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日本酒で"KANPAI" 岩手から海外進出を果たした『南部美人』革新の軌跡、久慈浩介著

映画「KAMPAI! FOR THE LOVE OF SAKE」(2015年)は、それまで知らなかった酒造り、世界中でのファンづくりについて、記憶に残るドキュメンタリーでした。

その3つのストーリーのひとつ、岩手「南部美人」久慈浩介社長・杜氏の本があることを知り、読みました。

明治35年創業の酒蔵の長男として生まれた久慈先生は、教師になりたいと思っていた高校時代に米国でホームステイする機会があり、その家族の言葉から日本酒「南部美人」の価値と自分自身のアイデンティティに向き合い、東京農業大学醸造学科に進み、酒造りにかけることを決心します。人との出会いを通じて日本酒をさらに好きになり、実家酒蔵にはいり、さまざまなチャレンジを克服しながら「南部美人」を日本トップの日本酒のひとつにします。

そして、志を同じくする仲間と日本酒のグローバル化に取り組み、世界の「南部美人」へと成長します。東日本大震災を乗り越えて、冷凍配送技術革新を通じていつでも造りたての生酒を味わえる「スーパーフローズン」、醸造酒からジンやウォッカなどの蒸留酒への展開、地域の食や漆器などの特産品との連携、と新しいチャレンジを続けます。

この久慈先生と「南部美人」、地域・業界の人々の想いとチャレンジについて書かれた本は、脳内で映画のように引き込まれていくストーリーでした。

酒造りビジネスにおいて、久慈先生ご自身が「ストーリーを通じたブランディング」を追求されています。

… 当時日本では日本酒はおいしければそれだけで人気がでましたが、海外では違いました。造り手の想いやその酒が生まれる風土、蔵の歴史を含めたストーリーも酒を選ぶ際に重要視されるのです。

「日本酒で"KANPAI"」久慈浩介著 p.20

さらに、このグローバルなお客様のターゲティングと、その期待・体験から逆算(Working Backwards)で、あるべき日本酒を構想して実現したところが、凄い事業家、リーダーだと思います。

… 以下の4つの条件を満たしたノンジャパニーズが、日本酒のターゲット … 「日本が好きであること」、「健康に気をつけていること」、「お金があること」、「ワインを好きなこと」です。…
… 最も肝心なのが「ワインを好きなこと」です。… ワインと同じように知れば知るほど奥深さが分かる日本酒に興味をもち、…

「日本酒で"KANPAI"」久慈浩介著 p.76

… ワインの世界ではテロワールと呼ばれる、ブドウの産地の地理や地勢、機構による特徴など個性がとても重視されます。さらに地元で栽培されたブドウでワインを造るのが当たり前です。しかし、…
… 海外から、なぜ地元の米で造らないのか?と指摘され、とても悔しい想いをしていたのです。

「日本酒で"KANPAI"」久慈浩介著 p.84

… ほかの地域の酒米で造っている「テロワールを語れない酒」では納得してもらえなかったのです。世界で勝負していくためには地元の酒米を使い、「テロワールをしっかりと語れる酒」を造る必要がある …

「日本酒で"KANPAI"」久慈浩介著 p.144

この本を読んで、岩手県二戸を訪れて、里を歩いて地域の人々と産品にふれてみたいと感じました。

わたしは親の仕事で各地を転々として育ったのですが、小学校に上がったのは八戸でした。二戸は岩手県で、八戸は青森県ですが、どちらもその昔は南部氏領で「〇戸」と北へつながっています。東北の「南部」というコンセプトで親近感があります。

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