いの中に入れた。
ってことは、あれがテントかいな?
ほんでも、なんで、玖磨ちゃんをあそこに入れるん?

すぐにテントの中から、ピチャピチャ水を飲む音が聞こえてきた。
『ハハハ、玖磨ちゃん、のどが渇いていたね。黒猫は太陽光を吸収しやすいから、体温上がっちゃったんだわね。玖磨ちゃんってば、そういうときは大声で鳴いて、教えてくれなきゃ~』

その夜


その晩は、ネコクス舎の上に、まん丸の大きなお月様があった。
なんでお月さんは毎晩形が変わるんやろ?
それにしても今夜のお月さん、黄色の光が全方向にうぁ~と広がって、いつも倍くらい大きく見えよる。
不思議やな、不思議やな。
くまホーム、テント。
そいからあのおばちゃん、わーを見ても知らん顔で何も言わんかった。
昨日はなんやかや言うてたのに、なんでやろ?

暑くもなく寒くもない、ちょうどいい夜だった。
わーは、かぁやんのところに帰るのをやめにして、くまホーム近くの大きな石の上で寝ることにした。
石のてっぺんに丸い窪みがあって、そこでからだを丸めると隙間なくぴったり収まった。
昼間お日さんが当たってた石のベッドは、夜になっても温かった。
ラッキー、いいねぐらを見つけたわ。

秋の寝床におあつらえ向き


(続く)


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